大阪府で、
人生の
表と裏の連動を学んだあと、
シュラシュシュッと船を飛ばし、
一行はこの県に
向かうことになりました。
香川県 厳しさに、追い討ちループ。
みうら 今度はちょっと細い県ですよ。
ほぼ日

えーっと、香川県ですね。

みうら ああ、香川県!
香川県というと、当然、
うどんということになりましょう。
ほぼ日 はい、おいしいですね。
みうら

うどんは、お好きでしょうか、
うどんとそばは、どっちがお好きでしょうか、
ということなんですよ。

ほぼ日 ???
みうら

定食屋さんに入ったときに、
うどんとそばで悩むということが、
人生の中で、何回かあると思うんです。
ほんとうは、どっちでもいいと
思っているにもかかわらず、
みんなの注文が、
「おれ、そばにする」
「おれ、うどん」「おれ、そば」「そば」
と、回ってくるもんで、
あせって「そば」や「うどん」を
指定してしまうことが
じつは頻繁にありますねぇ。

ほぼ日 いや、あまり‥‥
みうら うどんが好きな人は、
ずっと「うどん」と言えばいいんです。
少なくとも、店に入る前から、
「うどん!」と決めておけばいいのに
そばと迷う日もある、ということは、
やっぱり、何でしょうね?
ほぼ日 何でしょうか。
みうら 就職シーズンのときに、
「オレは自由に生きるんだ」
なんて言ってた人が、
みんなが就活に、わーっと向かったときに
「ああオレも就活」と
思ってしまうようなことと似ていると思います。
うどんでいくんだったら、
もう一生うどんでいいと
思ったほうがいいと思います。
ほぼ日 はあ。
みうら

「うどん」と決めた人は、香川県ですね。
しかし、香川県の中でも
かなり奥地に行かなければ、
おいしいうどんが食せないことになっています。
町中にあるうどん屋さんもいいんですが、
よくテレビで
紹介されているようなうどん屋さんは
町からかなり遠く離れたところにあります。

ほぼ日 畑の真ん中に
うどん屋さんが立っていたりするんですよね。
みうら

ぼくは、何度かうどん取材で、
そういったうどん屋さんに
行かせていただいたことがあります。
車で何時間もかかるようなところに行って、
外に畑があって、
ネギを採って切ったり、
卵を自分でかけたり、
そういうこともやりました。
いろいろありましたけども、
必ず言われることは、
「このうまさで、この安さ」

ほぼ日 かけうどんで
百円台からあるみたいですね。
みうら

しかし、それまでに、
ものすごい運賃を
かけていることを
すっかり忘れているわけです。

ほぼ日 なるほど。
みうら

タクシーで行ったら、
「万」するくらいな値段で
うどんを食っているということを
すっかり忘れるほど、
自分がおかしくなっているのか、
それともうどんがうまいのか、
そのどちらかでしょう。
車に乗って何軒か
うどん屋さんをハシゴしたんですが、
最後はもう
おなかがいっぱいになっています。
「おまえは計算高いな」なんていう人でも、
一軒目に飛び込んでしまうと、
すっかり食べてしまうもんでね。

ほぼ日

お腹がいっぱいになってしまいますね。

みうら ですから、2軒目から
評価も落ちてしまいます。
さらに、香川県に宿泊して、次の日は、
うどん以外のものを食べたくなります。
それは、人の性(さが)というものです。
香川県には、手羽というんでしょうか、
クリスマスとかに出てくるような
鶏のもも焼きも有名なんです。
2日目は、みんながそれを
「うどん以外のもの、
 うどん以外のもの」

と言いながら、食したりします。
ほぼ日 何かに取り憑かれたように‥‥。
みうら そうです。
うどん以外ですと、香川県に行ったら、
こんぴらさんに行かなきゃなんない、
ということになります。
ほぼ日 金刀比羅宮に。
みうら

