タワーの地上部分を水平に切って上から見ると、
主要部は大きく4重の架構になっています。
中央には、鉄筋コンクリート造の
円筒形の避難階段室を配置しています。
その外側に、少し隙間を設けて、
階段室を取り囲むように
「内塔」と呼ぶ鉄骨骨組みがあります。
内塔の外側には、
エレベーターが入るスペースがあり、
このスペースの外側に
「中塔」と呼ぶ鉄骨骨組みがあります。
さらに中塔の外側、いちばん外周部は、
中塔から間隔を設けて、
鋼管によるトラス構造で「外塔」を形成しています。
外塔と中塔とはある高さごとに水平につなげています。
また、足元の正三角形の頂点部分には
4 本の主材からなる「鼎(かなえ)トラス」と呼ぶ
大きなトラスを配置し、外塔とつながっています。
外塔には、縦に長~く伸びていく柱と
斜めと水平に入っている部材があります。
うーん、ちと複雑ですね。
ちなみにトラスとは、ごく簡単にいえば、
三角形をひとつの単位として組んだ構造のことです。
さて、地震力や風荷重に対しては
主に鼎トラスと外塔が抵抗するように設計していますが、
おおまかにいうと、
縦に伸びる柱の太さは「風」で決まり、
斜めの柱の太さは「地震」で決まっているんです。
専門的な話ですが、ざっくりとご説明します。
いろんな人に伝わりやすいように、
学術的厳密さはここでは棚の上に
おかせていただきますね。
地震や台風などで建物が揺れたとき、
すなわち、建物が水平方向に力を受けたときに、
「転倒モーメント」と「せん断力」という
ふたつの力が生じます。
転倒モーメントは、前回、杭の話のときにあげた
「押し込み力」と「引き抜き力」の
ふたつの作用によるもので、
いわば、全体に働くものです。
特に東京スカイツリーのように、
細長いプロポーションで高いタワーにおいては
転倒モーメントが大きくなります。
そして、転倒モーメントに対しては
杭だけではなく、縦方向の柱が抵抗を負担します。
せん断力は、物体内部でズレを生じさせる力で、
平行で逆方向のふたつの力によって、
部材内のある断面にズレを生じさせる、
いわば、部分的に働く力です。
(はさみで紙を切るのも、
このせん断力を使ったものなんですよ。)
そして、せん断力に対しては
斜め方向の柱が抵抗を負担します。
さて、強風によるスカイツリーの揺れ方は、
ある一定の方向へとゆっくりと押されて、
押されたところで、細かく反復する=微動する
という揺れ方をします。
一方、地震による揺れ方は、
地盤から揺れが伝わってきますので、
力のかかる方向・分布は
風のときのように一様ではありません。
たとえば、
地震によって揺れている状態のある瞬間をみると、
ある高さでは右向きに力が加わり、
同時に別のある高さでは左向きに力が加わる、
といった事態になるのです。
この、風による揺れ方と、地震による揺れ方の違いが
縦に伸びる柱と斜めの柱を決定付けています。
転倒モーメントは、
「全体が一定方向へ押されていく」という、
風による揺れ方のほうが
地震のときのそれよりも大きくなります。
これは、地震による揺れ方は、
さきほど説明したように、
力の向きが一様でなく、逆方向にもなるため、
それぞれが自ずと相殺されて、
結果、全体にかかる転倒モーメントは、
風のときよりも小さくなるからです。
そのため、
縦に伸びる柱の太さは「風」で決まっているのです。
一方、地震による揺れは、全体で見たときには
各部の力が相殺されて小さくなりますが、
部分でみたときには、
各部に働く力の大きさは、
風のときよりも大きなものとなります。
そのため、
斜めの柱の太さは「地震」で決まっているのです。
もちろん、部材の太さを決めるのは
単に大きさ(面積)だけではなくて
材料の強度もかかわりますし、
自重など垂直方向の力も同時に考慮して決めています。
実際には、時々刻々と変化する
風あるいは地震によって生じる
力をコンピュータで計算しながら、
一本いっぽんの部材の安全性を検証しています。
ちなみに、一般的な建物では、ここまで「風の力」が
大きく影響してくることはありません。
634mと背が高く、細長いプロポーションの
スカイツリーならではの設計ポイント、なんですね。 |