第5回:Don't think, feel.

松家 今回、勝手にコンテンツを作って
「ほぼ日」に持っていこうと言い出したのは
僕なんですけど‥‥。
糸井 犯人!(笑)
松家 はい、犯人は私です(笑)。

‥‥でですね、
ゼミのみんなが迷ったり、悩んだりしたのは、
「自分たちがどういう立場で、
 誰に向けて
 どういうふうにふるまえばいいのか」
という「スタンス」だったんです。
糸井 はい、はい。
松家 つまり「ほぼ日」にウケるもの
作ったらいいのか、
あるいは
「ほぼ日」がビックリするもの
作ったらいいのか‥‥。

そこのところを、
みんなが
それぞれに考え抜いてくれた結果が、
これらのコンテンツなんですね。
糸井 なるほど。
松家 ぼくは、このコンテンツの制作に関しては、
基本的に、放置プレイだったんですよ。

とにかく、君たちだけでやんなさいと。

2回だけ相談会みたいなものをやったんですが、
完成形は、今日はじめて見るんです。
糸井 へぇ、そうだったんだ。
松家 糸井さんや「ほぼ日」のみなさんにとっては、
学生の「スタンス」って、どう思われました?
糸井 前回のときに、僕がいちばん厳しく‥‥
みんな、
ボロクソに言われたとかって言うけどさ(笑)、
まぁ、ちょっと厳しめに言ったのは
戦略的になり過ぎるなってことで。
松家 ええ、そうでした。
糸井 つまり「言葉にしやすい戦略」なんて、
ぜんぶ役に立たないんですよね。

でも、学校の授業というのは
そういうことばっかり教えたがるし、
今現在、いそがしく「実践」をやってる人って
学校の先生ではないですから。
松家 はい、はい。
糸井 授業では、その「実践」を見て解説するから、
どうしても
言葉にしやすい「戦略」が語られるんだけど、
それだけを学んできた子は
世の中をわかった気になっちゃうんですよね。

でも、
全員が100点の答案用紙を出すことには
何の意味もないでしょう?
松家 はい、そうですね。
糸井 そこを、早く壊したいんです。
松家 ははぁ。
糸井 その意味で‥‥、
つまり「戦略」という意味での「スタンス」なら
そこに時間を割くのはもったいないですよね。

たぶん、ぼくらが社内で企画を考えるときは、
そういう会議は‥‥一切ない。

さっきの「手フェチ」チームの人たちは
戦略的になんて
ぜんぜん、考えてなかったと思うんです。

もともとが「手って、いいよね」だけだから。
でしょう?
SFC はい。
松家 じつは僕‥‥きのう一日だけ
ほぼ日の合宿に参加させてもらったんです。

で、その合宿のテーマが
「Don't think. Feel」つまり
「考えるな、感じろ」だったんですね。

この言葉が、すごくおもしろくて。
糸井 あ、そうですか。
松家 このゼミは、おととしの4月に始まって
この3月、
丸2年続けたところで終わるんですけど、
最初の1年は
『文藝春秋』とか『暮しの手帖』などの
かつて国民雑誌と呼ばれた雑誌に
どんな魅力があったんだろうということを
研究していたんです。

これって「think」ですよね。
糸井 ええ、ええ。
松家 で、後半の今年1年で「ほぼ日」の研究を
してきたんですが、
これもまた「think」だったわけです。
糸井 はい。
松家 でも、今回、勝手にですけど
自分たちでコンテンツを作りはじめたら、
もう「think」してるだけじゃ
もうダメだと、
たぶん、みんなが気づいてくれて。

「feel」を全開にして
やってくれた感じがあったんですよね。
糸井 ほー‥‥。
松家 僕は‥‥何ていうのかな、
すごく悩みながらコンテンツをつくってる
彼らの姿って、
見ていて、すごく気持ちよかった。
糸井 ‥‥だってさ。
全員 (笑)
松家 ちなみに「スロウライダー」は、どうでした?

