広島県にいるふたつの珍獣、
ヒバゴンとブンカッキーの運命に
思いを馳せ
切ない気分に陥りながら
次の県へ進みます。
いったい、いま
何県めなのでしょうか。
群馬県 最も自由な人たちが住んでいた場所。
みうら
(県くじを引く)
これはどこですか、
また四国ですか?
ほぼ日
群馬県です。
みうら

糸井さんの里じゃないですか。

ほぼ日 よろしくお願いします。
みうら
はっはぁ、群馬県、群馬県‥‥あのね、
みんなが縄文人にあこがれるのはもう、
充分承知の上、ですけどもね。
ほぼ日
はあ。
みうら

これまで青森県の三内丸山遺跡、
佐賀県の吉野ヶ里遺跡などを
見てきた私としては、
縄文の人って、フリーに見えるけど、
意外と有限会社だということが
わかってきたんですよ。

ほぼ日 え?
みうら

弥生になると、もう株式です。

ほぼ日 はあ。
それはどういうことでしょう?
みうら

縄文の人は、たいへんフリーランスで
「行ったら行きっぱなし」な人たちだと
思っていたんですが、実は、
それなりの社会はあった、ということが
わかったんです。
ぼくはそこで「なんだっ!」という気持ちに
なりました。
じゃあいったいほんとのフリーは誰なんだ!
ということで、調べたところ、
縄文より前の、群馬県の赤城山にいました。
岩宿人(いわじゅくじん)という人たちです。

ほぼ日 い、岩宿人‥‥ええと、旧石器時代なんですね。
みうら

岩宿人は真のフリーランスだったようです。
今日の仕事も
もらえるかもらえないかわからないぐらいの、
親だったら「帰って来い!」と言うような、
ほんとのフリーの状態でおられたようです。
歴代に本州に暮らした人びとの中では、
おそらくいちばん自由な生活をされたでしょう。
そういう人たちが、
群馬県にはおられました。

ほぼ日 どんな感じの自由さだったんですか?
みうら

あっちに食べものがあったら行き、
なくなったら違うところへ行く。
定住はしていないんじゃないでしょうか。
あとは、まあ、年金のことも
考えてないだろうし、
貝塚問題もそんなになかったと思うんですよ。

ほぼ日 貝塚問題。
みうら

うん。貝塚は縄文あたりからでしょうけども、
ちょっとやりすぎじゃないかと思うんです、
あの貝塚。

ほぼ日 静岡の回で
「歴史はゴミからわかる」と
おっしゃったばかりなのに。
みうら

貝塚ばっかり作っていくと
貝塚だらけで「くせぇや」ってことに
なると思いませんか。
だって、縄文の人たちは
各地に散らばしているわけです。
「燃える・燃えない」の作業も
やってないわけですよ。

ほぼ日 ははは。
やってない、やってないです。
みうら いま、若者は「俺は自由だ!」とか
言いますけども、
家、あるでしょ。
家、帰ったりするでしょ。
服とか着るじゃないですか。
ほんとの自由をね、
群馬県に行かれて
味わったほうがいいんじゃないでしょうか。
だいたい、ウッドストックよりも
ぜんぜん前ですから、岩宿人は。
ほぼ日 うははは。
みうら

はい。あとはね、えー、
群馬県には、ヘビセンターがありますよ。
何ていうヘビセンターだったかな?
名前も忘れてしまったぐらい、ぼくは
各地のヘビセンターに行っているんです。

ほぼ日 そうなんですか。
みうら

ヘビセンターで売っているベルトや財布は、
おしゃれなところで売っているものと違って、
すぐに表面が剥がれてきます。
それが特徴です。

ほぼ日 なるほど。
みうら

群馬県のヘビセンターの
ちょっとだけ恐いところは、
大蛇のホルマリン漬けの、
ホルマリンが少なくなって
きていることです。
あれは、蒸発したんでしょうか。

ほぼ日 え?
みうら

ホルマリンのつぎたしを
していないのかなあ。

ほぼ日 ホルマリンはつぎたしを
するものなんでしょうか?
みうら

恐いですよ、ほんとに。
そもそもヘビセンターというところは、
ヘビを見たあと、おみやげ屋さんで
ヘビの財布を買うということはどうだろう、
ということを問いかけてきているわけです。
いま、世の中は、ずいぶんと
生々しいことを避けているじゃないですか。

