VOGUE GIRLで毎週掲載されている
「しいたけ占い」やnoteの連載で
大人気の占い師・しいたけ.さんが、
ほぼ日に遊びに来てくれました。
きっかけは、糸井重里がもともと
しいたけ.さんの占いを愛読していて、
さらに最近ではTwitter上での
やりとりも生まれていたこと。
「はじめまして」の機会でしたが、
実は物事の感じ方が似ていたふたり。
話はおおいに盛り上がりました。
この日は占いの背景にある、
しいたけ.さん自身の過去のお話や、
大事にしている考え方などを
いろいろと教えてもらいました。
全6回、どうぞおたのしみください。
イラストレーション:タロアウト
しいたけ. shiitake
占い師・作家。
早稲田大学大学院政治学研究科修了。
哲学を研究するかたわら、
占いを学問として勉強。
2014年から
『VOGUE GIRL』で連載開始。
毎週月曜更新の
「WEEKLY! しいたけ占い」で注目を集め、
最近ではウェブサービスnoteにて
コラムや占いなどを執筆中。
「しいたけ.」という名前の由来は、
唯一苦手な食べ物が「しいたけ」で、
それを克服したかったから。
著書に『しいたけ占い 12星座でわかる
どんな人ともうまくいく方法』
(マガジンハウス)、
『しいたけ占い 12星座の蜜と毒』(KADOKAWA)など。
・noteの
しいたけ.さんのページはこちら。
https://shiitakeofficial.com/
・VOGUE GIRLの
「しいたけ占い」のページはこちら。
https://voguegirl.jp/horoscope/shiitake/
・しいたけ.さんのTwitterはこちら。
https://twitter.com/shiitake7919
5. コピーを決意した夜。
- 糸井
- 何かで読んだのが、
しいたけ.さんはコミュニケーションを
「他の人のやりかたを見て覚えた」
という。
- しいたけ.
- はい。ぼくは高校生くらいのとき、
まったく会話ができなかったんです。
何を喋ればいいのか分からなくて、
「ふつうに話せばいい」と言われても、
その「ふつう」が分からない。
だから急に「ウンコ!」とか叫んで
全部を壊したくなる、そんな感じでした。
それで休みの日に公園とかに行って、
カップルの隣りに座って、
こっそり会話を聞いては、
内容をノートにつけてたんです。
- 糸井
- その話、ほんとだったんだ。
- しいたけ.
- ほんとです。
あと、バイト先とかでも
モテる人っているじゃないですか。
そういう人の話術をノートに書いて、
話し方をコピーしようとしてました。
そのうちノートは書かなくなって
「あの人ならなんて喋るだろう?」
とか、自分のなかに相手を
降ろすみたいな感じになったんですけど。
- 糸井
- はぁー。
- しいたけ.
- 10代のときって特にモテたかったり、
女の子としゃべってみたかったり
するじゃないですか。
だけどそれが自分には、
もうアメリカ大陸くらい
遠かったんですよ(笑)。
それで「じゃあ、設計図を持ってる人から
盗もう」みたいな感じだったんです。
- 糸井
- そこ、あんがい明るいですよね。
- しいたけ.
- あんがい明るいんですかね(笑)。
とりあえず、そういう他の人のコピーが、
ある種のライフワークに
なってた時期がありました。
- 糸井
- 何歳から何歳くらいですか?
- しいたけ.
- 高校くらいから大学卒業までですね。
たとえば高校に入って性に目覚め出すと、
モテるための行動が
多くなるじゃないですか。
そしてカッコいい人って、
鞄のおろし方から全部キマってるんですよ。
ちょっとワイルドに鞄をドンッて置いて
「あぁ、今日ダリい、5限目サボりてえな」
とか、カッコいいじゃないですか。
- 糸井
- 分かる分かる(笑)。
既にモテようとしてるんだよね。
- しいたけ.
- ぼくがやったら
「あ、どうぞお帰り下さい」ですけど。
でも
「差はすごくあるけど、
真似してればいつかはたどり着くはず」
と考えて、映像を目に焼き付けて、
公園でひとり練習したりしてたんです。
- 糸井
- あぁ、最高ですね。
- しいたけ.
- まぁ、活かされることは
まったくなかったんですけど(笑)。
ただ、そういう習慣が溜まりに溜まって、
意識せずに自然にできるようになったとき、
バイト先で
「あなた、おもしろいね」となったんです。
- 糸井
- つまり、コピーとしてはじめたものが、
どこかで自分になる日が来たんですね。
- しいたけ.
- 来たんです‥‥けど、それが果たして
自分なのかっていうのは、
もしかしたら一生分からない気がします。
- 糸井
- それ、高校生のときから今までずっと
正直すぎるからでしょうね。
早い話が、形式だけの
「おはようございます」や
「いい天気ですね」を
嘘だと思うから、
「『自分が本当に思う』って何だろう?」
と考えはじめたときに、
どうしていいか分からなくなった、
という話ですよね?
