糸井 | サンデルさんは、 ボストンにお住まいなんでしたっけ? |
サンデル | ボストン市内ではないんですが、 ボストンの郊外に住んでいます。 |
糸井 | 一昨年、ぼくもボストンに行ったんですよ。 なんというか、ほんとに学生の街ですよね。 |
サンデル | はい(笑)。 |
糸井 | 学生じゃない人たちも、 学生みたいな通じやすさがあるというか。 たとえば、実業家でも学者でも なにかひとつのことを伝えようと思ったら、 すっと伝わってしまうような。 同質の人たちのコミュニケーションの速さ みたいなものをとても感じました。 フェイスブックがあの場所から はじまったのも、よくわかる。 |
サンデル | ああ、そうですね。 |
糸井 | いまサンデルさんは、ボストン以外の場所で しゃべることが多いですよね。 「ボストンだったら通じるのになぁ」って 思うことが多いんじゃないですか? |
サンデル | あ、それはちょっと違いますね。 というのも、ボストンでも、 けっこう説明がたいへんなんですよ。 |
一同 | (笑) |
糸井 | ああー、そういうもんなんだ(笑)。 それはとてもおもしろいです。 っていうことは、 サンデルさんがおっしゃってることは、 通じにくいことをしゃべってるんですか。 |
サンデル | まぁ、どの考えを説明しなきゃいけないか によるんですけど。 たとえば、この新しい本 (『それをお金で買いますか 市場主義の限界』) で書こうとしてたこと、 つまり、市場やお金について、 人が暗黙のうちに認めている前提に対して 異議をとなえるようなことに関しては、 反対意見がものすごく多いんです。 |
糸井 | はぁー、そうなんですか。 |
サンデル | たぶん、この本については、 アメリカよりも日本のほうが わかってくださる方が多いという感触があります。 その事実については、いかがですか? |
糸井 | いや、ちょっとびっくりしますね。 |
サンデル | というのは、この本で私は、 市場だとか、お金に、 過剰に期待しすぎる部分に対して、 すごく批判的なんです。 そういった姿勢をこの本で表現したつもりです。 |
糸井 | はい。 |
サンデル | アメリカでは、市場に対する信頼、 お金に対する信頼っていうのが、 非常に高いんですね。 全員が全員というわけではないですけれども、 多くの人に、その傾向があります。 |
糸井 | それは、その‥‥ どう言ったらいいんでしょうかね、 伝わってはくるんですけれども、 ほんとに多くの人が心からそう思ってるのかな、 っていうのが、ぼくらはちょっと よくわからないんですよね。 |
サンデル | ああ、そうでしょうね。 |
糸井 | たとえば、アメリカの映画の中では、 お金を第一に考えるような登場人物は とても批判的に描かれますよね。 なんだけど、その映画に資本を出してるのは、 そういう人たちですよね? |
サンデル | ハハハハハ、そのとおりです。 |
糸井 | そういう循環を、ぼくは、 いつもアメリカを考えるときに、 興味深いなぁ、と思ってるんです。 つまり、お金じゃないんだぜ! っていう映画を お金をかけてお金のためにつくっている。 |
サンデル | それは、すごく簡単な説明ができますよ。 |
糸井 | 教えてください。 |
サンデル | そういうふうに映画をつくると、 いちばん儲かるんです。 |
一同 | (笑) |
糸井 | (笑) |
サンデル | (笑) |
糸井 | そうかぁ(笑)。 お金がすべてって映画をつくっても、 お客は入らないから、お金が入らないんだ。 それは、いい「秘密」だなぁ。 |
サンデル | それは、深いところでは、 お金がすべてだと思ってる人は やっぱりほんとはいない ということなんですよね。 |
糸井 | そうなんだよね(笑)。 だから、ときどき、映画の中なんかで マッサージをして、こう、 たいらに考えれるようにしたいんでしょうね。 |
サンデル | そうですね。 |
糸井 | よく、たくさんのお金を手にした人が、 「大切なのはお金じゃない」って言いますよね。 で、お金持ちじゃない人たちは、 「一回、お金を持たないと そのセリフは言えないんだよ」 って言ったりしてね。 |
サンデル | そうですね(笑)。 |
糸井 | そのあたりのことは、きっといつまでも、 わからないままなんだろうなと思いますね。 |
サンデル | Yeah yeah. |
糸井 | 逆にいうと、まだまだ考える余地は たくさんあるんでしょうけど。 今日はどうもありがとうございました。 |
サンデル | ありがとうございました。 |
糸井 | お忙しいところ、ありがとうございました。 たのしかったです。 |
(マイケル・サンデルさんと 糸井重里の話はこれでおしまいです。 最後まで読んでいただき、 どうもありがとうございました。) |
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2012-08-02-THU |