- 糸井
- 総長になりたくないところから始まって、
それでも、もう1年が経つんですね。
- 山極
- 1年ちょっとが経ちましたね。
ただね、総長になったときに、
もうこれは全学体制にしようと思いました。
執行部の理事は総長の判断で選べますが、
総長選挙で残った10人から何人かを選んで、
いろんな部局から
代表人が出てこられるような組織にしたんです。
だから、私の仲間で選んだ人は1人もいません。
みんなで京都大学をよくするために
一緒にやりましょうということで始めました。
- 糸井
- はぁー。最初から多様化させたわけですよね。
- 山極
- そうです。
途中で私は「大学はジャングルです」なんて言ってね。
ジャングルと大学はよく似てるんですよ。
- 糸井
- そういう場所だから、山極さんが
選ばれたんだろうなって思っていました。
- 山極
- でもふつうの人は、そんなイメージしませんよね。
なぜ、ジャングルと大学が似ているかっていうと、
ジャングルというのは陸上の生態系の中で、
生物の多様性が最も豊かなところです。
大学にもいろんな種類の人間がいる、
いろんな分野の学者がいるということでは、
社会で一番多様性が高いところですよね。
多様でありながら、それぞれの学者たち、
あるいは、ジャングルの生物たちは、
ほかの生物のことを、
きちんとわかってるわけではありませんよね。
- 糸井
- ああ。
- 山極
- でも全体で、「大学」という生態系の
調和が取れているんですね。
これも、ジャングルと一緒なんですよ。
- 糸井
- うんうん。
- 山極
- ジャングルというのは、
それだけで成り立っているわけじゃなくて、
外からの力も必要なんです。
太陽と水がなければジャングルは成り立たない。
大学も同じで、お金がなければできないし、
世論の支持がなければできないから、同じだろうと。
- 糸井
- うんうん。
- 山極
- でも、ジャングルの中には
総長なんていないわけですよ。
「ジャングルの王者」なんて言ってるけどね。
- 糸井
- 総長はいないなあ、ジャングルには。
- 山極
- だから大学にも、もともと総長なんて必要なくて、
私は、生態系をうまく運営させるよう
調和に心掛ければいいんだと思いました。
生態系を失わないように
努力をすればいいんちゃうの、とね。
いま、総長からのトップダウンで
いろんな上意下達をやれという動きがあるんだけど、
必要なのはボトムアップでしょう。
いろんな人たちが自分の分野で能力を発揮して、
世界一だと思ってくれたらいい。
そういう人たちが切磋琢磨することで、
新しい種が生まれるんです。
ジャングルという場所は、
どんどん新しい種が生まれるところですから。
最初から上の言うことを聞いて働くんじゃなくて、
それぞれが勝手にいろんなことを考えながら、
アイディアがぶつかり合って、
新しい何かが生まれる、それが大学です。
なので総長は、猛獣使いでなければいかんだろうと。
- 糸井
- 自分が猛獣じゃなくて‥‥。
- 山極
- いやあ、私は猛獣じゃないですよ。
私はゴリラの群れの中に入るために、
一所懸命ゴリラの真似をして、
おべっかを使いながら入っていった男なんです。
ゴリラを押さえつけて、
餌付けをして入っていったんじゃありません。
ゴリラには自然な振る舞いを発揮してもらい、
それを近くで見させてもらうために、
ゴリラと仲良くなったわけですから。
- 糸井
- はあ、なるほど。
- 山極
- だからまぁ、大学もそうだと。
アメとムチで、なんてことは絶対にできない。
ムチもアメも使ってはいかんですね。
- 糸井
- それは、僕も理想とするところです。
僕は総長選挙の制度とかを知らなかったもんですから、
山極さんを総長にしようということを、
誰かが計画したのかと思っちゃっていました。
- 山極
- ぜんぜん。
- 糸井
- たしかに大学はジャングルみたいだなぁって、
いい考えをする人がいるんだなぁと
思っていたんですよ。
- 山極
- おかしな話ですよね、ほんとに。
- 糸井
- 自然発生だったんですねぇ。
あの、山極さんといえば、
まるで自分が見てきたかのように
僕が人に自慢する話があるんです。
それは、山極さんがゴリラに抱かれたという。
ゴリラに抱きしめられたときに、
やわらかくて、ふわーっとしていたと。
その話を人にするだけで気持ちがいいんですよ。
- 山極
- うん、うん。
ふつう野生動物に抱いてもらったなんて
なかなかいないでしょう?
- 糸井
- ないと思う。
- 山極
- まあ、ペットはあると思うけど。
- 糸井
- そうですね。お互いに抱き合う形なら。
でも、力の強いゴリラが、
うまく加減をしながら抱擁を‥‥。
- 山極
- あれはね、雨が降ってきたときです。
マウンテンゴリラも雨宿りをするんですよ。
マウンテンゴリラの生息域には、
ハゲニアという大木がにょきにょき生えていて、
そこに洞(うろ)があるんですね。
- 糸井
- はい。
- 山極
- そこに雨宿りをしに、ゴリラが入るわけです。
私もそういう洞を見つけて入っていたら、
タイタスという若いゴリラがやってきた。
- 糸井
- 名前もいいですねぇ、タイタス。
- 山極
- タイタスが僕のそばに隙間がないか見ていたんです。
でも隙間がなくて、しょうがないからって入ってきて、
僕にのしかかってきたんですよ。
- 糸井
- はあー。
- 山極
- こっちも出るわけにいかないし。
タイタスは僕を抱きかかえたまま、
僕の肩の上にアゴを乗せて寝ちゃったんですよ。
- 糸井
- たまんないですねぇ。
- 山極
- そしたら、心臓の鼓動が聞こえてきました。
ゴリラって、あったかいんですよ。
体温は人間より高いと思いますね。
- 糸井
- はあー。
- 山極
- しかも、毛があるでしょ。熱いんですよ。
- 糸井
- そうか。厚手のウールを着ているようなことですね。
- 山極
- こっちは熱くてしょうがないからね、
腕をつねってみたり、ぽんぽんと叩いてみたりね。
- 一同
- (笑)
- 山極
- サルってね、毛でふさふさしてるから
腕も大きく見えるんだけど、
水をかぶると、みすぼらしくなっちゃうんですよね。
ゴリラもすごく太そうな腕をしているけど、
毛がふわふわしている分、
じつはあまり太くないのかなと思っていました。
それで、手をこう触ってみると‥‥太いんですよ。
- 糸井
- 中までちゃんとある。
- 山極
- ええー、やっぱり太いんだぁ、と思ってね。
- 糸井
- ふだんは、わからないんですか。
- 山極
- ふだん、あんまり触れないですからね。
でも、お腹なんかは触らせてくれて、
お腹、ポンポンって叩いたり。
ゴリラのお腹って、硬そうに見えませんか。
- 糸井
- はい。
- 山極
- でもね、ぐにゃぐにゃなんですよ。
- 一同
- ええーっ!
- 糸井
- お相撲さんみたいなことかな。
- 山極
- お相撲さんは触ったことないなあ。
- 糸井
- お相撲さんって、
ぶつかったときには硬いんですけど、
触ればやわらかいんだそうです。
- 山極
- そうなんですか。
- 糸井
- 猪木さんとかの筋肉もそうだそうです。
- 山極
- へぇー。
- 糸井
- ぐにゃぐにゃに思えるんだけど、
グッと力を入れたら、バッと固くなる。
- 山極
- ああ、そうですか。じゃあ、同じですよ。
- 糸井
- 同じですね。質のいい筋肉なんでしょうね。
(つづきます)
2016-01-02 SAT