さあ、みなさん。
泣いても笑っても
あと2県でゴールです。
最後から2番目の県は、
夏のせつない思い出が寄り添う、
あの虫のいる県でした。
埼玉県 旅は意外と安全です。
みうら 残るは2県ですか。
やばいですね。
和歌山県と、どこですか。
ほぼ日 埼玉県です。
ラストの県では、なにかしたいですね。
その県にゆかりのある場所に行って
収録するのはいかがでしょうか。
例えば、郷土料理のお店なら、
東京都内にありそうですよね。
みうら

でも、埼玉料理と和歌山料理って
どんなお料理なのかな?

ほぼ日 たしかに、両県、お料理は
パッと浮かびませんね。
調べておきます。
いずれにせよ、いまは
無心でくじを引いてください。
みうら

運命は、変えられない、
決まってるんだもん、もう、この時点で。
(県のくじを引く)

ほぼ日 そうです、そうです。
みうら しかし、くじ引きは、ときに
選ぶことができる場合があります。
よし、こっちだ!
ほぼ日 (くじを見て)
埼玉県です。
みうら ね?
ほぼ日 あ、もしかして‥‥最後の最後に
手触りで、県を?
みうら

いや、手触りは、
実はいままでも、できていました。

ほぼ日 そうなんですか!
みうら

今回は特に、
わかってしまいました。
埼玉県ですか。なるほど。

ほぼ日 まあ、最後の2県ですから
わかってしまってもしかたないですね。
では、埼玉県、お願いします。
みうら

地方の鍾乳洞に行くと、
必ず会うことのできる虫がいます。
それは、カマドウマです。
それはわりと鍾乳洞限定の話だったんですが、
埼玉県はね、
山にいけば、いつでもいるんです。

ほぼ日 カマドウマが。
みうら

ぼくがはじめてキャンプ場に行ったのは
小学生のときでした。
キャンプって、
嫌な思い出しかないんですよ。

ほぼ日

そうなんですか。

みうら そのときに、ぼくはいつも、
のけものなんです。
いちおうクッキング現場には行くんですが、
みんなに「おいおい」と手で制され、
寄せてもらえないんです。
料理に興味がなくて困ったことは
それまで一度もなかったけど、
キャンプ場に行くと、
その男らしくない感じが、
さみしい思いとなってあらわれます。
しょうがないから、バンガローに行って
歌をうたったり詞を書いたりしていました。
「おまえは、バンガローに帰って
 歌でも歌っとけ」
というように、
アリとキリギリスのキリギリス
みたいな役をやらされるんです。
ほぼ日 はあ。
みうら ねぇ?
青春期もすぎ、大人になったら
キャンプする機会もなくなると
思い込んでいましたが
いい大人になってから、埼玉県の
つちうちキャンプ場というところに
行くことになってしまいました。
ほぼ日 うかうかできないですね。
みうら

