乗組員やえの疑問

タワーを支える根元はどうなってるの?

スカイツリーおじさんの解説

建物には「基礎」といって、
建物からの力を地盤に伝達し、
建物を安全に支える構造をもっています。

東京スカイツリーでは、
地盤深くに杭を打ち込む「杭基礎」を用いています。
ただし、これまでにお話したように
スカイツリーの縦と横の比は
約「9.3:1」というスレンダーなものです。
これだと、大きな地震や強風による揺れによって、
足元部分に大きな力が加わります。
つまり、
仮にタワーが右に倒されようとしている時には、
右の足元には「押し込み力」がかかり、
その反対側の足元では
「引き抜き力」がかかることになるのです。
そこで杭の設計にも工夫を凝らしました。

まず、底面正三角形の頂点部には、
厚さ約1.2mの鉄骨入りの壁状の杭を、
地下35mにある支持地盤のさらに深く、
地下50mまで打ち込んでいます。
支持地盤とは
要はその敷地における堅い地盤のことです。
この杭は、「節(ふし)」の付いた
壁状のものにすることで、
地盤との摩擦抵抗を大きくして、
「押し込み力」や「引き抜き力」に抵抗します。
この「節」は、
いわば「スパイクシューズの靴底」のようなものです。
節があることで地盤にくい込み、
しっかりと地盤をグリップするという役割。

また、底面の三角形の頂点部では、
杭を1本だけ打っているのではなく、
この壁状の杭を複数用いて、
放射状に地中に張り巡らせています。
例えば雑草抜きをするときに、
根がまっすぐなものはスポンと
根だけきれいに引き抜けますが、
根が広がったものは、
抜いても根に土塊が纏わっていて、
なかなか抜けなくなっていますよね。
これと同じように、
「木の根」のように地盤と一体化する
ことを意図しているんです。

また、地上に見えるタワーの鉄骨は、
そのまま地下の杭に連続的に接続し、
力をダイレクトに伝達するようにしています。
これを逆に辿って見れば、
「しっかりと根付き、大地から生えてきた
 大樹のように建っている」
とも見えるんじゃないでしょうか。

このように、底面の正三角形の頂点部分は
杭基礎で地盤とつながっていますが、
正三角形の「辺」の部分ではどうでしょう?
ここは、支持地盤のある地下35mの深さまで
壁状の杭で連続的に結んでいます。
いわば、壁杭でもってタワーの中心部を
囲っているようなかたちです。

このことにも意味があるんです。
以前にお話ししたように、
地震による揺れは、
岩盤から地表部分までの
やわらかい堆積層を伝わる際に
揺れが増幅されます。
そこで、ツリーにおいては、
周囲の堆積層から壁状の杭で囲うことで、
揺れが堆積層を伝わる際の増幅作用の影響を
低減しようと考えたものです。

ちなみに、これらの杭は、
あらかじめ壁状の杭があって
地盤を掘削してそこに杭を入れていくのではなく、
逆に、掘削した地盤の中に鉄筋を組み込み、
後からコンクリートをその穴の中に流し込んで固め、
壁状の杭を形成しています。
なので、実際に使われている壁状の杭を
見ることはできないんです。
同様にその場で杭をつくる「場所打ち杭」として、
タワーの中央部や周囲に円柱状の杭を打っています。

また、上部の構造物から杭へと力を伝達する、
建物の土台部分(基礎)にも工夫を凝らしています。
上部鉄骨造であるタワーから大きな力が作用することから、
その平面形状に合わせて
鋼板壁を内蔵した鉄骨鉄筋コンクリート壁を配置しています。
その鋼板壁の厚さは55〜22mmで、
鉄筋コンクリートの厚さは
2.7mと1.9mという大きなものです。

「基礎研究」、「基礎学力」、「基礎体力」
などと言われるように、
基礎は物事のもとになるものとして重要です。
スカイツリーにおいても、
目に見える部分ではないですが、
いわば、ツリーの根にあたる、非常に重要なパートです。

また、建物を建てる場合、日本においては古くから
土地を守る神様への感謝や工事の安全を祈り、
地鎮祭や上棟式など、
様々な神事が執り行われてきました。
そうした中、土地に直接かかわる「基礎」は、
いわば、その場所の奥深くに目を凝らし、耳を傾け、
基礎と言う約束事を、
その場所と取り交わしていく行為であり、
意味合い的には、ちょっと
神秘的なパートともいえるかもしれませんね。

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2010-10-19-TUE