糸井 |
僕がグーグルのなかに感じた、
「ツリー構造」じゃないもの。
『ソーシャル・ウェブ入門』を読んだら、
それは「タグ」という考えかただと、
書いてあったんです。 |
山中 |
つまり、いろんなものごとに、
それぞれの「荷札=タグ」を
つけていくというやりかたですよね。 |
滑川 |
しかも「ツリー構造」の場合、
あるものごとにたどり着くまで
基本的に一本の経路しかないのにたいして、
「タグ」の場合は、ものごとに
思いつくまま、いくらでも「荷札」を
付けることができるんです。
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山中 |
で、その「荷札」が一致しさえすれば、
同じカテゴリに分類される、と。 |
糸井 |
たとえば「クジラ」って、
ツリー構造で考えると「ほ乳類」ですよね。
でも、「タグ」の考えかたをすると、
「クジラ」には
「哺乳類」という荷札も、
「海」という荷札も付けられる。
「海」という荷札は、
「イワシ」にもついているし、
「アメフラシ」にも、ついています。
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山中 |
ええ、ええ。 |
糸井 |
だから、「クジラ」と「アメフラシ」は
魚屋さんの店先や
生きものとしての分類では並ばないけれども、
「海」というカテゴリで、
いっしょに並ぶことができるんです。 |
滑川 |
タテ割り方式の「ツリー」ではなく、
ひとつのものごとに、
いろんな属性をつけられるのが
「タグ」の画期的なところなんですよ。 |
山中 |
ツリー構造では関係なくても、
あるタグを軸にすれば
同じカテゴリに重なってくる、と。 |
糸井 |
この考えかたを知ったとき、
これからはもっと自由に
「タグの構造」で人々は集まれるし、
「タグの構造」で
ものごとを分類することができる、と思ったんです。
人間の欲望がある限り、
これまでのヒエラルキー型のツリー構造が
用済みになるわけじゃないでしょうけど、
タグ的な考えかたが主流になれば
係長の次は課長になって‥‥という
これまでの組織論だって、空しくなるでしょう。
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山中 |
なるほど‥‥そうかもしれない。 |
糸井 |
あるいは、すごく小さな、
ベンチャーとも言えないような企業が
大会社と組んで、
むしろ小さい会社のイニシアチブで
仕事がやれるようになることもあるだろうし。
‥‥というようなことを考えていたら、
「リンク・フラット・シェア」の
おおもとにあるのが
「タグ」という概念だったんだ、
ということに、気がついたんですよ。
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滑川 |
まさに、そのとおりですね。 |
糸井 |
それから、もうひとつ。
インターネットにかかわっていると、
映画『トゥルーマン・ショー』みたいに、
一人の個人に全世界の目が
向いてしまうなんてことが、でてくる。 |
滑川 |
つまり「ソーシャル」という状況ですね。 |
糸井 |
こうした状況というのもまた、
インターネットがつくりだしたものですよね。
望むと望まないとに関わらず、
あらゆる「個」が社会性を帯びてしまう。
この「タグ」と「ソーシャル」という
ふたつのキーワードで眺めてみると、
いろいろなことが、見えてきたんです。
いい部分、わるい部分、両方含めてね。
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滑川 |
グーグルが登場したとき、
しばらくは
「ああ、便利な検索エンジンだな」
というくらいの認識だったんですけれど、
使っているうちに、どうもこれは
ただ便利なだけじゃないぞ、と
感じるようになってきたんですね。 |
山中 |
それは、いつごろのお話ですか? |
滑川 |
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糸井 |
便利なだけじゃない、と。 |
滑川 |
はい、具体的にいうと、
グーグルの「投票システム」のすごさ。
それまでの「検索」とは、
まったくコンセプトがちがいましたから。 |
糸井 |
他のエンジンの「人的検索」なんかとは。 |
滑川 |
グーグルの検索って、ようするに
あるページに貼られた「リンク数」を数え、
その数を
ページに対する「投票」とみなしている。
そして、投票数の多いページを
重要なページとして、検索結果の上位に出す。
そういうやりかたなんです。
で、これは一見、
非常に迂遠な感じがするんですね。 |
糸井 |
一見ね。 |
滑川 |
でもこれが、魔法のように的確。
他の検索エンジンで探したら
関係ないページばかり出てくるような場合にも、
Googleで検索すると
関連性の高いページが、ずらっと出てくるわけです。
何度も使ううちに、
どうも「みんなの投票を数える」ということに、
相当大きな意味があるんじゃないのか、と。
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糸井 |
それが「ページランク」と
呼ばれている技術ですよね。 |
滑川 |
そもそも、その発想じたいが、
「コンピューター屋の発想」じゃない。
技術発想のコンピューター屋さんだったら、
どうやったって
「キーワード検索の方法を改良していく」だとか、
そういう方向に流れると思うんです。 |
糸井 |
リンクするという「人間の意思」を
テクノロジーのなかに入れたくない、と。 |
滑川 |
ふつうの技術的発想だったら、
そういう「人間の主観性」を
ぜったいに、嫌うわけです。
「そんなものを
なるべく排除していったところに、
コンピュータのいいところが
あるんじゃないか!」って。 |
糸井 |
つまり、グーグルの「投票システム」では
「主観」を排除するんじゃなくて、
小さな「主観の集合体」を
ほとんど「客観」とみなす、ということですよね。 |
滑川 |
サンプルを3つか4つ、とっただけでは
バラつきがあったとしても、
100個なら、だいぶバラつかなくなり、
1000個なら
もうほとんど実態に近いものになって、
10000個のサンプルをとれば、
それはほぼ「実態」と考えて間違いない、と。 |
糸井 |
こういう「大革命」が、
いま、グーグルによって起こっている。 |
滑川 |
そして、そのアイディアをもとに
グーグルはいまや
株式時価総額「16兆円」企業になった。 |
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<続きます> |