郷土愛が分割されている
いまの日本の実情を
たいそう憂えていらっしゃる
みうらさんですが、
次に訪れる県では、
「真実の歴史とはいったい何ぞや?」
という、まことに大きな問題について
話が及ぶことになりました。
静岡県 ゴミこそが、人の歴史を伝えゆく。
みうら
(県くじを引く)
あ、また小さい県だな。
ほぼ日
いや、わりと大きい県ですよ。
静岡県です。
みうら
ああ、まいったなぁ!
これはたいへんだ、これはたいへんだわ。
静岡は、いっぱいありすぎて
どこからしゃべっていいやら
わからないです。
‥‥でもしかし、ここは、
清水一家だと、ぼく思います。
ほぼ日
(意外そうに)
清水一家ですか。
みうら

静岡といえば、
清水次郎長なんですよ?
ぼくは、ギリギリがいま
TOKIOなんです。

ほぼ日 ???
みうら
TOKIOのメンバーが、
ギリギリわかるんです。
嵐以降はもう、
わからなくなっています。
KAT-TUNは、当然わからない。
亀梨っていう人と赤西っていう人がいるのは、
なんとなく聞いています。
でも、町を歩いてて、
「あ、国分太一だ!」
というふうに認識できるのは、
ぼくはTOKIOまでです。
みんなは、新しいグループの人たちの名前を
スッと覚えるでしょ?
エヴァンゲリオンの登場人物の名前だって
パーッと出るそうじゃないですか。
だけど、次郎長一家の何人が言えるんだ、
ってことなんですよ、問題は。
ほぼ日
問題は。
みうら

もっとさかのぼりましょうか?
例えば、釈迦の十大弟子というのがいます。
羅怙羅尊者(らごらそんじゃ)という方は
お釈迦さんの息子さんなんですよ。
ね? こんなとこでもう、いい話が出ましたよ?
十大弟子も言えないわ、
清水一家の名前も出てこないわ、
そんなことじゃ、どうなのかなって、
ぼくは最近、思うんですよ。
KAT-TUNよりも清水一家が
じゃないのかな?

ほぼ日 ええっと、清水一家というのは
清水次郎長と、それから‥‥?
みうら

でも、こんなこと言ってるぼくすら
3人しか名前が出てきません。
大政、小政、それから石松。
石松は、森の石松のことです。
いまじゃもう、合コンの席なんかで
「そりゃ大政だねぇ」
というふうには、例えられたりしないでしょ?
でも、さかのぼること100年ぐらいいくとね、
「あんたは大政タイプだね」
「小政タイプだね」
とか、言ったもんだと思います。
それから、シブがき隊の
「スシ食いねェ!」の言葉の発案はフッくんだと
はなまるマーケットで聞いたけど、
あれはもともと森の石松の言葉だったと
言われています。
静岡県に行くのなら、
「寿司食いねぇ」の名セリフは、石松である、
そのくらいは知っておいてほしいものですね。
ま、そっからかな?
静岡県の本題に入るのは。

ほぼ日 ええっと、
次郎長は一家には入ってないんですか?
みうら 次郎長は、おやびんです。
その下に、智恵がある者、腕力が強い者、
いろんな舎弟がいるんです。
それがきっと後世の、
「サイボーグ009」や「七人の侍」にも
引き継がれているんだと思います。
ほぼ日 申しわけないですが、
いままで全く、その、
清水次郎長さんに興味が‥‥
みうら

そうですか。
そうですか。
静岡県は清水市に、
次郎長さんの記念館(清水港船宿記念館)が
あるんです。
そこに行きますとね、
次郎長さんの資料がいろいろ置いてあります。
次郎長さんの銅像もあって
次郎長さんのグッズもあります。
ぼくが見かけたグッズは
次郎長さんらしき人が
カーッとあけた口が灰皿になっている
次郎長灰皿でした。
そんなアイドルグッズが出るほど
次郎長さんは有名なんですよ?
それをふまえて静岡に入ってもらわないと。

ほぼ日 肝に銘じました。
みうら

静岡に入ると、まずは駅ビルに驚かされます。
地下に行こうものなら、
お茶グッズがどっさり出てきます。
「茶ブレー」と書いて「サブレー」、
「茶プリン」と書いて「チャップリン」など、
茶にまつわるものごとがずいぶんと
店の前に陳列されています。
あとは、登呂遺跡ですよ。

