小説を書くということ。 佐藤正午+糸井重里 対談

昨年(2017年)末、私たちほぼ日スタッフが
驚くことがありました。それは、
「糸井重里が小説の解説を書いた」という
出来事でした。
ほぼ日以外で糸井が長い原稿を書くことは
かなりめずらしいので、
「これはすごいことだ」と思いました。
しかもそれは、
エッセイでもボディコピーでもなく解説です。
解説した小説のタイトルは『鳩の撃退法』。
理由はおそらく──、糸井は、
この作品を書いた佐藤正午さんに、
ほんとうに会いたかったから、
なのではないでしょうか。
対談は、佐藤さんの住む佐世保で行われました。

※この対談は『鳩の撃退法』の物語の筋には
ふれないようまとめました。
(そもそもふたりとも『鳩の撃退法』のストーリーについては
話しませんでした)
これから作品を読む予定のみなさまも、ぜひごらんください。

佐藤正午さんのプロフィール

佐藤正午(さとうしょうご)

1955年長崎県佐世保市生まれ、佐世保市在住。作家。
1983年『永遠の1/2』ですばる文学賞受賞、
2015年『鳩の撃退法』で山田風太郎賞受賞、
2017年『月の満ち欠け』で直木賞受賞。

第7回 思ったことを。
2018-01-21-SUN

糸井
今回、勇気を出してお会いして
ほんとうによかったです。
やっぱりぼくは
表現をすることに興味を持っていますし、
曲がりなりにもそのうちの何かを使って
仕事ができたこともあるから、
創作の話は、やっぱりおもしろい。
今日の会話のなかで、
エッセイに見えるような文章に比べて
小説はどう力を入れるのか、差を訊いたときに、
佐藤さんは「同じです」とおっしゃいました。
ぼくはそこを全く気づいていませんでした。
真剣にジーッと目で追わないで、
ある速度感で楽しんでくださいという文章も、
あるはずだと思っていました。
佐藤
それはないです。
糸井
ないんですね。
佐藤
ぼくにはないです。
糸井
それはびっくりしました。
佐藤
じっくり見てもらわないと困るんです。
糸井
うん、なるほど。
それがわかっただけでもぼくにとっては発見でした。
今日は佐藤さんといっしょに
ごはんを食べられればそれでいいと
思っていたので、
こんなにしゃべるつもりはありませんでした。
やっぱりあの作品を書いた人だと思うと、
興奮してしまいます。
しかも、今日おっしゃったことが、
当然だけど、作品とつながっている。
テレビで見た電話インタビューと同じに、
「だからおもしろいんだよ、あの人は」
というようなことが感じられました。
いま、年齢を重ねてきて、
小説を書く時間は、より充実してきましたか? 
それとも、体力が衰えたという感覚はありますか? 
佐藤
もちろん両方あります。
糸井
衰えたと感じるのは、どういうときですか? 
いっぱい書けなくなったとか、
根気が続かないとか? 
佐藤
はい、そういうことはありますね。
つらいです。
糸井
頭脳労働は体力じゃないと言われそうだけど、
体力なんですよね。
佐藤
2~3時間、一所懸命考えると、
ヘトヘトになります。
糸井
じゃあこれから、
書くものが徐々に変わってくるということは
ありえますね。
老人になった特性をいかす作品も、
おそらく出てくるでしょう。
佐藤
糸井さんは、年齢とともに何か変わったことは? 
糸井
いいこと、悪いことあります。
佐藤
例えばなんでしょうか。
糸井
よかったのは、
たいしたことのないものを
削ることができるようになったことです。
体力があると、たいしたことないものがやたらと見えて
気にしちゃったりします。
いい意味で大雑把になることができました。
言いかえれば、利口になったのかもしれない。
悪いことは、根気がますますなくなったこと。
「もうちょっとつついたら
いろんなおもしろいことがあるのに」
ということがわかっていても、
「俺は止まる」と言わざるを得ないことがあります。
佐藤
そういう状況も自分でわかるんですね。
糸井
わかります。
佐藤さんは、こうして佐世保で
30年間小説家をやってきたわけですよね。
佐世保でしか会えない作家です。
この会談が成立したのもすごい。奇跡です。
佐藤
うん、ほんとうにありがたいです。
糸井
ぼくはとてもおもしろかったです。
今日は無理に話をしなくていい、メシを食って帰ろうと
ほんとうに思ってました。
担当編集
の方
お話がはじまってから1時間、
なんにも箸をつけなかったですね(笑)。
糸井
そんなこと、ふだんぼくはしないです。
だいたい食います(笑)。
佐藤さんとお話ししてて、
「このことをこう訊いたら答えになるかもしれない」
なんて思いながら、
懸命に考えて話すのは楽しかったです。
いわゆる通り一遍のことをやりとりするのは
あり得ないと思っていたので、
思ったことだけを交わせればいいと
今日は思っていました。
それはとてもうれしい、いい体験でした。
佐藤
ぼくはもうなにしろ
本物の糸井重里がいる、とだけ思ってました。
糸井
いや(笑)、
佐世保からお出にならなければ、
そういうこともあるかもしれないですね。
もっと競輪の話なんかも、聞きたかったなぁ。
佐藤
競輪をやりはじめると、
頭の中に競輪のことしか入ってこなくなりますので、
競輪は仕事と一緒にできないんですよ。
糸井
わははは、強すぎるんですね。
佐藤
しかし、「ポケモンGO」は
仕事のサイクルにくり込めます。
だからいまぼくは「ポケモンGO」をやってます。
競輪だったら、仕事を休まなきゃいけなくなる。
糸井
そうかぁ(笑)。
ほぼ日
担当者
もうそろそろ、お時間なんですが。
糸井
あ、じゃあいそいで煮魚を食べなきゃ! 
佐藤
もうそんな時間? いま何時なの?
ほぼ日
担当者
3時10分です。
佐藤
もう3時? 知らなかった。
糸井
3時に終わりだって言われてたのに、ごめんなさい。
いやぁ、楽しかったですよね。
佐藤
いや、ほんとうに、
楽しかったも何も、もう。
糸井
ぼくも生の佐藤正午に会えた(笑)。
佐藤
できれば写真をいっしょに撮ってもらいたい。
糸井
あ、撮りましょう、ぼくも。
佐藤
みんなに自慢しなきゃ。

(おしまいです)

2018-01-21-SUN

『鳩の撃退法』が
文庫化されました。

2014年に上下巻の単行本として出版され、
多くの人を物語のおもしろさに引きずり込んだ
佐藤正午さんの長編小説『鳩の撃退法』が
このたび文庫になりました。
文庫も上下巻に分かれています。
(Amazon→上巻下巻
糸井重里の解説文は下巻に収録されています。