もう40も後半になって、ですよ?
のけものになった思い出があることだけでも
嫌なのに、ぼくは蚊が嫌いなんです。

ほぼ日 また、悪いことばかり‥‥。
みうら ゴキブリは
顔で受けとめてつぶすくらい
平気なんですけど、
蚊はものすごく嫌いです。
いまでも、地方に行って
泊まったホテルに蚊が一匹でもいた場合は
殺すまで寝ません。
キャンプ場には、
蚊も出るわ、カレーも出るわ、
ということで、
嫌なことだらけなんです。
ほぼ日 その2点の困難を押してまで
40歳超えのキャンプに行かれたわけですね‥‥。
みうら キャンプ場では、わりと
ふだんあまり冴えないような方が
カレー鍋の前で
ものすごくがんばることがあります。
女子のみなさんも
「いつも文科系だけど、
 あの人、カレーの前ではたのもしいわ」
と、恋心を抱くに違いない状況です。
つちうちキャンプ場でも、
ぼくは端のほうでニンジンを切る役でした。
そのとき、キャンプ場のトイレのわきに、
びっちりカマドウマがいることに
気づいたんです。
ほぼ日 びっちり‥‥。
みうら 女子のみなさんは、
たぶん嫌いなものでしょう。
カマドウマは後ろ脚が発達していて
ぷっくりしているんですよ。
子どものころ、ぷっくりしているその脚が
とてもセクシーだと思いましてね。
ぼくのイメージでは、
網タイツ履いてるくらい、
セクシーレッグスなんですよ。
ほぼ日 はああ。
みうら カマドウマは、カマドの近くに出現するため
「カマドの近くにいるウマ」という
名前がついているんだそうです。
つまり、立場がぼくと同じなんです。
メインのカレーのところではなく、
カマドの脇で、特に動きもなく
体を寄せ合って、びっちりいるんです。
考えてみれば、ぼくはずっと昔から
カマドウマ人生だったんです。
ほぼ日 カマドウマがご自身であるかのような
お気持ちに‥‥。
みうら 小さい頃から、ぼくはいつもそうでした。
キャンプ場に行っても、
メインストリートから外れて
カマドウマをつついていたし、
海に行っても、泳げなかったので、
フナムシと遊んでいました。
何匹も捕まえるのが得意でね。
ほぼ日 はい(しんみり)。
みうら フナムシって、予想外の動きをするので
捕まえるのが難しいんです。
しかしぼくは、
長いこと海岸沿いにいましたんで
フナムシの気持ちがわかっていました。
手を出してスッと捕ることができるんです。
ほぼ日 たくさん、たくさん捕られたんですね。
みうら そんな埼玉県の思い出があります。
ほぼ日 キャンプ場以外では、いかがでしょうか。
みうら そうですね、ライン下りが
よかったです。
ほぼ日 長瀞の。
みうら ぼくは若いときから
川下りのイメージが苦手でした。
というのも、船がものすごい激流に
のまれながら下っている写真があるでしょう。
ほぼ日 わかります、わかります。
みうら 鳴門の渦潮と同じで、
その1枚の写真が出回っているせいで
恐怖心を生むことになるんです。
しかし、大人になってからは、
自然はいつも同じ状態ではない、
ということがわかりましたので、
先だって、ライン下りに行ってみました。
マイナスイオンたっぷりで、
とてもよかったです。
ケビンベーコンが出てくるような
映画さながらの恐怖体験があったり
怖い人が待っている、というわけでも
ありませんでした。
大丈夫だということがわかれば、
もう、こっちのもんです。
ほぼ日 よかったですね。
みうら アドベンチャーに
恐怖心を抱いているみなさんにとって、
長瀞のライン下りは
小さいときに育んだ「大丈夫か?」という心を
クリアする、絶好のチャンスです。
彼女と乗ると、男らしくない自分を見せちゃって
成田離婚的な激流離婚というのが
あるんじゃないかと、お思いだけれども、
大丈夫です。
ほぼ日 激流‥‥はははは。
みうら 「観光」は
それなりに安全になっていますから、
大丈夫だということを、
ぼくは、ここで
言わせていただきたいと思います。
いま、ぼくがいちばん怖いのは、吊り橋です。
各地で吊り橋を渡って、
「落ちるんじゃねぇか」と思ってきましたが、
落ちません、そう簡単には。
激流下りも、そう簡単には
転覆しません。
ほぼ日 みうらさんは、もともと
あまり危険なことはなさらない
タイプでしょうか。
みうら 自分を守ることが大好きな人間なので、
危険なことは嫌いでしたね。
ほぼ日 それにしては、
鍾乳洞のアドベンチャーをはじめ、
いろんなことにトライなさっていますね。
みうら すべて、リバーシブルで、クリアしました。
リバーシブルクリアです。
イメージで怖いと思ってたことを
40歳くらいからリバーシブルに
考えていくようにしたんです。
考えてみれば、わたしの歳は半世紀ですから、
当然、リバーシブルであるということなんで、
これからは、最終的に、
胎内回帰して終わるということです。
ほぼ日 はあ。
‥‥でも、白いスーツで東京に出て来られて、
こうして毎週日曜に各県を語り旅したり、
みうらさんは、チャレンジングな毎日を
過ごしてらっしゃいます。
みうら そうですね。もう、やりすぎました。
だから、あまり怖いものは、
なくなってきました。
ここまで生きてきてわかったことは、
ほんとうの怖さとか、
身を守らなきゃならないことは、
観光地には、ないということでした。
人生の上り下りのほうが、たいへんです。
ほぼ日 ありがとうございました。
みうら ありがとうございました。
今回のお話をノーカットでごらんになりたい方は
下の動画でおたのしみください。

日本全国をまわり、
生活の中にすべてがあることに
気づいたみうらさんは、
ご自分が全国で買い集めたグッズを
死後、どうするかについて
現在は思いを馳せているそうです。
すべての思い出を燃やされるのは
くやしいので、考えた末、
葬儀会場で物販を行なうことを
思いつかれました。
「生前の思い出あるよ〜、安いよ〜」
そんなお葬式はきっと、
みうらじゅんさんでしかありえません。
残るは、和歌山県です。
来週は、和歌山料理のお店から
お送りすることにいたしましょう。
(さて、和歌山料理のお店、
 都内にあるんでしょうか?)

2008-08-03-SUN
みうらじゅんさん&安斎肇さんが
結成した「勝手に観光協会」作の
すばらしい埼玉県ご当地ソング
「やるねさいたま」を
どうぞお聞きください。