ほぼ日刊イトイ新聞 ダイヤローグシリーズ 1 株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
建物や家具になるために 息づきながら待っている 石や木との対話


第4回 人間の目。


朝比奈 最大限いうたら、これも
最大限使ってるという感じやね。
これは五条の大橋や。
ほぼ日 ‥‥!! これですか。
五条大橋って、京都の鴨川の
五条通にかかってる、あの‥‥。



朝比奈 そらそうや。
ほぼ日 弁慶のいた‥‥。
朝比奈 そうそう。
ここに、桁があって、梁があって、
この上を弁慶が歩いとったんや。



ほぼ日 これは‥‥800年くらい経ってるんでしょうか。
朝比奈 そやな。
ほぼ日 はははは、すごい。
朝比奈 秀吉か、あのあたりの頃ちゃうかな。
なんべんでも洪水とかあったし、
橋はそのたびに流されてなあ。
これも倒れて、川で横になっとったんやね。
でも、見てみてくださいよ、これ。
ほぼ日 はい。



朝比奈 昔の人って、ようつくってると思うわ。
これ、まっすぐやないねんね。
ほぼ日 まっすぐじゃない?
朝比奈 ふくらんどるねん。



ほぼ日 (じーっと見る)、たしかに、
真ん中あたりが太くなっています。
朝比奈 そうじゃなかったらやね、まっすぐやったら、
この柱がどう見えるか?
まっすぐの柱は細く見えよる。
エンタシスといっしょで、
微妙に、ふくらみを取っとるんや。
昔の人、えらいな、と思うわ。
こうすると、安定感があるように感じる。
ほぼ日 「デザイン」ですね。
朝比奈 そうや、「デザイン」やな。
こんなんもなあ、
ただつくったらええっちゅうもんやない。

「まっすぐ」いうのは、
へっこんで見えよんのよ。
人間の目というのはそうなっとる。
そやから、うちなんかでも、
天井作るとき、まっすぐやないで。
天井板、あんなもんまっすぐ貼ってたらやね、
下がって見えるもん。
そやから、ふくらませてつくる。
ほぼ日 へえ!!



朝比奈 屋根でもそうやで。
屋根もまっすぐにしたら、へっこんで見えるわ。
人間の目っておかしいな。
ほぼ日 屋根もふくらませるなんて
不思議です。
朝比奈 ちょっとだけ、ふくらますねん。
そしたら、柔らかい感じが出る。
いまはまっすぐの家ばっかりや。
あんな屋根、遠くから見たら、へこんで見える。
ええかげんな日本建築であっても、
昔からあるいい家はふくらましとるよ?
みんな、人間の目線を
大事にしとったんちゃうかな。
ほぼ日 昔の人はどうしてそういうことが
わかったんでしょうか。
朝比奈 ねぇ?
ほんまにえらいと思うわ、昔の人は。
よう見たら、まっすぐの建物はひとつもない。
ぜんぶ、ふくらましたり、反らしたりしてる。
京都の屋根でもどこでもそんなん、
まっすぐな屋根はないわ。
最後、決めるのは
「目」や。




ほぼ日 目で。感覚で。
朝比奈 そやな。
やっぱりそうしたほうが
よく見えるんやからな。
ほぼ日 そうですね。見るのは人間ですからね。
朝比奈 そやねん。
いくら寸法的に合うてるいうても、
それが引っ込んで見えよったら、あかんことや。
最後は人間の目の感覚や。
覚えとかなあかん。
ポスター貼るときかて、そうやろ。
定規なかっても、ちょっと遠くから見て
「こっちが下がってる」
って、わかるやろ。
あれが大事なんや。
人間の目って、大事やと思うわ。
ほぼ日 定規より目が大事‥‥。
朝比奈 ほんまやで。
これも、嘘かほんとか知らんけど、
天正‥‥13年。



ほぼ日 天正13年。
朝比奈 えーっと、安土桃山時代か。
ほぼ日 これはいったい何だったんでしょうか。
灯篭ですか。
朝比奈 灯篭や。
与次郎作。これが作者の名前やね。



ほぼ日 辻与次郎‥‥。
こういった灯籠や石を
もしもいま、自分の家や会社に置いたとしたら、
時間ごとぜんぶが、
その場にやってくるような気がします。
朝比奈 そやから、昔の京都の映画俳優さんとか、みな、
こういう石を庭に置かはったんや。
想像をめぐらせて
たのしんではったんやな。
ほぼ日 想像かぁ。
ひとつの素材がいろんなものを
そこに運んでくる‥‥。
朝比奈 こういう薄い石がぽつんとおいてあったって、
それは単なる庭石ではない。
昔の柱を支えていた礎石や。
ねえ?
何十メートルの柱が立ってたんや、と
思いめぐらすことができる。



(つづきます)


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2012-09-25-TUE


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