第3回おいしい時間。
- 寺尾
- 私たちが作っているのは道具です。
なぜ道具があるかというと、便利だからです。
洗濯機や炊飯器は、それらがなかった時代と比べると、
劇的に家事が便利になりました。
- あれが日本中の家庭に提供したものがなんだったか?
それは、お母さんの時間でした。
洗濯に2時間かかってたのが、
最初と最後の10分だけいればよくなった。
それまでのまるまる2時間をなんにでも使える。
自由な時間が提供されるということは、
その人の暮らしに、可能性が増えるんです。
- 道具は人の役に立ちますが、
それ以上のことできません。
どんなユーザーに対しても、
その人生を、少し広げること。
道具ができるのはそれだけです。
そこからは、その人次第になっていくと思います。
- 糸井
- そして、寺尾さんたちは最終的に、
人がたのしくなる食事を提供する道具を考える、
ということに行き着いたわけですね。
- 寺尾
- うちが作る炊飯器が
どういう道具であるべきかを考えると、
人が食事をする場所に出てくる、
ふつうのごはんを炊いてくれるものがよかったんです。
ただ‥‥その「ふつうのごはん」が難しい。
- 糸井
- そうですよね。
- 寺尾
- じつは私は、炊飯器で炊いたお米の匂いが
好きじゃなくて、
10年以上、ガスを使って土鍋で炊いてきました。
ですから最初から、
ガスを超える味を
電気の力を使った道具で実現できないか、
という試みからスタートしました。
- 糸井
- それは、成功したと思います。
寺尾さんの中には、
人間である寺尾さんと、
バルミューダ社長の寺尾さんがふたりいて、
両方まざってるのがおもしろいですね。
おいしくなくていいのに、おいしくなきゃいけない。
それをこの炊飯器は実現していると思います。
- 寺尾
- ありがとうございます。
- 糸井
- うれしい食事をするのって、
食事以外に用事のない人と食べるのが、
いちばんですよね。
- 寺尾
- ああ。なるほどそうですねぇ。
- 糸井
- ただ食べて、ただうまい、という状態。
究極は、やっぱり家族です。
両方機嫌が悪くても、
用事がない状態がごはんをうまくします。
- もしもぼくがいまから寺尾さんと
おいしいものを食べに行ったら、
「これうまいな。どうやって作ってるんだろう」とか
「おいしいとは何か」とか、調べちゃうと思います。
そういうことをやると、やっぱり落ちる。
何にも用事がなくて、
相手がおいしそうにしてるのを
自分がおいしがるのがいちばんいい。
- 寺尾
- それはありますね。
人がおいしそうにしてるのって、
すっごくうれしい。
私の最高のごはんは、ハムエッグ定食です。
- 糸井
- 誰のハムエッグ定食ですか?
- 寺尾
- 親父のです。
親父と弟と、
3人で暮らしてたことがあったんですよ。
もう、キャンプみたいな毎日で、
そのときに作ってもらった
ハムエッグ定食が最高だった。
- 糸井
- ハムエッグに「定食」ってつくのが
おもしろいです。
- 寺尾
- ハムエッグと、ごはんとみそ汁。
丸くて薄くて、5枚パックで売ってるハム。
- 糸井
- 薄いハムね。いいね。
薄いハムと厚いハムって、別ものだと思う。
- 寺尾
- 薄いハムはね、絶対に
火を通しすぎちゃだめなんですよ。
ベーコンとソーセージは、
弱火でじっくり火を入れてったほうが
おいしくなるけど、ハムはダメ。
表面はちょっと焦げめがついたほうがおいしいから、
油をしいて、火を強くして、
1枚ずつハム入れて、20秒ぐらいでひっくり返す。
表面が照り照りで、焦げがついて、
なかに水分が充分残ってる状態で
フライパンからあげて。
- 糸井
- いいなぁ、食べたくなってきちゃう。
- 寺尾
- うまかったなぁ。
- 糸井
- この炊飯器「保温機能がない」というのも特徴ですが、
冷えてもおいしいのがすごいと思います。
- 寺尾
- 保温って、まずくなりますから。
- 糸井
- そうですよね、どうしても。
このごはんは、冷えてもちゃんとほぐれるし。
- 寺尾
- お米がほぐれるという評価は
これまでの炊飯器家電に
なかったかもしれないですね。
べたべたの水分が出てないんですよ。
- 糸井
- 見事ですね。
ということは、
お茶漬けにもほぐれがいいね。
- 寺尾
- まあ、多分、最高だと思いますね。
- 糸井
- (笑)
- 寺尾
- 特におにぎりはもう、世界一ですよ。
ほんとに世界一だと思う。すごいもん。
- 糸井
- バルミューダがやっていることと
ほぼ日に似ているところがあるとすれば、
「なにを売っている会社ですか?」
というときに、家電と言わないところだと思います。
便利さによってできた自由な時間、いい時間、
その「いい時間」に、
いっしょにすごせる何かを作っている。
- 寺尾
- それは物語と言いかえてもいいですよね。
- 糸井
- 確かにそうですね。
だれかを助けてくたびれた時間も、いい時間。
どこかの人に接待されて、
仕事でおいしいごはんを食べてるのは、
いい時間じゃないかもしれない。
「いい時間」にはその人の「思想」が入っているから、
物語とも言えます。
- 寺尾
- そうですね。
- 糸井
- 今度、TOBICHIでまた、試食会をやります。
そのときに、お客さんたちに
どんな時間がひろがるか、たのしみですね。
- 寺尾
- はい、ありがとうございます。
とてもたのしみです。
(つぎは、伊藤まさこさんの、
ごはんに合うおいしいものが
どんどん登場しますよ!)
2017-04-04-TUE