それでとりあえず練習として、
借り物のことばでもいいから
カードで出してみようという。
- しいたけ.
- そうですね。
- 糸井
- それは、ぼくもそうですよ。
- しいたけ.
- そうなんですか?
- 糸井
- ぼくはコピーをしたわけじゃなくて、
「いまの自分の言葉は本心とは違う」
とか思いながら、
その場でなんとかしたり、
このくらいでいいやと思ったり、
そのこと自体を忘れたりしつつ、
過ごしていた感じですけど。
- しいたけ.
- へえー‥‥もうすこし話すと、
ぼくが他の人のコピーをすることを
決意した夜があったんです。
- 糸井
- コピーを決意した夜。
- しいたけ.
- 大学3年生のときにすごく好きな子がいて、
しつこくアプローチしてたんですね。
彼女が好きな小説を全部読んで、
感想文を送ったりとか。
- 糸井
- はい(笑)。
- しいたけ.
- でも彼女には他に好きな人がいて、
ぜんぜん振り向いてくれなかったんです。
でも、ある飲み会の帰りに、
ビッグチャンスが訪れたんですよ。
彼女がちょっと酔って
「彼女と帰り道が同じ方向の人は?」
となったとき‥‥自分だったんです。
- 糸井
- ここまででもう嬉しいね。
- しいたけ.
- そうなんです、もう人生で
最大のチャンスがやってきたと。
気づいたら、自分の目の前に
アメリカ大陸があったんです。
- 糸井
- もう波止場まで。
- しいたけ.
- 波止場が目の前に(笑)。
それで一緒に帰ることになって、
肩を貸して歩きながら
「そろそろ家に着くだろう」って
気配を感じたころに、
急に彼女が言ったんです。
「何か話をしてください」
- 糸井
- おお。
- しいたけ.
- で、これ、たぶん最後の詰めなんです。
難易度的にはチンパンジーでも
勝てる将棋みたいな。
でも、ぼくはそのとき唖然としたんです。
「え、こういう場面、何話せばいいの?」
って。
- 糸井
- たしかに。
- しいたけ.
- で‥‥いまでも覚えてるんですけど、
そのとき泣きそうになりながら、
あらゆるパターンを
シミュレーションしつつ、
頭の中の押入れを探りに探って。
でも探っても探っても、
何も見つからないわけです。
だから最後に1枚だけ見つけたカードを
「これしかない!」と思い切って
彼女に言ったんですね。
それが何だったかというと‥‥。
- 糸井
- うん。
- しいたけ.
- 「さるかに合戦についてどう思う?」って。
- 糸井
- (大笑)
- しいたけ.
- ひどいですよ。
- 糸井
- 俺が女なら好きだけど(笑)。
- しいたけ.
- 言った瞬間その場がシーンとして、
彼女から肩を外されて
「‥‥あ、もう大丈夫です」って
帰られちゃったんです。
そのとき
「この自分で勝負しちゃいけないんだ」
ということがはっきりわかりました。
自分のオリジナルで出せる
手持ちのカードって、こんなにボロボロの、
情けないものしかないのかと。
- 糸井
- はぁー‥‥。
だけどそっちのほうが、
本当は深いとこでモテますよ。
- しいたけ.
- 今なら自分に
そう言ってあげたいですけどね。
- 糸井
- ただ、その子には通じなかった。
- しいたけ.
- 通じなかったですねえ。
- 糸井
- つまり、相手が違ってたんですよね。
キングサーモン用の仕掛けで
鯉を狙ったんですよ(笑)。
それはキングサーモン用の仕掛けですよ。
- しいたけ.
- そうでしたねえ‥‥。
- 糸井
- 「さるかに合戦」と言ってしまったあと、
どうすればよかったんでしょうね。
- しいたけ.
- ああ、それは考えたことなかったです。
- 糸井
- 少なくとも、相手の価値観に合わせた
セリフが必要なんでしょうね。
大笑いしながら謝ったりとか、
言ったあとすぐに無理やり
「あ、そういう意味じゃなくて」とか。
- しいたけ.
- それは生き残る気満々ですね(笑)。
- 糸井
- ただまぁ、他に好きな相手がいる女の子は、
事故でもないかぎり無理ですよ。
どうアプローチしても、
結局、巣に戻っちゃうわけだから。
- しいたけ.
- 戻りますねえ‥‥。
で、「女の子が言う彼氏の愚痴を
信用してはいけない」というのは、
そのときに刻みつけられました。
それは「ノロケ」であると。
- 糸井
- 若いときに知ってよかったね。
- しいたけ.
- はい(笑)。
- 糸井
- だけど、こういう人が
占いのページを持ってるというのは、
やっぱりいいですね。
- しいたけ.
- そうですね、話すらできない、
底辺からスタートした感じなので。
- 糸井
- でも、しいたけ.さんは、
そんなに弱々の人にも見えてないから、
なにか程がいいんですかね。
- しいたけ.
- どうなんでしょうね。
(つづきます)