ほぼ日 登呂遺跡は、静岡市にある、
弥生時代後期の遺跡ですね。
竪穴式住居を復元したものなどが
展示されているようです。
現在は、再整備中のようですね。
みうら

日本人を大きくわけると
遺跡が好きな人と
あまり好きじゃない人に
わかれます。

ほぼ日 まあ、大きく、大きくわけると、
そうですね。
みうら

遺跡が好きな人は、
じつは、そこに何もないほうが
想像力がかきたてられるんです。
ロマンを嗅ぎわけるには
「跡地」だけのほうがいいんです。
修復したり、のちに建てたものは、
どちらかというと邪魔なんですよ。

ほぼ日 そうなんですか。
みうら 例えば、お城の本格マニアの方にとっては
のちに建てられたり修復された
「城」本体はいらないんです。
石垣だけが残ってるほうがいいんです。
石垣をじっと見ていると、
「ここがこうなってて、こうなってて」
と、頭の中でカチカチカチと
城がみるみるできあがっていく、
それがいいらしいんです。
同じように、遺跡も、
そこに開いている穴を見て
思いをはせるものなんです。
ほぼ日 なるほど。
そこにはちょっと気づいていませんでした。
みうら

ところが、遺跡に全く興味のない人が、
どうやらこの世の中にはいるんですよね。
その人たちの発言に
びっくりすることがあるんです。

ほぼ日 なんでしょう?
みうら

青森県の三内丸山遺跡や、
佐賀県の吉野ヶ里遺跡もそうなんですが、
遺跡の上に、復元した
わらぶき屋根の住居が建っています。
遺跡に全く興味がない人は
「よく残ってんね」って、言うんです。
わらぶき屋根の家まで
残っていると判断
してるんですよ。
縄文・弥生から、わらぶきが
残ってるわけがないじゃないですか。
穴が残ってるだけですよ?
いま、ぼくがしゃべってることを聞いて
ドキッとした人、いると思いますよ?
これだけは言っておきましょう。
「登呂遺跡で
 上についてるわらぶきは、
 後からです」
そこだけは、わかっといてください。

ほぼ日 わかりました。
みうら

やっぱりね、いま、何がこの世の中を
悪くしているかというと、
弥生時代以降の集団生活だと
思うんですよ。

ほぼ日 集団生活が。
みうら

ぼくはいま
「キープオン縄文ロール」を提唱しています。
もっと「縄文で行こうよ」ということです。

ほぼ日 縄文というのは‥‥?
みうら

「食べものがなくなったら次行こうよ!」
ということです。
「ここに留まりたい」と思う執着心から
社会ができ、上下関係ができるのです。
いま、若い人たちが
「オレは自由です」と言うのならば、
キープオン縄文ロールの
気持ちでいないとダメなんですよ。
そして、
キープオン縄文ロールのあとに残るもの、
それは何だと思います?
貝塚です。
いま、東京には
夢の島というものがありますが、
あそこがいつか、貝塚になるんですよ。

ほぼ日 ゴミを処理する場所が
いつか遺跡になっていくんですね。
みうら そうです。
あと1億年後のことを、
想像してくださいよ。
夢の島は、じゅうぶん貝塚です。
ゴミを頼って、
歴史や、そのときの人の生活が
あらわになっていくわけですから。
立派なものだけを見ても
庶民の生活は、わからないのです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

これからは、貝塚思想は大切であると
みうらさんはおっしゃいます。
そうです、歴史を浮かび上がらせるのは、
立派な事象ばかりではありません。
いつかはゴミが貝塚になるように、
悠久の時間をかけて、
この連載も熟成していきます。
これは大きい話です。
みなさん、ともに歩んでいきましょう。
また来週、次の県です。

みうらじゅんマガジンvol.2が発売中です。
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【お申し込み・お問合せ先】
ブックスルーエ 0422-22-5677 (9:00〜22:30)
ブックストア談浜松町店 03-3437-5540 (10:00〜21:00)

くわしくは、こちらをごらんください。

2007-10-28-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい静岡県ご当地ソング
「静岡ロンリーナイト」を
どうぞお聞きください。