『さよなら群青』の色と匂いをほぼ日で  さそうあきら×糸井重里
第7回 切り株の色気
糸井 さそうさんに影響を与えたものって、
当然いろいろあるとは思うんですが‥‥。
さそう はい。
糸井 『さよなら群青』に、
『まんだら屋の良太』を感じるのは
まちがってますかね。

※『まんだら屋の良太』(1979〜1989年)
 畑中純著・実業之日本社刊。全53巻。
 九州にある架空の温泉旅館、
 まんだら屋で巻き起こる風俗青春劇。

さそう あー、じつはぼく『漫画サンデー』で
ずっとアルバイトしてたんですよ。
『まんだら屋の良太』を連載している時期に。
糸井 そうなんですか!
さそう 畑中純さんにお会いしたことはないんですが、
『まんだら屋の良太』は読んでました。
すごかったです、毎週24ページで、
しかも最初にカラーが入ってて、
表紙が版画だったりするんですよね。
編集の
かた
すごいですね。
糸井 とんでもないですよね。
で、必ずおもしろいんですよ。
さそう そうですね、
やっぱり影響を受けてるのかもしれないです。
糸井 なるほどぉ。
いや、『まんだら屋の良太』の中にある、
女の人たちの、こう、
エロティック具合を、
『さよなら群青』で思い出したんですよ。
さそう そうですか。
糸井 テレビのドラマもそうなんだけど、
いまは女性のからだの表現がみんな
ファッションモデル出身みたいになって。
どんどん細くなってきて、
顔が小さいとホメられるようになってますよね。
もっと、こう‥‥
お尻の太さだとかさ、
ウエストがくびれてない女体みたいなね、
「おれはこれが好きなんだ!」を描いてよ!
って漫画家たちに言いたいです、ぼくは。
さそう (笑)
糸井 その点、『さよなら群青』には
いろんな女性の肉体が出てきますよね。
さそう 潮くさい海女小屋という場所に
ワーッと女たちが集まるわけですから、
やっぱりそこにはいろんな肉体があるので。
でも、ちょっとダブついた肉体とかって、
逆に難しいんです、描くのが。
糸井 そうでしょうね、たいへんだと思います。
さそう まあ、でもたいへんっていうことなら、
『まんだら屋の良太』の畑中さんは
アシスタントなしで
ぜんぶひとりでやってたんですよね。
描き込みが毎回すごいうえに、
表紙を版画で彫っちゃうこともあるんですから。
糸井 ああ‥‥
掘らずにはいられなかったんでしょうねぇ。
さそう 「読者に対する効果」というよりは、
そうしないと気がすまなかったのかもしれない。
糸井 ‥‥うん。
読者に伝わるときのことを考えて、
「ニヤッとすることもあるんでしょ?」
というようなことも言いましたけど、
結局はやっぱり、
「伝わろうが伝わるまいが構わない」
に行き着くんですよね。
さそう それはどういう‥‥?
糸井 先日、吉本隆明さんが、
「伝わろうが伝わるまいがいいんですよ」
っていうことをおっしゃったんです。
「その存在が現れているかどうかです」と。
さそう 存在が現れている。
糸井 つまり、
「技術の良し悪しは枝と葉っぱで、
 人はやっぱり根っこを感じているんだよ」
っていうことです。
ものすごく音痴でも
その歌に人が感動するっていうことはある。
さらに言えば、
「感動なんかしなくたっていい」
というところまで本当は言えるんじゃないか
っていう話を吉本さんから聞いたんです。
さそう そうですか‥‥。
糸井 通じるっていうことは、
「おまけ」にすぎない、と。
言葉だとかドラマだとか
「わぁ、おもしろい」
という部分は本当はどうでもいい、と。
芸術のいちばん重要な部分は、
「存在に対して存在が感動していること」
っていうのを、もう、
吉本さんは言っちゃってるんですよ。
たしかにそうじゃないと、
「踊り」なんかは鑑賞できないですよね。
「この踊りは戦争からの抑圧を意味してます」
みたいな、そういうことを言う人もいるけど、
そんなの関係ないじゃないですか。
さそう はい‥‥たしかに。
糸井 枝や葉っぱじゃなくて、根っこなんです。
さそうさんは
根を生やしているタイプの漫画家なんですよ。
編集の
かた
ああーーー。
糸井 読者に届くまでに時間がかかる。
遠くにボールを投げてるみたいだ。
これは、根を生やしているからなんです。
だから花や実が欲しい人には、
切り株にしか見えないのかもしれない。
でも、切り株の色気ってあるじゃないですか。
編集の
かた
なるほど、はい。
糸井 『さよなら群青』は、
その吉本隆明さんがおっしゃってた領域に
なんかポーンと生み出された
作品のような気がしたんです。
この、皮膚の薄さが‥‥。
編集の
かた
あの‥‥その「切り株の色気」を
やっぱり私たちは、
いろんな人にわかってもらいたいんです。
糸井 ええ、わかります。
それが役割ですからね。
編集の
かた
「おもしろいんだよ」って知らせるには
どうしたらいいかわからなかったんです、
とてもむずかしくて。
糸井 いや、そうですよね。
編集の
かた
そこで糸井さんに、
帯のことばをお願いしたわけで‥‥。
糸井 商品としてぼくがコピー書くとしたら
やっぱりこれはむずかしいんです。
でも、友だちにすすめるんだったら、
「いい歳してドキドキしたよ」でいいんですよ。
編集の
かた
‥‥ああ〜。
糸井 ぼくがもしこれから先、
道ならぬ恋をしたとしたら、
それは『さよなら群青』のせいだよ、と(笑)。
さそう 光栄です(笑)。
  (つづきます)
2010-04-27-TUE
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