こんぴらさんに参るということは、
どういうことなのかというと、
足がとてもぱんぱんに張るということなんです。
「石段にもほどがある」
というのはこのことです。
これまでぼくは、仏像を見るために、
いろんな石段を上ってきました。
京都の神護寺も、石段で有名です。
奈良の室生寺も、石段で有名です。
しかし、比じゃないくらい、
こんぴらさんは
キング・オブ・石段です。
やっとのことで登りきった、
という場所に、拝殿があります。
しかし、その上に
さらに石段が待っていることは
意外と知られておりません。
拝殿のもっと上にある岩に
天狗がかけてあるんです。

ほぼ日 それは‥‥気づいても気づかないフリを
するかもしれませんね。
みうら 境内に置いてある看板の案内を見ると、
とても大きい天狗があるかのように、
絵が描いてありました。
天狗マニアだったぼくは、
足をぱんぱんにしながらも
行くべきであると思いました。
そこから先は、いままで登った部分の
3分の1くらいが、
石段として用意されていました。
ほぼ日 試練の追加はたまらないですね。
みうら どんな天狗だろう、どんなに大きいんだろう、
と、思いながら
苦しい階段を上がって行きました。
頂上に到着して、見ると、
岩のところに
小さい面がかけてあるだけでした。
双眼鏡で見て、ぎりぎりの大きさの天狗でした。
「天狗になるなよ」ということを、
おっしゃってるんでしょう。
ほぼ日 ふはははは。
みうら 帰り道は、かなりの脱力感で、
階段を下りることになりました。
下りるときには、
「足が笑う」というんでしょうか、
いろんな足の笑い方あると思いますけど、
かなりのガハハ笑いでした。
ほぼ日 和田勉さんばりの。
みうら その苦しい石段の修行を
助けてくれるものが、
そこに流れている
「金毘羅船々(こんぴらふねふね)」です。
“こんぴらふねふね
 おいてに帆かけてシュラシュシュシュー”
なんのことでしょう?
ほぼ日 なんのことでしょうか。
みうら 石段を上った疲れが、
馬鹿らしくなっていくような歌です。
しかも、アナログテープを使用しているため、
歌が少しのびていることに
みなさんも気づかれると思います。
そして、歌の終わりは
“一度回れば”というフレーズを合図に、
何度もリフレインしていきます。
何度もいやになるくらい同じ歌がくり返され、
それは、若者の間では「レイブ」と
いうことになります。
つまり、とても厳しい石段で
「金毘羅船々」を何度もループして聞くと
軽いトリップを起こすのです。
そうやって山頂に上がったときには、
気持ちよく拝殿で
拝めるということでございましょう。
ほぼ日 すばらしい効果ですね。
みうら こんぴらさんには、空気の澄んだ、
大晦日に行かれることをお薦めします。
ほぼ日 初詣のお客さんで、混雑しそうですね。
みうら 石段は、もう開店セールのように、
ものすごいことになっています。
前の人の肩に手を伸ばせば
そのまま上がって
いくんじゃないか、

と思うくらい、人、人、人です。
ぼくが行った大晦日は、空気が澄んでいて、
夜空に月が出ていました。
月の周りに、すごくきれいな輪が
できるときがありましてね、
とてもきれいでした。
ま、きれいだ輪、
ということなんでしょう。
ほぼ日 ‥‥‥‥。
みうら ありがとうございました。
ほぼ日 ありがとうございました。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

民謡「金毘羅船々」は、
いろんなバージョンがあるそうです。
そのため、みうらさんは、
「金毘羅船々」の入ったテープばかりを
購入していた時期があったそうです。
しかし、こんぴらさんに上る石段で
流れているあの曲こそ
「“正調”金毘羅船々」だと
みうらさんは言います。
しかし、その音源が
どこにも売っていないことを
知ったみうらさんは、
数年後、自らテープを持ち、
こんぴらさんに上り、
収録したこともあるんだそうです。
すばらしい執念です。
さて、残るは、
和歌山、埼玉、東京の3県です。
どこに行くのか、おたのしみに!

2008-07-20-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい香川県ご当地ソング
「ロンリー・オヘンローラー」を
どうぞお聞きください。