漫画家 土田世紀のこと。
17歳のときに『未成年』でデビューして以来、
途切れることなく数々の傑作を生みだし、
代表作は映画やテレビドラマにもなり、
ファンや作家たちの間では「ツッチー」の
愛称で親しまれた漫画家、土田世紀さん。

いまから7年前の2012年4月、
まだまだこれからという43歳のとき、
肝硬変で突然この世を去ってしまいました。

TOBICHI東京では6月15日から、
土田世紀さんの特別な原画展をはじめます。

それに先がけたこのコンテンツでは、
土田作品の魅力を漫画家の松本大洋さん、
漫画編集者の江上英樹さんに語っていただきました。

土田さんが魂を削りながら残したものを、
ほぼ日なりに探っていこうと思います。
第1回 土田世紀について。
本日から8日間、
土田世紀さんの連載コンテンツをお届けします。



土田世紀さんは1969年、秋田県生まれ。
17歳のときに『未成年』で漫画家デビュー。
代表作に『俺節』『編集王』
『雲出づるところ』『同じ月を見ている』など。
『同じ月を見ている』は、
平成11年度文化庁メディア芸術祭優秀賞を受賞し、
2005年には実写映画化もされました。
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ところが、
人気作家としてのキャリアを積み重ね、
新連載の準備をはじめていた2012年4月、
肝硬変により仕事場で急逝。
43歳という若さで、
突然この世を去ってしまいました。
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その後、土田さんを尊敬する作家たちが
トリビュート作品を発表し、
日本各地で原画展などが開催されてきました。
そして2019年6月、
絶版だった『未成年』と『雲出づるところ』の
新装版が復刊するタイミングで、
土田世紀さんの原画展を
TOBICHI東京で開催することになりました。



お亡くなりになってから7年以上が経ちますが、
土田世紀という作家のことを、
いまも多くの人たちが語りつづけています。
その魅力は、いったいどこにあるのでしょうか。
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土田世紀さんのことをもっとよく知るため、
おふたりの方に取材を申し込みました。
ひとりは、土田さんのデビュー作『未成年』に
衝撃を受けたという漫画家・松本大洋さん。
もうひとりは、土田さんの代表作『俺節』の
担当編集をされていた江上英樹さんです。
おふたりからうかがった話は、
明日からたっぷりとお届けいたします。
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左:松本大洋さん / 右:江上英樹さん



本日はそのプロローグとして、
かつて「ビッグコミックスピリッツ」を
毎週読んでいた糸井重里に、
土田世紀という作家について訊いてみました。
ここからはいつもの対話形式で
おたのしみください。
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糸井
土田世紀さんについてどう思うか?
──
はい。
糸井
ほんとの話をするとね、
ぼくは土田世紀という人のいい読者じゃないんです。
まずはじめにそれを言っておきたい。
──
いい読者じゃない?
糸井
ぼくは「スピリッツ」のファンなんです。
だから土田さんのマンガも読んでいた。
──
「スピリッツ」に載っていたから、読んでいた。
糸井
そうです。90年代あたりの
「スピリッツ」に載ってたものって、
たとえ自分になじまないものでも、
こっちから消化していくつもりでいたんです。
当時のぼくはそれくらい
「スピリッツ」という雑誌を信用していました。
「スピリッツ」が言うなら、
話だけでも聞いてみようか、みたいに。
そういうところで出会ったのが、
土田さんの『俺節』だったんです。
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──
はじめて『俺節』を読んだとき、
どう思いましたか。
糸井
「なにするんだよ」と思ったね。
──
「なにするんだよ」(笑)。
糸井
だって、ポップスのヒットチャートを聴いてたら、
急に演歌の曲が入ってきたわけだから。
つまり「スピリッツ」は、
わざとやってると思ったんです。
──
それで「なにするんだ」と。
糸井
それと同時に「弱ったなあ」とも思った。
あの頃の日本って、
どこかで土着した日本的なものから
巣立ちたい気持ちがあったと思うんです。
俺ですら、その時代はそうでした。
──
いまとは、ずいぶんちがいますね。
糸井
でも「うわぁ、演歌かよ」と思いながらも、
気づいたら読んでるんです。
土着的なものなのに読んじゃってる。
そうなると
「読んじゃうってことは、何かなのかなあ」
という感情も混じってきて、
いろいろと俺の心をかきむしってくるんです。
横尾忠則さんの絵をはじめて見たときもそう。
はじめて横尾さんのポスターを見たとき、
最初はほんとうにイヤな感じがしたんだけど、
気づいたらまた見たくなってたんです。



なんか、それと同じような気持ちに、
土田世紀の登場はさせたんで、
自分のなかで決着がつかないまま、
そういうジャンルが力を持つのかどうかも含めて、
ずっと横目で見てた感じがあるんです。
だから、どんどんついていったというよりかは、
ぼくは「うーん。でも、見ちゃうんだよなあ」
という感じでしたね。
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──
その感じはいまもあるんですか。
糸井
ぼくは、そのあとマンガ全体を
だんだんと読まなくなっていくんです。
だからちゃんと横目じゃなく、
土田さんのことを尊敬するようになったのって、
たぶん、お亡くなりになってからじゃないかな。
そうなってはじめて
「もっと見ておく必要があったんじゃないかな、
あの人については」と思ったんです。



