第2回 デザインのプレゼンテーション
ほぼ日 卓さんは、作ったデザインを
企業にプレゼンテーションするとき、
どういう方法をとっていますか?

感性の言葉は使わないようにしています

佐藤 むずかしい言葉は、できるだけ、
使わないほうがいい、と注意しています。
それから、
感性の言葉も、極力、
使わないようにしよう
、と思ってます。
「キレイです」
「かっこいい」
「美しいです」
そのたぐいの言葉は、相手がデザイナーで、
共通言語として感性の言葉が機能するなら
使いますけれども、
そうでない場合には使いません。

それは、なぜかと言うと……。

おなじものを見て、
自分がキレイだと思っても、
相手がキレイだと思わなかったら、
その段階で、
コミュニケーションは、断ちきられるわけです。
「これ、カッコイイと思います」
と言うデザイナーもよくいますが、
感性の言葉は、
受けとめる人もおなじ感性を持たなければ、
会話が、なりたたなくなってしまうわけです。

感性がおなじという人は……
じつのところは、ごくごく稀なわけです。
感性が一致する、
ごくわずかな人とだけしか
仕事ができない状況になってしまえば
デザイナーとしての
「職能」が、うたがわれてしまう

と、ぼくは思います。

デザインの世界の言語を理解しない人とも
どれだけコミュニケーションがとれるのか、
ということが、
プロフェッショナルとしては重要なことです。
だからぼくは、
感性の言葉はほとんど使いません。

「これが、カッコイイと思います」

「でも私、カッコイイと思わないんだけど……」

そうなったら、あとは、デザイナーが、
「私の言うとおりにしてください」
と、押しきるだけになってしまいますよね。

押しつけるだけなら、それは、
コミュニケーションとは言えません。
万が一、商品のかたちにまで
こぎつけたとしても、
成功しても、失敗しても、
「カッコイイと思わなかった人」には、
結果の理由が、とらえられなくなってしまう。

すると、仕事としては、
「その後」がなくなる。

コミュニケーションが成りたたないのだから、
当然、仕事は、つづいていかなくなりますよ。

相手の話をきくためのプレゼンテーション

佐藤

「感性の言葉を使わないこと」
は、すごく重要なんです。

感性を、職能にしているからこそ、
感性でないところで
「なぜ、このデザインなのか」と、
言葉を共有していかなければならないのです。

相手に言われたことがわからなければ、
「わからないです」
と、ちゃんとききなおして、
仕事のはじまりには、まずは、おたがいに
話していることを理解しあいますよね。

その次には、
「どれだけ、相手の話をきいてゆくか」
が、重要だと思っています。
単純に言えば、
思ったり考えたりしていることを
ぜんぶ伝えていただく。

たとえば、
自分の提案したデザインについて
思うことは、できるだけ、
ぜんぶ吐きだしてもらいたいと思います。

相手が話す "10" のなかで、"9" を、
こちらが誠意を持ってうかがうとします。
そうしたら、相手のかたも、
"1" は、こちらの言うことを、
きいてくださるんです。

「言いたいことなら、
 もう、ぜんぶ言いました」
という状態になれば、
ふつうの人なら、気持ちが解放されます。
すると、次は、
きく立場にもなってくれますよね。


こちらの言うことをきいてもらえるのは
"1" でも、かまわないんです。
その "1" に、いちばん肝心なところを乗せればいい。

「これは、絶対に、ハズさないほうがいい」

と真剣に思う "1" のことを伝えると、
それを、非常に前向きなかたちで
きいてくださることが多い、と実感しています。

いちばん肝心な方向性を、きいてくれるかどうか。
これは重要だと思います。
だから、相手にきく姿勢ができていないうちから
「まだ、言いたいことがあるんだ」
というときに何かを話しても、
相手の心に、はいりません。


相手が悩んだら、
ぼくは、けっこう、いっしょに悩むんです。
「悩んでいるところなんか見せたらダメだ」
と言うクリエイターや、デザイナーや
アートディレクターも多いと思うのですが、
ぼくは、そうは考えません。

だって、ほんとにむずかしいことだから、
相手も、悩んでいるんです。

「ほんとにむずかしいですねぇ……」
「どうしましょうかねぇ……」

ポーズでも何でもなく、
ほんとに、一緒に悩んでしまったりする。
でも、一緒に悩むと、安心しますよ。
「相手も、悩んでくれているんだ」と。

それで、その先に、
「じゃあ、どうしましょうか」
という話を一緒にして、
方向を探していくようなところがあります。


はじめから、作りこみすぎないようにします

佐藤 商品のデザインは、
「自分たちが選んだものなんだ」と、
一緒に作っていかないといけないと思います。
「デザイナーが言ったことだから」
と、しぶしぶ採用したものだとしたら、
何かがあったときに
「やっぱり、ちがったね、ほかのにしよう」
と、すぐにいれかえられてしまいますよね。

だから、
どのデザインがおすすめなのかというのも、
もちろん、言えることは言えるんですけど、
「言っていいタイミング」
というのがあるんですよね。

はじめから、
「これがおすすめです」
と言わないというのも、
けっこう重要なのかもしれないと思います。

どちらにしても、自分にとっては、
そういうやりとりがすごくおもしろいんです。
そこが、たのしい。

相手の顔を見て、
「……どうかな?」と思う瞬間。
「あぁ、これはダメだわ」
と、思いながらやっていたけど、
じつはちゃんとわかってくれていて、
ぼくがイイなと思っていた案を、
「これがいいと思います」
と、伝えてくれたりする……人って、
そういうところがおもしろいじゃないですか。

相手の気持ちを読んだりというのは
おもしろいいことですよね。
微妙な顔の表情とか、
性格から来るちょっとしたしぐさとか
しゃべりかたというのを
受けとることが、おもしろいわけです。

「作りこみすぎない」
というデザインにも、しています。
なぜかというと、
かならず、途中で何か意見が出るからで、
その中に、かならず、いい意見があるからです。

それをとりいれながら、
やや、足りなかったところをつめていく……
意見を言われると、さらによくなっていく、
というほうが、おもしろいですよね。


「佐藤さんに、ぜんぶ、おまかせします」

なんて言われると、

「いやぁ、もっと、どんどん言っていただいて、
 いいところに、一緒にいきたいんですけど……」

というような気持ちになるんです。

(つづきます)


佐藤卓さんのこれまでの
ほとんどの仕事を見られる大規模な展覧会は、
週末に開催されはじめました。
これから3か月間、おこなわれてゆきます。

この3か月のあいだに、
みなさんからのデザインについての質問や
佐藤卓さんの言葉への感想などを、
卓さんに伝えてゆこうと考えておりますので
質問や、感想など、ぜひ、
postman@1101.com
こちらまで、件名を「日常のデザイン」として
お送りいただけると、さいわいです。

2006-10-23-MON

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