糸井 |
大学の先生をやられていることについて
ちょっとうかがいたいのですが、
どのくらいお続けになっているんですか? |
さそう |
ええと、2006年からなので、
4年になりますね。 |
糸井 |
そのことは、マンガを描くことの
邪魔にはならないんでしょうか。
具体的には、忙しくなりますよね? |
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さそう |
ええ、でも、やってみたら
ぼくはなんだか教えることが
けっこう好きなんだと思いました。 |
糸井 |
そうでしたか。 |
さそう |
方法論みたいなものを
いろいろ考えるのが好きなんですよ。 |
糸井 |
はい、はい。 |
さそう |
経験を教えるというよりは、
「こうやればもっとうまくなるかも」
ということを伝えてみるというか‥‥
エラそうなんですが(笑)。
まあでも、そうやってると、
「自分もやらなきゃ」と思えてくるんです。
学生の進歩だけじゃなくて、
自分も上に進めるんじゃないかと。 |
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糸井 |
いや、それはもしかしたら、
だれでもそういうところがあるんですよ。
どういうことかというと、
さっきまでぼくは家にいたんですね。
テレビをみてたら『徹子の部屋』に
市川染五郎さんが出てたんです。 |
さそう |
あ、そうですか。
うちの嫁さんがすごいファンなんです。 |
糸井 |
へえー(笑)。 |
さそう |
追っかけみたいなことをやるくらいのファンで。 |
糸井 |
すばらしいじゃないですか(笑)。
いや、かっこいい人ですからね。
で、その『徹子の部屋』をみてたんですけど、
染五郎さんという人もけっこう、
自己分析をするところがあるんです。 |
さそう |
そうなんですか。 |
糸井 |
とても冷静に、方法論としてこう、
腑分けをするように自分を分析して、
「どこを取ってどこを捨てる」
みたいなことを絶えず考えてるかたなんですよ。
さそうさんの自己分析と同じように。 |
さそう |
そんな(笑)。 |
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糸井 |
以前、染五郎さんにお会いしたときに、
「そうか、この人は
先生だらけの中に生きてるんだ」
と思ったんです。
ひとつの芝居をやるにあたって、
それを得意としている先生に聞きにいくとか。
つまり歌舞伎の世界って、
先生だらけなんですよ。 |
さそう |
なるほど、そうなんでしょうね。 |
糸井 |
さっきテレビをみながらそれを思い出して、
「先生だらけの世界にいる人は伸びがすごいな」
ってつぶやいたら、
近くにいたうちの妻が、
「しかも教えるしね」って言うんです。 |
さそう |
ああー、はい。 |
糸井 |
「役者同士でそんなことはない」
って言うんですよ。
教えて教えられて
若い人を育てていくのは、
歌舞伎がやっぱりすごいですよね。
「伝えたり教えたり」は、
その人を伸ばすなぁって。 |
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さそう |
はい。
それはほんとうに、そうですねぇ。 |
糸井 |
うん。 |
さそう |
ぼく自身、大学で先生をやる前は
ずっとひとりでやってきたので
まったく伸びませんでした(笑)。 |
糸井 |
実感としてあるんですね(笑)、いいなぁ。 |
さそう |
大学に行ったら、
とうぜんですが先生がたくさんいらして。
みなさんの方法論に触れることができますから
学ぶことは多いですね。
歌舞伎界ほどではないにしても、
ぼくにとってはそれこそ、
先生だらけみたいな状態です。 |
糸井 |
おもしろい先生がいっぱいいらして。 |
さそう |
ええ、これまで思ってもみなかった人と
会うことが多くなりました。 |
糸井 |
いいですねぇ。 |
さそう |
だからもう、
この4年のぼくの伸びしろというのは(笑)。 |
糸井 |
すごいぞ(笑)。 |
さそう |
と思うんですが(笑)。 |
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糸井 |
生徒さんからも刺激を受けますか。 |
さそう |
それもありますね。
学生が毎年70人くらい入ってくるんですけど、
それなりの競争率を勝ちあがってくるので
みんな絵がめちゃくちゃうまいんですよ。
で、そういう生徒たちは、
だいたいみんな発想も絵からなんです。 |
糸井 |
あ〜、そうか。 |
さそう |
自分とぜんぜんちがう発想で
描いてるのがわかって、
それだけでもすごくおもしろいですね。 |
糸井 |
どっちもありですもんね。 |
さそう |
ええ。 |
糸井 |
先生として「どっちもあり」だ
っていうことを教えるわけでしょう? |
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さそう |
そうですね。
その上で、やっぱりみんな
お話作りがすごくネックになってしまうので、
ぼくとしては
反対の道筋を教えられるのかな、と。 |
糸井 |
ストーリーからつくる方法を。 |
さそう |
ええ、どうやって組み立てていくか、
みたいなことを。
まあ、なかなかむずかしいのですが。 |
糸井 |
じゃあ先生をやっていることは
邪魔になってるどころか、
自分の役に立ってるっていう感じなんですね? |
さそう |
もう、はい。
完全にそうですね。 |
糸井 |
そうかぁ‥‥。
さそうさんの無意識に、
『さよなら群青』というものをやらせた何か
というものの中に、
「先生」ということも混ざってるんでしょうね。 |
さそう |
おそらくは。 |
糸井 |
いや、ちょっと横道にそれましたけど、
このお話はうかがっておいてよかったです。
(つづきます) |