ほぼ日刊イトイ新聞 ダイヤローグシリーズ 1 株式会社三角屋 朝比奈秀雄さんの場合
建物や家具になるために 息づきながら待っている 石や木との対話


第5回 カーブの木。
朝比奈 これは琵琶湖で使われてた船の、
船板の底の木や。



ほぼ日 この木は何にしてくれと言っているでしょうか。
朝比奈 テーブルか、床板か‥‥天井板では重いな。
近江八幡の昔の家は、
土蔵の漆喰を保護するために、
こういう船板を壁面に貼ってる。
それも、再利用みたいなもんやな。
ほぼ日 へぇ、そうなんですか。
朝比奈 もったいないからやと思うわ。
船に穴があいてきて
新しい船につくりかえるときに、
古い船をどう利用しようかと考えるのは
当然のことやろ。

ほんまは新しい壁を
つくったほうがええもんね、そら。
そやけど、この味は出えへんわな。
ほぼ日 そうですね。



朝比奈 長年経たんと、こんな味は出えへん。
この船はおそらく、
漁業に使われてなかったんやないかと思う。
魚とるには、ちょっと幅が広い。
こいつは琵琶湖で
農機具や藁、葦を運んだんとちゃうかな。
そやから、こういう幅広い
船底なんとちゃう?
琵琶湖の水際の沼地は、漁業以外でも
船がなかったら何にもできへんからね。
ほぼ日 この木は、実際に使えるまで
どのくらい乾かすんですか。
朝比奈 2、3年置かなあかん。
乾かして、掃除して、きれいにしたったら、
すごいテーブルになる。
ほぼ日 船底の木が、時を経て
手間をかけて、豪華なテーブルに。
朝比奈 そら、すごいで。
売ろうと思ったら
もう、100万とか、そういうテーブルに
なってくると思うわ。
ほぼ日 この木は‥‥。
何ですか。



朝比奈 曲がった木やん。
ほぼ日 曲がった木。
朝比奈 急斜面に生えとったんや。
ほぼ日 あ、なるほど。
木は太陽に向かって伸びるから、
急斜面であれば
上に向かって曲がりますね。
朝比奈 こーんな、急斜面、なあ?
ほぼ日 すごいなあ。
朝比奈 人間でもそやけども、
やさしい平地に立っとったら、まっすぐやろ。
そやけど、これは険しい、
よっぽど急斜面のところに立っとったんや。
ほぼ日 根元がきれいな丸になってます。



朝比奈 そやねん。
これは、こういうかたちの
曲がった手すりにしようと思ってる。
そしたら、木を強制的に曲げるのとは違う
手すりができるやろ?
ほぼ日 そうですね、
木を曲げてつくるのとは違う。
朝比奈 わけが違う。
せっかくこうやって曲がってるんやから、
そういうふうに使ってやらな。
ほぼ日 これもみごとにカーブしてます。



朝比奈 うん。これは、
こういう門ができたらなと思って。
ほぼ日 門。アーチのような。
朝比奈 かまちのようなやつね。
滅多にないやんか、こんな木。
丸い入口があってもええんかなと思って。
ほぼ日 いつか、そういう入口をつくるときに。
朝比奈 そう、いつかね。
何に使おうかなあ、と思いながら、
みんな取ってある。
ほぼ日 こっちには、また、石がたくさんありますね。
朝比奈 あれは電車石いうてね。



ほぼ日 線路にあった石ですか。
朝比奈 昔、京都には市電が走っとった。
それに使われてた石や。
電車の車輪で削られて、味わいが出とる。
このへん、たまに蛇おるから、気つけてください。
ほぼ日 はい、わかりました。
朝比奈 切ったばかりの、新しい石って
こんなんやんか。



ほぼ日 わ、ちがう。
朝比奈 そやろ。こんな石がやね、
あんなザラザラになろうと思ったら、
何百年か、かかる。
ほぼ日 はい。



朝比奈 新しい石の上に、
なんぼええ木が乗ってきても、あかん。
古い石の上に家や柱が立つのと
新しい石の上に立つのと、
どっちがよう見えるかということや。そやろ。
それだけのことや。
それだけのことやわ、ほんまに。

(つづきます)


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2012-09-26-WED


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