僕らの時代と島耕作
弘兼憲史×糸井重里
写真:大坪尚人
 
第3回:来る者拒まず、去る者追わず。
弘兼   『島耕作』もここまで続いちゃうと
いろいろ大変なんですよ。
適当に描いたものが
全部「縛り」になっちゃって、
もうガチガチで、動かせなくなります。
「島耕作はうどんが嫌い」と
描いたことをすっかり忘れて
うどんを食べているシーンを入れてしまうと、
「うどん食ってるじゃないか!」って
読者から怒られたり‥‥。
糸井   担当編集者が
そのあたりの情報をまとめてくれたりは
しないんですか?
弘兼   一応メモを作ってくれてます。
『島耕作クロニクル』という本も出ておりまして、
登場人物の特徴とかエピソードとか
関係を持った女性の一覧とかが
載っているんです。
糸井   本人も、この本がないと‥‥
弘兼   わかんない(笑)。
糸井   (『クロニクル』を見て)
「大町久美子」とは18回。
弘兼   そう、18回エッチのシーンが出てきたっていう‥‥。
糸井   やっぱりどうしても
このへんを見ちゃう自分が悲しい(笑)。
弘兼   こういう裸のシーンを
あんまりリアルに描くと、
「陰毛を描いてる」と言われましてね。
許されてるわけじゃないですから、
わかんないように微妙に、
ただのシャドーみたいな直線を描いて、
まぁ、それはどう見てもヘアなんだけど‥‥(笑)。
言われたら
「だってこれただの直線でしょう」と言って逃げる。
でも、最近はもう言われなくなりました。
糸井   お目こぼしになったんですね。
島耕作は、
「どうしても」って手招きされたら、
女の人のところに行きますよね。
弘兼   ええ。島耕作は、
「来る者拒まず、去る者追わず」なんです。
どこかで、そう決めたんです。
糸井   (笑)
弘兼   来るものを拒むというについては、
僕、こう思うんです。
女性が男に自分から言うのって
けっこう勇気が要ると思うんですけど、
それを「おまえなんか嫌だ」って
無下に断ると気の毒じゃないですか。
だからとりあえず受け入れる。
糸井   これは考え抜いた話だ。
弘兼   (笑)
糸井   このことについては、
弘兼さんは世界中で一番考えていると思いますね。
弘兼   ええ(笑)。
「去る者追わず」については、かなり考えてます。
といっても男はそんなに追っかけないですよね。
‥‥あ、そうでもないか。
いま、ストーカーだらけだし。
糸井   でも、昔はストーカーって言われなかったから、
ちょっと好きな子を追っかけたら
それで満足したんです。
いまは、ちょっとしたことでも
ストーカーと言われかねないし、
「しちゃいけない」と思うから
鬱血するんじゃないですかね。
昔のラジオ番組の『小沢昭一的こころ』に、
僕が好きな話があって、
好きな女の子の家の周りを
ハモニカ吹きながらぐるぐる回る
という話なんですけど、
それも、いまだったらストーカーですよ。
でも、吹いて回ったから諦めもついたし、
あとで笑えるんだと思います。
弘兼   ああ、たしかにそうですね。
糸井   弘兼さんご本人は、来る者はどうしますか。
弘兼   来る者は拒まないタイプです。
糸井   そうですか。
弘兼   うん。
糸井   それでおしまい。
説明はなし、ですね?(笑)
弘兼   いやいやいやいやいや(笑)、
だって、別に来ないですよ。
来ないけども、仮に来たとして、
自分の好みに合わなくても、
とりあえず、相手のことを慮るってことです。
糸井   来た球を打つ。
弘兼   来た球を打つ(笑)。
でも、『島耕作』に出てくる子も、
謝萠縁や高市千鶴みたいな
全然美人じゃない子が
人気が出たりするんですよ。
「なんかかわいい」って。
糸井   それはやっぱりトータルのかわいさが
どこかにあるわけでしょう。
弘兼   あるんでしょうね。
糸井   こういう話をしてたら、
永遠にしゃべり続ける人たちが
山のようにいるんだろうなぁ。
島耕作の持っている
「僕はそういうつもりじゃないんだけどモテちゃう」
っていうのに影響されてさ、
実際は一生モテないで終わる人だって
いると思うんです。
弘兼   受け身でいても、
いつかモテるだろうと思ったら
一生モテない、という‥‥。
糸井   「いや、いいんですか、僕なんかで」
ってやりたいのに、
来る者は‥‥「あ、来ないな」って。
島耕作の悪影響ですよ(笑)。
弘兼   (笑)
糸井   男の中にはその要素がありますから。
弘兼   ありますよね。
糸井   「あわよくば誘ってくんないかな」
と思っている男は、
世の中に100万人単位でいますよ。

(つづきます)

2014-11-21-FRI
 
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