HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

はじめまして、しいたけ.です。

VOGUE GIRLで毎週掲載されている
「しいたけ占い」やnoteの連載で
大人気の占い師・しいたけ.さんが、
ほぼ日に遊びに来てくれました。
きっかけは、糸井重里がもともと
しいたけ.さんの占いを愛読していて、
さらに最近ではTwitter上での
やりとりも生まれていたこと。
「はじめまして」の機会でしたが、
実は物事の感じ方が似ていたふたり。
話はおおいに盛り上がりました。
この日は占いの背景にある、
しいたけ.さん自身の過去のお話や、
大事にしている考え方などを
いろいろと教えてもらいました。
全6回、どうぞおたのしみください。

しいたけ.さんプロフィール

イラストレーション:タロアウト

2. 話し方の技術よりも。

しいたけ.
「伝える」という話を続けると、
ぼくは「コミュニケーション能力」
ということばに、
ちょっと抵抗があるんです。
糸井
コミュニケーション能力。
しいたけ.
よく言われますけど、それってなんだか
「技術がなにより大事」みたいな
考え方だと思うんですね。
もちろんそれが型として役に立つ部分は
たくさんあると思います。
だけど
「その人の話を聞きたい」というのと
「コミュニケーション能力が優れてる」
って、別の話じゃないですか。
糸井
そのとおりですね。
しいたけ.
すこし話がとびますけど、ぼくは昔、
喫茶店やホテルのラウンジで、
個人のかた相手の占いをしてたんですね。
いまはもうしてないんですけど。
で、そういう場にいるときにときどき、
マルチ商法めいたことを
している人を見かけたんです。
糸井
ああー。
しいたけ.
それですごいなと思ったのが、
ふと聞こえてくる内容に注意を向けると、
完全に音声テープなんですよ。
「ポチッと押せば、いつでも
同じ話がでてくる」みたいな。
糸井
はい、はい。
しいたけ.
ことばの上げ下げがなくて、
常に同じリズム、同じテンポで、
誰に対してもしてきた話を
ここでもしてる、みたいな。
相手のかたが何か言っても
「そこが疑問かもしれませんが、
それはみなさんが心配されることで、
大丈夫です。
こういうメリットがあるんです」
といった定番の返しをするばかりで、
心を何も動さずに喋ってる。
糸井
部品を順番に取り出してるわけですね。
しいたけ.
そうなんです。
で、それを聞いて思ったのが、
この音声テープの話し方って
「コミュニケーション能力」とか
「説得の技術」としてのレベルは
高いのかもしれないんです。
だけど、人と人の関わり合いって‥‥。
糸井
まったく別ですよね。
しいたけ.
あと、ちょっと怖くなったのが、
人って何かを信じ込んで
「あなたのためを思って」みたいに
喋るときに、気づかずそういうことを
やりがちじゃないかと思うんです。
糸井
ああ、そうかもしれない。
しいたけ.
だけど、相手のことを思って
本当に何かを伝えたいんだったら、
そのときやっぱり音声テープでは
伝わっていかないと思うんです。
たとえば子どもが万引きをしてきてしまって、
自分の横で泣いているとします。
そのときにどういうことばをかけるかって、
変な話、「一世一代の大勝負」みたいな
ものじゃないですか。
もしそのときに音声テープのような話とか、
どこかで聞いてきたマニュアルの話を
そのまま言うみたいなことをはじめたら、
その瞬間、子どもは気づくわけですよ。
「このオヤジ、ダメだ。
裸で向き合う人じゃない」とかって。
糸井
ああ。
しいたけ.
もちろん人って常に、そういうマニュアルや
音声テープ側に行く可能性がある。
ぼくもそうだし、
みんなやりがちなことだと思うんです。
だけど、それでもやっぱり
大切な相手に本当に何かを
伝えたいと思ったら、正直に、
何も持ってない人間として立って、
「この機会に何を言いたいか、伝えたいか」
っていう恥ずかしさの原点に
立ち戻るしかないと思うんですよね。
糸井
なかなか難しいけれども。
しいたけ.
そうなんです、すごく難しいんですけど。
‥‥で、もうすこし続けると、
ぼく自身、昔は音声テープ的な
きれいに整った話に
「すごいな」とか思っていたんですね。
けれど、いまはそこが逆転して、
マニュアルじゃない話にこそ
おもしろさを感じるようになっているんです。
たとえば結婚式で新婦のお父さんが
話すスピーチとかって、
前は「長いな」
「ちょっと話がわかりにくいな」とか
思っていたんです。
だけど、いまは
「この正直な話こそ伝わってくるよな」
とか思うんです。
糸井
それ、ぼくもまったくそう思うんです。
きれいに整った音声テープ的な話より、
多少ガタガタしてても、
その人のことばで伝えてもらう話のほうが、
やっぱりおもしろい。
そこは「しいたけ.:」を「糸井:」に
変えてもらってもいいぐらいの話ですよ。
しいたけ.
(笑)ただ、そのあたりで
難しいなと思っているのが、
自分の思いをもっとしっかり伝えたい
と思うと、
ついついコミュニケーションの技術を
勉強してしまって、
テープ側に近づいていきかねないという。
糸井
部品の使い方が上手になればなるほど
「自分」がいなくなって、
機械化するんですよね。
しいたけ.
そうなんです。
糸井
そこは、機械になっちゃったほうが
さまざまな物事がうまいくことは、
お掃除ロボットの進化の例を見ても
よく分かるんです。
で、それで
「あなたがやるよりロボットがしたほうが、
満遍なくキレイになりますよね。
だから、人間がそうなるのがいいですよね」
っていうのが
今までの時代だったと思うんですね。
しいたけ.
はい、はい。
糸井
だけどそれだと、私がいる理由がないんです。
「私が生まれて良かった」「いて良かった」
っていうのがやっぱり
人の、いちばんの喜びなわけだから。
しいたけ.
はあー! そのとおりですね。
糸井
その意味で
「ロボットになったほうがいい」
という考え方から
どうすれば逃げられるかって、
そのあたりの大事さに
気づけるかどうかだと思うんですよ。
しいたけ.
ああ。「私」は大前提というか。
糸井
そう。そして音声テープをいっぱい持ってて
「こうすれば相手を説得できます」
というとき、
ことばは戦いの道具なんですよね。
でも本当は、ことばって戦いの道具でも
何でもないですから。
ことばがなくて済めばもっと良かったり、
理想的だったりしますよね。
しいたけ.
そうですね。

(つづきます)