ほぼ日 はい、とんと避けています。
みうら 葬式だって、昔は土葬だったところを、
いまは火葬にしたりして、
現場は見ないじゃないですか。
インドのガンジス川なんて、
人が浮いていたりします。
ほぼ日 はい。
みうら その、生々しさから逃避している日本で、
生きているヘビの前で、
ヘビの財布が売ってるわけですよ。
ほぼ日

そうですね。

みうら どんな気持ちになるんだ、
もう一度、考えてみてくれっていう、
ヘビからの提案だと、ぼくは思います。
ほぼ日 そのことをみうらさんは、
各地のヘビセンターを訪れては
体感されている、ということなんですね。
みうら

そうです。
その都度、ヘビの財布を買います。
その都度、財布の皮が剥がれます。

ほぼ日 加工がちょっと、弱いのかもしれませんね。
みうら ところでみなさんは、国語の教科書で
群馬県出身である
田山花袋(たやまかたい)という人の名前を
知りますが、
当然、代表作は『蒲団(ふとん)』ですよね。
ほぼ日 はい。ちょうど100年前の文学作品ですね。
みうら 当時から「ぶっ飛んでるな」とは
思っていたタイトルですが、
ここでちょっと訊きたいんです。
『蒲団』は堅いと思い込んでた人、いるでしょ?
ほぼ日 ‥‥‥‥。
みうら 『蒲団』が堅いイメージが、
田山花袋から来ている。そうでしょ?
作品のタイトルや作者名が
あまりにもぶっ飛んでいるために、
読んでもいないのに覚えている作品が
みなさんにも、あると思います。
ぼくの頭ん中では、田山花袋の『蒲団』と、
小林多喜二の『蟹工船』は、
とんでもないイメージ
なっています。
『蟹工船』は、船の先が
カニになってるイメージです、
だって蟹工船ですから。
群馬県には田山花袋記念文学館もありますんで、
ぜひ行ってください。
ほぼ日 はい。田山花袋は、群馬県の方だったんですね。
知りませんでした。
みうら 田山花袋記念文学館には、
田山花袋と同時代の
いろんな人の作品も展示されています。
驚いたことに、ガラスケースのひとつに、
『我が輩は馬である』という
タイトルの本が置いてありました。
当時にもこういう方がいらっしゃったんだ、と
ぼくはとても、何かこう、勇気を持ちました。
何十年、何百年すると、
ガラスケースに入れてもらえることもあるんだ、
自分のやってた道は間違いではなかったんだ、と
参考になった記念館です。
『我が輩は馬である』の作者も
群馬県の方だと思います。
ほぼ日 なるほど、それはすごいですね‥‥。
群馬県といえば、高崎市も群馬県です。
みうら

高崎は観音様ですね。
はい、こちら、
真ん中が高崎観音です。



たいへん有名な観音様ですけれども、
気をつけていただきたいのは
上までのぼるための
エレベーターがないことです。
日頃の体力が問われますんで、
かんたんに高崎観音をのぼってやろう
なんてことは、なかなか危険です。
いろんな、ちっさめ(小さめ)の観音から
のぼられるのがいいんじゃないかなと思います。

ほぼ日 一見、気軽そうに思えますが、
運動不足の方は注意が必要ですね。
みうら 牛久の大仏のように
ギネスブッククラスになると
エレベーターが設置されているんですが、
高崎ぐらいの大きさのクラスは
たいがい階段です。
ぼくはもう、大仏や観音をパッと見たら
「あ、階段だな」と
わかるようになってきました。
このように、何も考えずに挑むと
旅先ではいろんなことが待ち受けていますので
お気をつけて行かれるのが
よろしいということです。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

ヘビセンターの近くには
木枯し紋次郎の記念館もあるそうです。
「あっしにはかかわりのねえことでござんす」
のセリフで有名な
紋次郎の里に立つこの記念館の名は
「かかわり〜な」というのだそうです。
群馬県、奥が深いです。
こういうことをこういうふうに
教えてくださるのは
みうらさんしかいない、と
つくづく感じるこの頃でございます。
来週も、次の県へ移ります。

2007-11-25-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい群馬県ご当地ソング
「上州の風」を
どうぞお聞きください。