ある意味で、彼らは典型的で、
「この組み合わせに
 本当はなりたくないんですよー」
みたいなことで
変にもめたりしてるのを見てたんですけど、
それが、おかしくて(笑)。
糸井 あのコンテンツについては
典型的な言葉がひとつありましたよね。
松家 えー‥‥。
糸井 「友だちとはしない会話」という。
松家 あ、はい。
糸井 タイトルも
それにしちゃえばいい
んじゃないですかね。
松家 ああー‥‥。
糸井 旅行に行こうが行くまいが、
ぼくらが、いちばん知りたかったのは、
「友だちとはしない会話」って
一体どんなものなんだろう‥‥ということ。

「友だちとはしない会話」
というジャングルを
探検しに行った自分たちを掘っていくほうが
面白かったと思いますね。
松家 なるほど。
糸井 ただ、あとで褒めようと思ってたんだけど
このチーム、
自己紹介の資料の写真の撮り方が
すごく上手だったんです。
SFC ありがとうございます!
糸井 ねえ、ぐっさん。
山口 はい、すごいよかったです。
糸井 ほら。
松家 僕もね、この資料のファイルを開いたとき、
ちょっと、じわっとしたんです‥‥いや、本当に。

そこが伝わったのは、すごく、うれしいです。
糸井 これは、見事ですよ。字も自分だしね。

この写真がこうして並んでいるところに
「友だちとはしない会話」って
書いてあったら、
俺、そのチームに入ってみたくなるなぁ。
全員 おおー。
糸井 テーマを「旅」にしちゃったおかげで、
「あるていどの面白さ」が
小さく保証されちゃったんですよね。

でも、それは捨てちゃったほうがいい。
松家 うん、うん。
糸井 さっきの
「本物のラブレターを書いたほうがいい」
というのと同じように、
真正面からぶつかっていったほうが、
面白いものになるんですよ。
松家 ‥‥ちょっと「Don't think. Feel.」に
戻っていいですか?

学生たちには話したんですけど、
これまで僕が
編集者としてやってきた仕事のなかで
「考えてやった仕事」って
実は、ひとつもなかったなぁって。
糸井 そうだと思う。
松家 とにかく闇雲に
「僕は、これをやりたいんだ!」がまずあって、
その企画を通す段になって
営業部からああ言われ、広告部からこう言われ、
そこではじめて
「考える」にスイッチが入る。


最初から「考えて」、
つまり、こういう読者層が想定されて‥‥
みたいに考えて
はじめた仕事はひとつもないんですけど、
そのことって
「Don't think. Feel.」という言葉を
聞かなかったら、気づかなかったんですよ。
糸井 へぇー‥‥そうですか。
松家 どうでしょう、
せっかく、糸井さんとこうやって話す機会を
いただいているわけだから、
みなさんから
何か聞きたいことがあったら‥‥どうですか?

なかなかないですよ、こういう機会。
糸井 そんなに意地悪なこと言ってないでしょ?
全員 (笑)
SFC じゃ、いいですか。

さっき「手」のコンテンツの話をされたとき、
「もっと大きいメディア」
ということで
テレビや女性誌を挙げてらっしゃいましたが、
インターネットというメディアは
大きいとは思いませんか。
糸井 大きいメディアにもなりますよね。

ぼくが言いたかったのは、つまり、
「手フェチ」という名前をつけてる段階で、
表現する側が「小さく」してるんです。
SFC ああ‥‥。
糸井 変わった趣味を持った愛好家のみなさんが
ヒソヒソ猥談してるって企画に見えちゃう。

それでは、いくら大きなメディアでやっても、
小さいコンテンツになっちゃいますよね。
SFC 先ほど「戦略的になるな」というお話を
されていましたが、
僕は今、3年生で就活してるんですけど、
履歴書には、自己PRとか言って、
これまで、自分がやってきたことの中から
自分をいかによく見せるか、
まさに「戦略的に」考えて書いてるんです。
それについては、どうお考えですか。
糸井 うーーーーーーん‥‥。

