- 福山
- 映画『SCOOP!』に
「ごめん。馬鹿で悪かったな。」
というコピーをいただきましたが、
映画をご覧になって、いかがでしたか。
- 糸井
- 大根さんという人は、
得意とは限らないことも
全部引き受けていくタイプの方なので、
映画を1本つくったことで
また「消化」したなって思えました。
食えなかったものを食えるようにした感じ。
- 福山
- 今回の映画でいうと、糸井さんが思う、
「食えなかったもの」はどんなことでしたか。
- 糸井
- お客さんの層を、もうひと回り広げたと思うんです。
今までは、大根さんのことを
わかってくれている人に対して、
もっとくすぐってやれとか、
もっと揺るがしてやれとかして
作品をつくっていたと思います。
でも、今回の映画は「大根って誰?」
という人に見せていると思うんですよ。
- 福山
- そうですね。
- 糸井
- 「知らないよ、大根なんて!」という人が
観に来る映画でもあるわけです。
で、その責任の大きな一部分は
福山雅治という人にあって(笑)。
- 福山
- 責任(笑)。
- 糸井
- つまり、大根さんが福山さんを使う、
あるいは福山さんがOKを出した、
そこで動いちゃうお客さんは絶対にいるわけです。
「え、これ通じないの?」という人もいるだろうし。
大根さんはどうするのかな、と考えていました。
でも、お客さんが喜ぶように誠心誠意作る人だし、
出演者にも出てよかったと思ってもらうことを、
大根さんはすごく意識してますよね。
- 福山
- 糸井さんが映画をご覧になられる前、
大根監督と福山という組み合わせを聞いて、
どう思われましたか?
- 糸井
- ぼくはね、何も知らないで観たんです。
- 福山
- そうなんですか?
- 糸井
- まあ、お客さんだって
そんなに知らないものだろうと思っているので。
で、試写会に行ってみたら、出だしがなかなか‥‥、
ある一時期のアメリカ映画にあったムードだと思った。
大根さんはものすごく映画の教養がある人で、
他の映画のムードをどんどん意図的に使うから、
「あの場面は、このへんの匂いがするな」とか、
観ているだけでも映画ファンは楽しい。
それと、最初から福山さんが出ていますよね。
「福山をあんなふうにして嫌だ」という人もいれば、
「こういう時期だよ」という人もいそうで(笑)。
- 福山
- (笑)。
- 糸井
- なんていうんだろう、
その渦がおもしろくて。
- 福山
- 揺さぶる感じですか。
- 糸井
- ありますよね。
誰の立場で観るんだろうっていうのも
揺さぶられますよね。
たとえば福山さんが演じていたのは
写真週刊誌のカメラマン役ですが、
同時に、本当の福山雅治は撮られる側じゃないですか。
そこはやっぱり、みんなが一番ドキドキする部分です。
本人は、一つひとつの台詞をその都度、
どういうふうに感じていたのかな。
あるいは、なにかを感じた上で、
もう1回ひっくり返して外に出したのかな。
そして、監督はどっちを重視したんだろうって、
ものすごく複雑に考えちゃって(笑)。
- 福山
- そうですね。
ぼくも週刊誌に追跡されたりというのは、
今もよくありますし。
- 糸井
- そうでしょうね、うん。
- 福山
- 僕が待ち伏せされたり、追跡されたり、
そういうことは想像に難くないわけですもんね。
その立ち位置で見ると、またそういう見方になるし、
追う側から見ると、コイツをどうやって
写真に撮ってやろうかっていう見方にもなりますし。
- 糸井
- ハンターの映画ですからね(笑)。
- 福山
- ハンターの映画。
確かに、立ち位置によって見方が変わりますね。
- 糸井
- 週刊誌に追いかけられたことのある人だったら、
「この野郎!」と思わないはずがないわけです。
- 福山
- そうですね。
- 糸井
- たとえば、逃げるウサギと追うトラの関係でも、
ウサギが、トラを落とし穴に落としてやりたいとか
思っていたかもしれません。
それが、今度はウサギが追いかける側の役を
やることになって、「俺って誰なんだろう」と。
その行ったり来たりを、
福山さんはどう判断していたんだろう。
あるいは、映画を撮る前になにを考えただろう。
そういうことまで、全部おもしろいですよね。
- 福山
- 映画をご覧になったあと、
大根監督とは話されましたか?
- 糸井
- 試写会の日は、ほとんど話していないです。
でも、大根さんが心配そうに見えましたね。
- 福山
- 監督がですか?
- 糸井
- はい、なんとなく。
初めて見せるのって、やっぱり怖い日だと思うし。
その感じが、「どやっ!」というよりは、
ちょっとうかがっているみたいだと思えて(笑)。
- 福山
- 大根監督にとっての糸井さんは、
中学や高校の先輩のようなもので、
自分がカッコいいなと思っている先輩に、
自分のことを認めてもらいたいような
関係性だと思うんです。
- 糸井
- 若いから、年の差の影響があるんだろうな。
- 福山
- 糸井さんが「いいんじゃない?」
とひとこと言ってくれたら、
「先輩に褒めてもらえた」ということで、
やっと自分の中で最後の編集が終わって、
「完パケ」になるんだと思うんです。
- 糸井
- うん、映画はおもしろかったんですよ。
『インディ・ジョーンズ』みたいな
ジェットコースタームービーを、
ああやって写真機と、それから、
自分のちっぽけなボディとでやりおおせてる。
しかも、ぼくらがいつもいる、
この東京の場でやっていたことがおもしろくて。
- 福山
- 『インディ・ジョーンズ』(笑)
前半の写真を撮る側と撮られる側の精神状態は、
でっかい丸い石が
ゴロゴロ転がってくるような感じでした。
- 糸井
- ありましたよね(笑)。
- 福山
- 相手を追う側もやっぱり、バレちゃいけない。
撮る側が、撮られる側から
認識されてはいけないという緊張感もありました。
(つづきます)
2016-09-29-THU
撮影:加藤純平