第2回 「タグ」と「ソーシャル」
糸井
僕がグーグルのなかに感じた、
「ツリー構造」じゃないもの。
『ソーシャル・ウェブ入門』を読んだら、
それは「タグ」という考えかただと、
書いてあったんです。
山中
つまり、いろんなものごとに、
それぞれの「荷札=タグ」を
つけていくというやりかたですよね。
滑川
しかも「ツリー構造」の場合、
あるものごとにたどり着くまで
基本的に一本の経路しかないのにたいして、
「タグ」の場合は、ものごとに
思いつくまま、いくらでも「荷札」を
付けることができるんです。



山中 で、その「荷札」が一致しさえすれば、
同じカテゴリに分類される、と。
糸井

たとえば「クジラ」って、
ツリー構造で考えると「ほ乳類」ですよね。

でも、「タグ」の考えかたをすると、
「クジラ」には
「哺乳類」という荷札も、
「海」という荷札も付けられる。

「海」という荷札は、
「イワシ」にもついているし、
「アメフラシ」にも、ついています。

山中
ええ、ええ。
糸井
だから、「クジラ」と「アメフラシ」は
魚屋さんの店先や
生きものとしての分類では並ばないけれども、
「海」というカテゴリで、
いっしょに並ぶことができるんです。
滑川
タテ割り方式の「ツリー」ではなく、
ひとつのものごとに、
いろんな属性をつけられるのが
「タグ」の画期的なところなんですよ。
山中
ツリー構造では関係なくても、
あるタグを軸にすれば
同じカテゴリに重なってくる、と。
糸井

この考えかたを知ったとき、
これからはもっと自由に
「タグの構造」で人々は集まれるし、
「タグの構造」で
ものごとを分類することができる、と思ったんです。

人間の欲望がある限り、
これまでのヒエラルキー型のツリー構造が
用済みになるわけじゃないでしょうけど、
タグ的な考えかたが主流になれば
係長の次は課長になって‥‥という
これまでの組織論だって、空しくなるでしょう。

山中
なるほど‥‥そうかもしれない。
糸井

あるいは、すごく小さな、
ベンチャーとも言えないような企業が
大会社と組んで、
むしろ小さい会社のイニシアチブで
仕事がやれるようになることもあるだろうし。

‥‥というようなことを考えていたら、
「リンク・フラット・シェア」の
おおもとにあるのが
「タグ」という概念だったんだ、
ということに、気がついたんですよ。

滑川
まさに、そのとおりですね。
糸井
それから、もうひとつ。
インターネットにかかわっていると、
映画『トゥルーマン・ショー』みたいに、
一人の個人に全世界の目が
向いてしまうなんてことが、でてくる。
滑川
つまり「ソーシャル」という状況ですね。
糸井

こうした状況というのもまた、
インターネットがつくりだしたものですよね。
望むと望まないとに関わらず、
あらゆる「個」が社会性を帯びてしまう。

この「タグ」と「ソーシャル」という
ふたつのキーワードで眺めてみると、
いろいろなことが、見えてきたんです。

いい部分、わるい部分、両方含めてね。

滑川
グーグルが登場したとき、
しばらくは
「ああ、便利な検索エンジンだな」
というくらいの認識だったんですけれど、
使っているうちに、どうもこれは
ただ便利なだけじゃないぞ、と
感じるようになってきたんですね。
山中
それは、いつごろのお話ですか?
滑川

完全に理解したのは、
やはりティム・オライリーによる
「Web2.0」論文
のときですね。

あれを読んだとき、
たしかに「そういう名前」を
付けるだけのことはある、
なにか質的な変化が起きているんだな、
と感じました。

糸井
便利なだけじゃない、と。
滑川

はい、具体的にいうと、
グーグルの「投票システム」のすごさ。

それまでの「検索」とは、
まったくコンセプトがちがいましたから。

糸井 他のエンジンの「人的検索」なんかとは。
滑川

グーグルの検索って、ようするに
あるページに貼られた「リンク数」を数え、
その数を
ページに対する「投票」とみなしている。

そして、投票数の多いページを
重要なページとして、検索結果の上位に出す。
そういうやりかたなんです。

で、これは一見、
非常に迂遠な感じがするんですね。

糸井 一見ね。
滑川

でもこれが、魔法のように的確。

他の検索エンジンで探したら
関係ないページばかり出てくるような場合にも、
Googleで検索すると
関連性の高いページが、ずらっと出てくるわけです。

何度も使ううちに、
どうも「みんなの投票を数える」ということに、
相当大きな意味があるんじゃないのか、と。



糸井 それが「ページランク」と
呼ばれている技術ですよね。
滑川

そもそも、その発想じたいが、
「コンピューター屋の発想」じゃない。

技術発想のコンピューター屋さんだったら、
どうやったって
「キーワード検索の方法を改良していく」だとか、
そういう方向に流れると思うんです。

糸井 リンクするという「人間の意思」を
テクノロジーのなかに入れたくない、と。
滑川

ふつうの技術的発想だったら、
そういう「人間の主観性」を
ぜったいに、嫌うわけです。

「そんなものを
 なるべく排除していったところに、
 コンピュータのいいところが
 あるんじゃないか!」って。

糸井 つまり、グーグルの「投票システム」では
「主観」を排除するんじゃなくて、
小さな「主観の集合体」を
ほとんど「客観」とみなす、ということですよね。
滑川 サンプルを3つか4つ、とっただけでは
バラつきがあったとしても、
100個なら、だいぶバラつかなくなり、
1000個なら
もうほとんど実態に近いものになって、
10000個のサンプルをとれば、
それはほぼ「実態」と考えて間違いない、と。
糸井 こういう「大革命」が、
いま、グーグルによって起こっている。
滑川 そして、そのアイディアをもとに
グーグルはいまや
株式時価総額「16兆円」企業になった。
 
<続きます>
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2007-08-30-THU