東京スカイツリーでは、
普通の建築では使わないような鉄骨を使っています。
例えば、足元の三角形頂点にある鼎トラス。
このトラスは、いわば4本組みの柱になっていますが、
そのいちばん外側にある、もっとも太い柱は、
直径が2m30cmもあります。
その厚さは100mm。
人の背丈より大きく、人の手幅より厚い鋼管です。
前回少し話したように、
この鋼管を製造する技術も大変なものです。
こうした鉄は、現代技術の賜物です。
有名なタワーとその材料でみてみると‥‥、
1889年完成のエッフェル塔は、錬鉄が使われています。
前回お話した「鋼の時代」の直前に、
いわば「錬鉄の時代」がありました。
錬鉄は鋼ほどの強さはありませんが、
粘りがあり、鍛造に適した素材です。
イギリスの産業革命時代、
1783年にへンリー・コートさんが
反射炉(パドル炉)で銑鉄を錬鉄へと
精錬することを始めました。
ここから錬鉄が大量に生産され、
産業革命を支える大きな存在となりました。
当時の錬鉄は、初期の鉄道、機関車、船、建物など、
さまざまに使われ、エッフェル塔がそうであるように
今なお、その姿を伝えています。
1958年完成の東京タワーは鋼鉄で、
現在建設中の東京スカイツリーも鋼鉄を使っています。
ただし、同じ鋼鉄ですが、強度が違っています。
断面積あたりの強度を示す「降伏強度」という値で、
東京タワーが240 N(ニュートン)/mm2、
東京スカイツリーでは場所によって
400~630 N/mm2のものを使っています。
単純にいえば約2倍の強度をもつ材料なんです。
もちろん、これは約50年という時間の差で、
東京タワーも東京スカイツリーも、
「当時」の最高の技術と材料で建てられている
ことに違いはありません。
さて、東京スカイツリーの設計では、
高強度で断面積の大きな部材(鉄骨)が必要でした。
これは、タワーの背が高いという理由だけでなく、
タワーの細長いプロポーションのため、
地震時や台風時に個々の部材に作用する
力が大きくなり、それに抵抗するためです。
同様の理由で、
部材の接合方法は溶接を前提としました。
となると、使う鋼鉄は、
高強度で靱性(粘り強さ)が高いだけでなく、
溶接性にもすぐれたものが必要になりました。
ちなみに、高い「靱性」の確保は、
一般に「強度」との両立が難しいものなんです。
実際に使用している鋼管は、
外径500~2,300mm、厚さ19~100mmと
さまざまなサイズがあります。
鋼管の長さや重さは、
工場から現場へ運搬できるか
(トレーラに乗るかや交通法規のクリア)や、
クレーンで揚げることができる重さか
などの諸条件を考慮して設計しています。
また、ゲイン塔と呼ぶタワーの最頂部には、
降伏強度630N/mm2級の超高強度鋼管を用いています。
今回使用した降伏強度が400 N/mm2以上の鋼材は、
高度な要求性能を満足するとともに、
この東京スカイツリー建設のために
国土交通大臣の材料認定を取得して
採用された鋼材なんですよ。
(認定の取得というのは、要はそれまでになかった
「お初」ものなので必要になる手続きです。)
日本の鉄鋼メーカーさんが頑張ってつくってくれた、
「ちょっとそこいらにはない鉄鋼なんだよ」って
自慢してみました(笑)。 |