(対談会場に、先生の専門であるゴリラの置き物をご用意して、
山極先生をお迎えしました)
- 山極
- いやぁー、このゴリラはすごいなあ。
すごくよくできてます。
思わず写真を撮らせていただきました。
- 糸井
- 悪くないでしょう。
- 山極
- はい、すごいですよ。
糸井さん、これはマウンテンゴリラなんですが、
なぜ私がマウンテンゴリラと言えるか、わかりますか?
- 糸井
- うーん‥‥。頭のコブとかですか?
他にはローランドとか、
そういう区別がありますよね。
- 山極
- ゴリラの種(しゅ)は、
ニシゴリラとヒガシゴリラに分かれています。
ニシゴリラの中には、
「ニシローランドゴリラ」と
「クロスリバーゴリラ」がいて、
ヒガシゴリラの中には、
「マウンテンゴリラ」と
「ヒガシローランドゴリラ」がいます。
まず、これがニシゴリラでないと
断定できる特徴というのが、
鼻の穴の間にある鼻柱(びちゅう)が
切れていない、ということなんですね。
鼻柱がつながっている。
それが、ヒガシゴリラの特徴なんです。
- 糸井
- うおー‥‥。そこですか。
- 山極
- それから、「ヒガシローランドゴリラ」と
「マウンテンゴリラ」の違いなんですが、
ヒガシローランドゴリラは、
鼻の上にある鼻紋(びもん)がほとんど見えない。
- 糸井
- ほう。
- 山極
- 鼻紋がきれいに見えるというのは、
マウンテンゴリラだけなんです。
そして、腕の毛がムクムクしているのも
マウンテンゴリラの特徴です。
はい、これは疑いなくマウンテンゴリラです。
- 糸井
- ああ、なんだかだいじな気がしはじめた。
- 山極
- それと、バナナを置いてくださったんですが、
野生のゴリラというのはね、
こういう黄色くて甘いバナナを食べないんです。
チンパンジーは食べますが、ゴリラは食わんのです。
バナナのね、茎を食うんです。
- 糸井
- おっ‥‥ほほほほ(笑)。
いちいちおもしろい!
- 山極
- もちろん、動物園にいるゴリラはバナナ食べますよ。
バナナはおいしいですから。
でも、黄色いバナナにはまず巡り合わないの。
マウンテンゴリラが住んでいるところにも、
一応バナナはあるんですが、
エンセーテバナナといって
食べられるような実がならないバナナなんです。
- 糸井
- はあ、そうですかあ!
- 山極
- 茎がものすごく太いんですよ。
その茎が水を含んでいておいしいから、
茎をバキバキッと割ってね、
その中にある髄を手で取って食べるんです。
- 糸井
- はあぁー。
- 山極
- ニシゴリラにしても、
そのまま食べられるバナナじゃなくて、
煮たり焼いたりして食べるようなバナナなんです。
だから、実がなる前に茎を倒して、
茎の髄を食っちゃいますからね。
黄色いバナナを食うってことは、基本的にはない。
- 糸井
- ああそうか、間違いだったんだ。
- 山極
- バナナは間違いなんです。
- 糸井
- これは、間違いとしておもしろいね。
さて、今日はわざわざ京都から
お越しいただいてありがとうございます。
もうね、申年だから山極先生を呼ぼうということで、
どこから話してもおもしろいんですが、
まずは、「総長」という名刺の話をしようかな。
山極さんが総長になるということが、
おもしろいアイディアだなぁと思ったんですけど。
たぶん、ご自分から総長をやりたいと
立候補するような人ではない気がするんです。
- 山極
- まったくその通りです。
総長になりたくなくて、
最後までジタバタしてました。
- 糸井
- そうですよね。
このアイディアはなんだったんですか。
誰かが、山極さんを総長にしようという
アイディアを出したわけですよね。
- 山極
- いや、そうじゃないんです。
京都大学では、総長予備選挙というのをやるんですが、
それは病院の看護師さんも含めた
大学の職員ほぼすべてが投票するんです。
- 糸井
- 誰にも可能性があるわけですね。
- 山極
- そのときに私が2番めにランクされて、
そのときの上位10名に
所信表明をA4一枚に書けと
お達しが来るわけです。
私はそれを断ったわけね。
総長になりたくないし、書きませんと。
- 糸井
- その段階で断ったんですね。
- 山極
- そう、断っていたわけ。
そしたらね、使者がやってきて、
「山極さん、こういうものを断ったら
後ろから刺されますよ」って(笑)
- 糸井
- ‥‥くっくっく(笑)。
- 山極
- とにかくなんでもいいから所信表明してください、
ってもうしつこいから、ああ、わかったよと言いつつ、
総長には選ばれないと思うことを書いたわけです。
こいつはいい加減なヤツだなーと
思われるようなことばっかり書きました。
他の候補者はみんなスーツにネクタイなんだけど、
僕だけ、京都市動物園の
腕章を巻いて撮った写真を出して。
- 一同
- (笑)
- 山極
- それで、2回めの選挙というのが
その1ヵ月後にあるんですけど、
よもや選ばれまいと思っていたんですね。
だから自分も選挙には行かないし、
東京に出てきて、とある研究会に出ていたんです。
そしたら、トップにまで選ばれちゃったから、
決選投票になるっていう。
でも決選投票なんて言われても、
東京にいた僕はもちろん行けませんわな。
- 糸井
- 腕章を巻いた写真なのに!
- 山極
- なに考えてるんだと思いましたよ。
決選投票の結果も知らされないまま連絡が入って、
明日、総長選考会議のヒアリングが
何時にあるんで帰って来なさいというから、
しょうがないんで帰りました。
でも、京都に帰ってヒアリングに出てみたら、
もう僕ひとりしか残ってないんです。
「え?なんで、もうひとりは来てないんですか」
と言ったら、
「けっこう大差だったから信任だけにしたんです」
という話でね。
- 糸井
- へっへっへ。
- 山極
- 総長選考会議の中で、
あなたは総長になったら何をしますかとか、
いろいろ訊かれたけどね、
答えることなんて、なにもないわけです。
でもすぐね、総長に決まりましたって
議長がやってきて記者会見ですよ。
私はなんの用意もしてないからね、
どうしようと青ざめながら適当に受け答えをして。
そうしたら、記者会見の最後にね、
「山極総長、座右の銘は?」
とかって訊かれるんですよ。
- 糸井
- くっくっく(笑)。
- 山極
- 困ったなぁ‥‥と思ってね。
頭が真っ白になっていたんですが、
パッとゴリラの顔が浮かんで、こう答えました。
「ゴリラのように泰然自若というのが座右の銘です」
- 一同
- (笑)
- 山極
- もうそこまでいったら断りようがなくて、
しょうがないから、
性根を据えて総長をやっておりますけど、
もう、まったく新しい世界ですよ。
- 糸井
- でも、遠くから見ていると、
山極先生みたいな人が総長になるということが
とても愉快なニュースに聞こえました。
これからはそういう風にならないと
ダメなんだろうなとも思うんですよ。
- 山極
- うーん‥‥。
大学が法人化して以降、京都大学だけじゃなくて、
大学全体がギクシャクしてきた状況を打破したい。
なんかちょっとおもしろいことを
やってくれる人いないかな、って思っていて、
あえてヘンなことやったらどうだろう。
よし、こいつを総長にしてやれみたいな気持ちが
ちょっと働いたんじゃないかな。
- 糸井
- してやれって(笑)。
(つづきます)
2016-01-01 FRI