失敗すればいいんじゃないかねぇ?
松家 おお(笑)。
SFC ‥‥失敗?
糸井 就職活動って
いろんなことを身につけたふりしたけど、
けっこう無駄だったなあとか、
そんなものとは
別の理由で決まったんだなって気づくのに
やっぱり、けっこう時間かかるんですよね。

だから
「俺、昔、その失敗をしてるんだよ」
という話を
後から来る後輩にしてあげられるように
いろいろやって
失敗しておくしかないんじゃないかな?
SFC 私、大学に入ってから、
まわりの人たちが
すごく知識が豊富だったりとか、
すごく自信がおありで‥‥。
全員 (笑)
SFC どんどん自信をなくしてしまって。

自分は知識とかも薄いし、子どもっぽいし、
恥ずかしいって
思うようになっちゃったんですけれど、
今日の「戦略的にならない」のお話を聞いて、
そんな私でも、
やっぱり自分の思ったことはきちんと言って、
やりたいことをやるというのが
大事なのかなと思ったんですけど‥‥
どうでしょうか?
糸井 うん、それだけまとめてしゃべれたら、
もう満点じゃないですか? ねえ。
松家 ええ。
糸井 つまり、自分自身の自己像が明確で、
今いる場所がどういう場所で、
でも、今後どうして行きたいかということが
ぜんぶ、しゃべれてるわけだから。

それが、知性ってもんですよ。
SFC ありがとうございました!
松家 うん、大丈夫ですよ、あなたは。
SFC 糸井さんと、あと松家さんにも
お聞きしたいんですけど、
悩んだときに、どこを向いて生きてきましたか?

僕の場合は、やっぱり「笑顔」というか、
「泣くより笑って過ごしたい」
というのが、
現時点の自分のゴールだと思っているんですが、
そういう「軸」と言いますか‥‥。
松家 僕はね、大学に5年いたんですけど、
ひたすら「逃げて」ました。
直面しない。
悩みからは逃げて逃げて逃げ回っていたから、
誇れるような答えは、僕にはできません。

だから、みなさんを見てると、
本当にえらいなあと思います。
糸井 僕は‥‥何だろうな。

今、一生懸命考えているんだけど‥‥
点数が低かったんですよね、自分に対する。
だから、助かったと思う。

とにかく、大学やめて働き出したとき、
メシ食えてるってだけで
俺ってすげえなと思ってたくらいなんで、
そこをベースにしてたから、
あんがい強かったのかも、俺の場合は‥‥。
SFC ‥‥。
糸井 ごめん、あんまりいい答えになってないな。
あなた、今おいくつ?
SFC 23になりました。
糸井 僕が歳をとってから知った考えかたで
すごく「ああ、それいいなぁ」と思ったのは、
吉本隆明さんが言う
「自問自答すること」なんです。
松家 はい。
糸井 まだね、僕も本当にわかってるのかどうか‥‥
わかりませんけど
自問自答するという考えは、いいなあと思う。

つまりさ、今、ウダウダ悩んでる自分が
実は、けっこう好きだった場合、
自問自答の結果、そのままでいいじゃない?
SFC ああ‥‥。
糸井 でも、自問自答してみて
「別の自分のほうがいいなぁ」と思ったら、
変わっていけますよね。
松家 うん。
糸井 そんなこと思ってますね、今は。
SFC ありがとうございました。
糸井 ‥‥そろそろ時間も遅いので、
このへんにしておきますか?

おいしそうなごはんも
用意されてるみたいだし(笑)。
松家 今日は、本当にありがとうございました。
SFC ありがとうございました!
糸井 いえいえ、こちらこそ楽しかったです。
じゃあ記念写真、撮りましょうか。みんなで。
2011-05-06-FRI