乗組員やえの疑問

塔の部分は鉄骨ですよね? 鉄について教えて

スカイツリーおじさんの解説

その通りです。
「鉄骨造」は略して「S造」ともいわれます。
これは「Steel Structure」の
冒頭部の「S」からとったもの。
同様にコンクリート造は、
「Reinforced Concrete Structure」で「RC造」、
鉄骨鉄筋コンクリート造は、
「Steel-framed Reinforced Concrete Structure」で
「SRC造」と略されます。

と、英語にするとよくわかるのですが、
「鉄」といいつつも、
「アイアン/Iron」ではないのですね。
もちろん「Fe」でもありません。
これまでも「鉄」「鉄骨」と話してきましたけれど、
それらの言葉は、
いうなれば、大きなカテゴリーを示したもので、
同様の言葉としての「コンクリート」や「木」
ではないことを示している言葉の使い方なんです。

では、素材としての鉄を、
大雑把に、その系譜から追ってみましょう。
鉄の歴史はたいへん古くて、
鉄を用いた起源には、
紀元前30世紀、25世紀など諸説がありますが、
初めて人工鉄を武器として広く使ったのは、
紀元前15世紀頃、ヒッタイトというのが定説です。
ただし、2009年にトルコの遺跡で、
紀元前2100~同1950年と見られる鉄器が発見され、
これが世界最古の鉄器とのニュースがありました。

また、紀元前1100年頃のギリシャでは
製造方法が一般化していたといいます。
当時は、鉄鉱石と木炭を混ぜたものを炉で強熱し、
粘土や他の鉱物を木炭の灰と共に
鉱滓(こうさい/スラグ)にして
鉄=アイアン(iron)と分離。次に炉を壊して、
灼熱している鉄の塊(銑鉄〈せんてつ〉)を引き出し、
ハンマーで叩いて
「錬鉄(れんてつ/wrought iron)」
にするというものでした。
ハンマーで叩くのは、成型と同時に
不純物を除去する作業でもありました。
その後、炉や送風方法に改良があったものの、
14世紀まで、鉄はおよそこのような方法で
「錬鉄」としてつくられて使われてきました。

また、日本では「たたら製鉄」として
砂鉄を木炭と共に詰めて加熱することで、
錬鉄に炭素を吸収させて、
鋼=スチール(steel)にし、
刃物として使用することも行われていました。

鉄の歴史において、
飛躍的にその性能向上と普及に寄与したのは、
イギリスの発明家/技術者、
ヘンリー・ベッセマーさんによる、1856年の
「転炉(てんろ/銑鉄を鋼に転換する炉の意)」の発明
といわれています。
これは、炉の中の銑鉄に空気(酸素)を吹き付けて
酸化反応させることで、溶銑中にある炭素や
銑鉄に含まれる不純物を取り除き、
「鋼」=スチール(steel)にするというもの。
ベッセマー転炉は、
25tの銑鉄をわずか30分で鋼鉄に転換できたそうです。
これまでの何十倍の効率のよさであり、
鋼鉄が安価に大量生産できるようになることで、
それまでは空想のものだった、
鋼鉄の橋や鉄道、大型船、高層建築などが
現実的なものへとなっていったのです。
補足すると、18世紀初頭からコークスで
炉の温度を上げる技術も発達しました。

その後、平炉製鋼法(1865年)などの発明によって
鋼材の大量生産が可能となり、
1885年以降、溶鋼生産は錬鉄を上回りました。
この19世紀後半以降、
世界史的に「鋼の時代」となったのです。

こうした鋼の普及と共に
冶金(やきん)工学が急速に進歩しました。
現代、さまざまに利用されている「鉄」は、
その多くは、鉄そのものではなく「合金」です。
マンガンやクロム、モリブデンなどの元素を混入して
新しい機能を加えたり、性能を高めた、
高性能鋼が出現・実用化されたのは
歴史的にはごく最近のことなんです。

また、こうした元素の添加のみならず、
焼なまし、焼ならし、焼入れ、焼戻しといった、
加熱・冷却により素材の性質を変化させる、
「熱処理」があります。
これにより「粘り強さ」を高めるなど、
素材のポテンシャルを目的に合わせて引き出すことが
重要な技術となっています。

さて、「鉄」はいわば塊として製造されますので、
それをそのままでは利用できません。
鋼塊をある形にする技術が必要となります。
大きくは次の5つの方法があります。
1.鋳造:溶鋼を鋳型に鋳込んで形にする
2.鍛造:鋼塊を叩いて(鍛造して)形にする
3.圧延:鋼塊を2本のローラーの間を通して形にする
4.プレス:鋼を型でプレスして成型する
5.溶接:圧延した鋼を切断し、溶接して形にする

ここにきて鉄が形になりますが、
まだ大づかみな形であり、
もうひとつ技術が必要になります。
つまり、そこからの加工や製品精度を高める技術で、
それを経て、ようやく部品として機能します。
鉄という硬いものを加工する技術(工作機械)には、
切削加工、剪断加工、研磨加工、塑性加工、
放電加工や超音波加工、レーザー加工といろいろです。

このように、各段階にあるさまざまな技術の進化体系が
「鉄」、「鉄骨造」になっているともいえるでしょう。

つまり、鉄は古くて新しい、のです。
そして、東京スカイツリーにも
その古さと新しさが用いられています。

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2010-11-10-WED