そういえば5年くらい前に、
京都で土田さんの原画展があったでしょう。
天井から壁から原画がバーっと貼ってあって。
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──
「京都国際マンガミュージアム」での原画展ですね。
床にも原画を敷きつめていたりして。
糸井
そうそう。あの原画展のことを知って、
「やっぱりこの人はすごい人だったんだな」
と思ったんです。
つまり、亡くなったあとに、
展覧会をつくる人にそれをさせちゃうことが、
ものすごいことだなって思ったんです。
そうしたらなんか
「気にはなるけど、なんかイヤだな」
みたいなところで片づけた自分の若さとか、
浅さみたいなものが見えてきちゃって。
それで「いま出会っていたら、
またちがうんだろうなあ」と思って、
その原画展に行こうと思ったんだけど、
次の日が最終日とかで見られなかったんです。
──
ああ、そうでしたか。
糸井
それで「縁がなかったのかあ。
でも、また何かの拍子で出会うかなあ」って、
そのときはあきらめたんだけど、
それからなんか、土田世紀という人が、
俺のなかにひとつ場所をつくっちゃったんです。
つまり、昔、恋愛した女の子がいて、
すごくいい子だったのに、自分の無知のせいで、
ちょっと粗末にしちゃったみたいな話で。
‥‥ん、あってる?
──
言いたいことは伝わります(笑)。
糸井
だからTOBICHIでの原画展が決まって、
はじめに思ったのが
「ああ、これで償えるかも」って。
──
償える。
糸井
そう。こういう機会がもらえたおかげで、
俺がバカだったことも思い出させてくれたし、
土田さんのこともちゃんと見られるし、
俺にとってはほんとにうれしいことで。
いまここに『雲出づるところ』があるけど、
俺も2巻セットで買ってるんです、ずっと前に。
でも結局、読まなかった。
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──
それは、なんで読まなかったんですか。
糸井
たぶん、それを読みたいと思う機会が、
俺の夜のなかになかったんじゃないかなあ。
土田世紀さんの場合は、
昔にちょっと遠巻きにしちゃったせいで、
「あえていま読む」の「あえて」の縁が、
すこし足りなかったんだろうね。
だから土田世紀のことを好きだ嫌いだ、
いろんなタイプの読者がいると思うけど、
俺は「ずっと気になっていながら、
これまで近寄ってなかった読者」なんです。
だからこそ土田さんの原画展を
TOBICHIでやれるっていうのは、
俺にとってはすごくうれしいんです。
だって、すごいでしょう。土田さんの原画。
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──
はい。ものすごいです。
この前、原画を見ましたが、
描き込みの量がもう圧倒的で。
糸井
ねぇ、びっくりするよね。
──
土田作品を知らない人でも、
あの原画はおどろくと思います。
糸井
絵の好みはそれぞれあるかもしれないけど、
これだけ人の心を動かすものだから、
まずはそのことを大切にしたいよね。
「結局、何でもないよ」ってものじゃないし、
別に見たって害毒があるわけじゃない。
──
毒、ないです(笑)。
糸井
最初にものすごく正直に
「いい読者じゃない」とか言ったけどさ、
なんだかんだ言って『俺節』とか『編集王』とか、
俺、毎週かかさず読んでたからね。
──
かかさず読んでる時点で、
いい読者という気もしますが(笑)。
糸井
それだけ「スピリッツ」を信用してたからね。
だから、ひいきにしてる料理屋さんで
「まあ、これでも食べてみなよ」って言われて、
やたらニンニクの強い料理を食べてたみたいな、
そんな感じだったと思うんです。
「えー」とか言いながら食べるんだけど、
そういうのが案外うまいんだよ(笑)。
あの気持ちをみんなにも味わってもらいたいね。
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(明日は松本大洋さんが登場します。つづきます。)
土田マンガ2作品、
第1話をまるごと公開します。
未成年

第1話「残暑」
※特別原画バージョン
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1986年に『残暑』というタイトルで
「モーニング」に掲載された作品です。
この読み切りが第1話となり、
その後『未成年』という名前で連載がスタート。
高校三年生の最後の夏休みに描いた、
土田世紀さんの原点ともいうべきデビュー作品。
「特別原画バージョン」で公開します。



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雲出づるところ

第1話「コウノトリは新たな命を運ぶ」
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©️土田世紀『雲出づるところ』小学館クリエイティブ刊
講談社「モーニング」にて連載され、
2002年に全2巻の単行本となった後期の代表作。
生きているときでしか考えることができない
「死」というテーマについて、
土田世紀さんが正面から描いたある家族の物語です。
初期の頃の作品とはちがい、
作者の哲学的なメッセージが込められています。
愛する2人の前に立ちはだかる過酷な運命。
その序章ともいうべき第1話をおたのしみください。



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2019年6月15日(土)より、
TOBICHI2で
『土田世紀 飛びこむ原画展』を
開催します。
土田世紀さんのデビュー作『未成年』と、
後期の傑作『雲出づるところ』の復刊を記念して、
TOBICHI2(東京・青山)で原画展を開催します。
『未成年』『雲出づるところ』の原画を中心に、
他の作家さんによるトリビュート作品も展示。
代表作の第1話をスライドで鑑賞する
小さな上映館もご用意します。
また、TOBICHI常設ショップでは、
土田世紀さんのグッズや本、おいしいお菓子も販売。
土田世紀さんの熱い思いがあふれる会場に、
ぜひ飛びこみにきてください。



『土田世紀 飛びこむ原画展』
日程:2019年6月15日(土)~6月30日(日)

場所:TOBICHI2

時間:11:00~19:00 入場無料



イベントの詳細は、
TOBICHIのページをごらんください。
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