HOBO NIKKAN ITOI SHINBUN

はじめまして、しいたけ.です。

VOGUE GIRLで毎週掲載されている
「しいたけ占い」やnoteの連載で
大人気の占い師・しいたけ.さんが、
ほぼ日に遊びに来てくれました。
きっかけは、糸井重里がもともと
しいたけ.さんの占いを愛読していて、
さらに最近ではTwitter上での
やりとりも生まれていたこと。
「はじめまして」の機会でしたが、
実は物事の感じ方が似ていたふたり。
話はおおいに盛り上がりました。
この日は占いの背景にある、
しいたけ.さん自身の過去のお話や、
大事にしている考え方などを
いろいろと教えてもらいました。
全6回、どうぞおたのしみください。

しいたけ.さんプロフィール

イラストレーション:タロアウト

4. 校庭の石を拾いたい。

糸井
しいたけ.さんはもともと違和感っていうか、
ちょっとした
「それは違うんじゃない?」を見つけるのが
得意な子どもだったんですかね?
しいたけ.
ああ、そうだと思います。
糸井
全く幸せな人にそういう能力は
身に付くんですかね。
多少不幸はありましたか?
しいたけ.
客観的に見て不幸なところも
たぶんあったとは思いますが、
ぼく自身はそこまで自分に起こったことを
不幸に感じてない気がします。
糸井
うん、うん。
しいたけ.
ただ、よく「10代に戻りたい」とか
言う人がいるじゃないですか。
実はぼく、全く戻りたくないんですね。
「大人になって良かった」
と思うことのほうがずっと多いんです。
性格が暗すぎて、10代の一時期、
部屋で畳としかしゃべってなかったので。
糸井
そうなんだ。
しいたけ.
それで、時間はたくさんあったから、
よく考え事をしていたんですけど、
そのとき
「体力もない、何の才能もない、
何も持ってない自分が、
100メートル走で一番いい結果を出すには
どうすればいいか?」
ということを熱心に考えていたんですね。
で、何も持ってない自分が
「ああ、自分のやりかたはこれだ」
と思えた答えって
「校庭の石を拾うこと」だったんです。
糸井
はぁー。
しいたけ.
自分の体を鍛えても、
走るテクニックを習っても、
タイムは多少速くなるだろうけど、
たかが知れてる。
だけど校庭にある石を拾ったら、
自分も走りやすくなってタイムが縮まるし、
みんなも走りやすくなって
「あいつ、いいやつだ」
となる気がしたんです。
さらにそのこと自体を
ぼくが楽しそうにやってれば、
「よくわかんないけど
おもしろそうだから手伝ってやろう」
みたいな人も出てくるんじゃないかと。
そんなふうに考えたことが、
今でも自分の原点になっているんですね。
糸井
へぇー。なるほどね。
しいたけ.
だからたとえば自分が占いを
きちんと仕事にして
生きていきたいと思ったときにも、
頭がいい人たちがしてくれた
アドバイスって
「もっと目立ちなさい」
「PRが上手くなりなさい」
「人脈を広げなさい」
といったものだったんです。
そして、もちろんそのやりかたも
それぞれ正しかったと思うんです。
だけど、そういったことについても、
ぼくにとっては「石を拾う」こと以上に
魅力的な方法だと思えなかったんです。
強かったり、すでに能力がある人たちが
教えてくれる方法って、
自分にはどうも強すぎるように
思えることがよくあるんです。
弱い人間とか、先天的なセンスに
恵まれてない人間ならではの方法って、
あると思うんですよね。
糸井
すこし違う見方をするとそれ、
「自分はたいしたことない」
と決めたときに、すでに勝ってますよね。
「なにもできない弱い自分」を
スタートラインに置いてしまえば、
あとはもうプラスしかないわけで。
しいたけ.
ああ、そうですね。
糸井
あといまの話で、しいたけ.さんは
「自分は暗い人間だった」と言ったけど、
きっとそれが
「いい暗さ」だったんですね。
実際、石を拾うことで先がひらけると
思えない人も、たくさんいるんですよ。
「それが何になる」とか
「もっと足が速いやつにはどうせ負けてる」
とか考える人も、
たくさんいますから。
しいたけ.
はい、はい。
糸井
あと、
「自分はたいしたやつなのに
恵まれてないから上手くいってないんだ」
とか思ってる人は、悪口を言ったり、
人の足を引っ張ったりしようとしますし。
だけど心から
「自分はたいしたことない」と思ってると、
ほかの人にちゃんと
「すごいね」って言える。
相手がもし
「運が良かっただけだから」と言っても、
「いやいや、運が良いって
すごいことだから!」とか言えるんです。
しいたけ.
その通りです、ほんとですよ。
糸井
だから、一旦でも自分を
ゼロレベルに置けたら、
もう無敵なんですよね。
大事なのはそこだと思うんです。
「自分はもっとできるのに」とか
考えはじめると苦しむんです。
だからしいたけ.さんは、
畳と喋ってた時代にいろいろ考えて、
本当によかったですね。
しいたけ.
はい、自分でもそう思います。
糸井
ぼく自身も、自分がこれまで一番
たくさん考えたことって
「役に立たない自分が
生きてていい理由ってなんだろう?」
かもしれないんです。
「誰にも喜ばれてなくて、
取り柄もなくて、競争すれば負ける。
だけど、そういう俺がいてもいい理由が
あるとしたら、なんだろう?」
──そうやって考えてきたことが、
その後の自分を大きく
助けてくれていると思うんですよ。
しいたけ.
ああー。

(つづきます)