ごはん片手のおいしい時間。ごはん片手のおいしい時間。

トースターでみんなをあっと言わせた
バルミューダが、2月に炊飯器を発売しました。

いまも品薄状態がつづくほど好評らしいです。

ぜひそのごはんを食べてみたい!

寺尾玄社長を迎えてお茶碗片手に話す
糸井重里の「おしゃべり編」と、
伊藤まさこさんによる「定食」編、
ふたつの読みものにして
ごはんを囲むおいしい時間をお届けいたします。

4月7日(金)より
TOBICHIとWEBのほぼ日ストアで
特典つきの販売をいたします。

くわしくはこちらをごらんください。

バルミューダ株式会社 寺尾玄さん+糸井重里 食べるおしゃべり編

第2回ごはんがもつ力。

糸井
みんながちょっとだけ
「こうるさい」ことを言うような、
いわゆるグルメの世界があるでしょ?

たとえばお寿司屋さんなら、
「あそこの店はちょっと赤酢がきいててさ」
と、解説したりする。
それはそのお店の「特徴」を
言っていると思うんだけど、
ぼくは「特徴」を言えないおいしさのほうが
上だと思っているところがあります。
牧野富太郎さんが書いた
『植物図鑑』という本には、
牧野さんのスケッチした植物が載っています。

たんぽぽだったら、
いちばんたんぽぽらしいたんぽぽが描かれています。

たんぽぽの特徴がすべて備わっていて、なおかつ
いちばん「なんでもないたんぽぽ」が
そこに現れなければいけない。
食べものにも、そういうところがあると思います。

「これは癖があってうまい」という場合は、
「癖がある食品としてふつうだと思える」
というものがいちばんいい。

隠し味にパクチーが入ってるんだったら、
パクチーが入ったままで普遍化できればいい。
さっきぼくらが食べた丸赤の干物は、
「べつになんでもないけどね」という顔をしています。

あの魚は、なんでもないおいしさを
持っていると思います。
寺尾
そのとおりですね。

おかずだけでなく、ごはんもまさに
そういう性格があると思います。
糸井
「信長の野望」みたいなゲームだと、
茶釜のようなものが戦略に使われます。

どこかの社長にごちそうするのに
予約が難しいレストランを取ったとか、
俺が言ったのにだめだったとか、
あれはいわば、信長の時代の茶器の話でしょう。

茶器は、価値という情報です。

「あれはうまい」「あそこはご存じですか」
というのは、情報の話です。

うれしさとはちがう。

そこをいちど解き放ちたいと、ずっと思っていました。
寺尾
そうですね。

ぼくらも炊飯器を開発するにあたり、
うれしさを再認識したいと思いました。

糸井
BALMUDA The Gohanがやっていることは
古典のモダンアート化ですよね。

だいたい、寺尾さんがやることって、それが多い。

つまりそれは、いちばん普通なんだけど、
「それが欲しかったんだよ」と
みんなに言われるものです。
寺尾
はい。
糸井
「いまの技術をもってすれば、こんなによくなるよ」
というところをめざすんじゃなくて、
いちばんなんでもないおいしいもののために
さまざまなテクノロジーやアイデアを使うわけです。
寺尾
食べもののふつうのおいしさのひとつに、
「雑味を取ってったらこうなる」
という味があると思います。

今回、そこをとても気にかけてやってきました。

よけいな味や甘さはつけない、
そこを「ウリ」にしない。

ですから開発者が途中で会議室に駆け込んできて
「わかりました!
おいしい米を食うには、高い米を買うことです」
というひと幕もありました。

「ほんとか」

「ほんとうです、間違いありません」

糸井
そこからどうしたんですか?
寺尾
一時は、おいしいごはんを冷凍する技術を
開発しそうになってました。

高いお米と安いお米だったら、
高いほうがおいしいのは、わかる。

でも、同じお米だったら、
炊飯方法で味が変わる、という
あたりまえのことをもう一度思い出しまして。
糸井
それは、思い出してよかったですね。
寺尾
はい(笑)。

でも、そこで出た結論がひとつあります。

ぼくらはごはんのおいしさを
追求しようとしていたけど、
ぼくらがそのとき求めていたのは
食事全体のことだったんです。
高いお米を買って、凝った炊き方をすれば
ごはんはおいしい。

でも、いつのごはんがおいしかったかという
話をすると、
「母ちゃんに作ってもらった運動会のおにぎり」
なんて奴もいるわけです。

つまり、誰と食べるか、いつ食べるかのほうが、
味のためにはよっぽど重要だということ。
そう考えると、
ごはんは主役になっちゃいけないんだと思いました。

「夜ごはん何?」って親に訊いたら、
「ごはんだよ」なんて言わない。

「生姜焼きだよ」

「カレーだよ」

「餃子だよ」

って、必ずおかずを言います。
人がこころ躍るのは、おかずです。

ごはんは相方で、
すばらしいキャッチャーであればいいんです。

それで結局、やってったのが雑味取りで。

糸井
なるほど、引き立て役ですよね。
寺尾
はい。
すっきりとごはん本来の味わいと香りがある。

それだけでいい。

「それ以外やらない」というコンセプトで
絞り込んで考えました。

だから、私たちの炊飯器のごはんは、
おかずと食べるとものすごくおいしいです。
2015年にトースターを販売し、
キッチン家電をはじめて取り扱いました。

それまで私たちが出していた空調機器類に比べて、
使ってくださる方々との
コミュニケーションのしがいがすごくあったし、
「おもしろい世界だな!」と思いました。

キッチン家電でお客さまに提供したいのは、
五感で感じるおいしさです。

トースターはその考え方で開発した商品です。
糸井
あれは、みごとでした。

寺尾
でも、トースターのあと、
こんなことをふと思いました。

「2つ星や3つ星のレストランに
仕事で行ったときと、
山に登った帰り道、息子と
ロードサイドの牛丼屋さんに入ったとき。

どっちがうまいだろうか」
これは明らかに、後者です。
糸井
そうですね。
寺尾
味そのものは、
作り込まれたレストランのほうが
絶対においしい。

しかし、さきほども言ったように、
食べる人と、食べるときによって、
うれしさが変わります。

おいしさは変わってないんだけど、
おいしさそのものが価値ではない。
もちろん、おいしければおいしいほどいい。

でもそれより大切なことがある。

体験は五感で感じるものですから、
おいしさのほかに、美しさ、気持ちよさ、
いい音‥‥そういう話になっていきます。

その「総合したたのしさ」をめざしたかったのです。
糸井
ほんとうは
「このごはんは、まず塩だけで食べてください」
なんて、トゥーマッチに
表現したくなっちゃうと思うけど、
寺尾さんたちがそれを乗り越えたのが
えらいと思います。

「単独で食べたらどっちが勝つ?」
みたいなことは、ほんとうは
しなくていい勝負です。

おいしくたのしく、自分が食べればいいんですよね。

(つづきます)

2017-04-03-MON