糸井 | 漫画の話って、ついストーリーの話ばかり してしまうんですけど、 実はみんなが本当に魅力を感じているのは、 絵だと思うんです。 |
|
弘兼 | そうですね。 漫画にも流行りの絵というのがあって、 たとえば大友克洋という漫画家が出てきたころは みんな真似して描いてましたし、 いまだと「週刊少年ジャンプ」系の 髪の毛をツンツン立てた顔とか、 時代によって流行りの絵がありますね。 僕は誰にも影響されないで 描いてきたと思っているんですけど、 それでも、手塚治虫さんと永島慎二さんと つげ義春さんと上村一夫さんには影響を受けたかな。 でも、みんな全然絵が違うんですよ(笑)。 |
|
糸井 | あぁ、そう言われたら、 それぞれの方と、どこか結びつきますね。 |
|
弘兼 | もともと最初は手塚さんが好きで‥‥ といっても、手塚さんは好き嫌いにかかわらず、 すべての漫画家が最頂点に置くんですが。 そして、永島慎二さんの『漫画家残酷物語』や つげ義春さんの『ねじ式』、 上村一夫さんの『同棲時代』がすごく好きでした。 |
|
糸井 | 僕も上村さんとは付き合いがあったんです。 |
|
弘兼 | ああ、そうなんですか。 上村さんって、 お酒飲みながら、絵を描かれるんですよね。 飲み屋から電話をかけてきて、 「来いよ」と言うから行ったら本人がいなくて、 「あれ? 上村さんどこですか」と言ったら、 「そのへんにいない?」って言われて見たら 床に寝ていました(笑)。 |
|
糸井 | ああ、ああ。 そんな感じでしたね。 |
|
弘兼 | ウイスキー片手に かなり傾いて描いてましたから、 正面から見ると、ほんのちょっと歪んでるんです。 |
|
糸井 | 絵に斜体がかかってるんですね。 |
|
弘兼 | そう、片側が延びてて。 あれは上村さんの傾いた視点から描いてるからです。 |
|
糸井 | それは弘兼さんが 初めて言ったことじゃないかな。 |
|
弘兼 | ああ、絶対そうだと思います。 |
|
糸井 | 上村さんの漫画というか劇画は 阿久悠さんの作る歌詞と 同じ世界のように感じます。 阿久悠さんというのは、犯罪とか いままでにない物語を書かれたように思うんです。 |
|
弘兼 | 阿久悠さんの歌詞に 『ざんげの値打ちもない』とかありますが、 ああいう感じのものですよね。 |
|
糸井 | そうです。 そういう雰囲気をまとったものとして 上村さんの漫画『同棲時代』があって、 弘兼さんの『人間交差点』にも 影響を与えているんだなって‥‥ 自分としては 「そういうつながりか!」って とても納得しました。 |
|
弘兼 | あ、そうですね、そうですね。 |
|
糸井 | つげ義春さんは もう、スターでしたね。 |
|
弘兼 | スターです。 みんなの教科書でした。 つげさんの『ねじ式』をみんなで読んで、 「何だろう、この意味は」 「意味なんかなくていいんだよ」って 言い合ってました。 |
|
糸井 | つげさんの原画が載ってる 『夢と旅の世界(とんぼの本)』 っていう本、ご覧になりました? |
|
弘兼 | いえ。 |
|
糸井 | もうビックリします。 つげさんの漫画の原画を そのままを写真に撮って本にしてるんです。 だから、描いた勢いだとか、 写植を貼った跡とかが全部見えるんです。 |
|
弘兼 | ああ、なるほど。 |
|
糸井 | すごいです。 |
|
弘兼 | つげさんはね、エロいんですよ。 |
|
糸井 | エロいですね。 |
|
弘兼 | つげさんの描いた『ゲンセンカン主人』とか、 僕も影響を受けてるかもしれません。 |
|
糸井 | あぁ、そういうつながりは すごくおもしろいですね。 |
|
弘兼 | あと少年漫画だと ちばてつやさんも好きでした。 『紫電改のタカ』とか 泣きながら読みましたから。 |
|
糸井 | ああ‥‥。 で、『のたり松太郎』も。 |
|
弘兼 | 読みました。 でも、ちばてつやさんだからできるんだけど、 『のたり松太郎』では、 鼻をほじるシーンで2ページくらい使うんです。 そんなことしたら普通の漫画家は怒られますよ。 「そんなので2ページも使いやがって」みたいな(笑)。 |
|
糸井 | ‥‥弘兼さんって、いまさら言うと変ですけど、 ものすごく漫画ファンですね。 |
|
弘兼 | ずっと漫画ばっかり読んでましたから。 いま読めないのは、嫌いだからじゃなくて、 時間がないからなんです。 小説もそうです。 だからときどき、 「これ浅田次郎さんのナントカに似てる」とか 言われるんですけど、読んだことなくて。 前にSFを描いたときも、 自分で頭でひねくり出して描いてたら、 SF作家のアイザック・アシモフとか アーサー・C・クラークに似てたらしくて、 「読んだだろう」と言われました。 いや、読んでないけど‥‥ 俺って、たいしたもんだなと(笑)。 あの人たちと同じ発想をしてるって、 自分でビックリしたことがありました。 |
|
糸井 | たぶん、物語の原型みたいなものって 一人一人が神話を作るみたいに 似てくるんじゃないですかね。 |
|
弘兼 | そうですね。 無意識のうちに自分の引き出しの中に いろんな情報を取り込んでるからかもしれないです。 自分で考えて書いているのに、似たものになる。 |
|
糸井 | うん。だから、ある時代が 歌詞をみんな似せてしまうみたいにね。 たとえば僕らが一番歌謡曲を聞いていた時代って、 まだ男はカッコよかったんです。 でも、上村一夫さんの『同棲時代』あたりからは 女性のほうが主役で、男は脇ですよね。 |
|
弘兼 | うん。いつも悲しそうな顔して。 |
|
糸井 | 悲しそうで、無力ですよね。 で、とうとうジュリーが 片割れの阿久悠さんの歌を歌うようになって、 「壁際に寝返りうって 背中で聞いている やっぱりおまえは出ていくんだな」 と歌詞にもありますが、 男はやけっぱちになって、 タバコ吸ってるだけなんです。 |
|
弘兼 | (笑) |
|
糸井 | 男はもう何も なし得なくなっちゃったんですよ。 |
|
弘兼 | そうですね。 |
|
糸井 | これだけ時代が変わっていくなかで 弘兼さんみたいに相当忙しい方が 時代の空気を感じ取って描きつづけているのは、 壮絶なものがあるんじゃないかなと。 |
|
弘兼 | ああ、アンテナは張ってます。 |
|
糸井 | そうでしょう。 |
|
弘兼 | 漫画を描いていると、 テレビ見る時間はあまりないんですけど、 耳はあいているんで、 ずーっとラジオかけて、音楽をたくさん聴くし、 ニュース番組も、報道番組も 毎日、何かしら意識して聴いていますね。 (つづきます) |
Tweet |