ソニア | このまえ、知り合いのカメラマンに 「ソニアと糸井さんって、ちょっと似てるね」 って言われたんです。 |
糸井 | へぇー。 |
ソニア | その人が言うには、 糸井さんはこれまでにいた 広告の世界をいさぎよく捨てて出て行って 「ほぼ日」をスタートされて、 私もスタイリストとしての仕事だけにしがみつかずに 今はショップ経営という別のことに取り組んでいて、 そういうところが共通してるって言われたんです。 自分たちが今までつくり上げたものを、 全部捨てたわけではないけど、 それはそれとして 「さぁ次に行こう」みたいなことができるって。 |
糸井 | あぁ、たしかにその通りですね。 経験って蓄積していくものだから、 肩書きや仕事の内容が変わっても、 使えるものだと思うんです。 ぼくも、広告をやっていたときに考えたことって 仕事が変わっても忘れていないんです。 |
ソニア | 広告の仕事は ご自分で意識してやめられたんですか? |
糸井 | そうです。 職業としてやることはやめましたね。 |
ソニア | それは、どうしてですか? |
糸井 | すごく簡単に言うと、 最後の判断を、 人がしなきゃいけないから。 |
ソニア | 別の人が? |
糸井 | そう。つまりAさんから仕事を頼まれた場合、 Aさんにギャランティーをもらった時点で、 2案あっても、 最終的にどっちがいいかっていうのは Aさんが決めるんです。 |
ソニア | はい。 |
糸井 | せっかく考えて 自分がいちばんいいと思っている案があっても Aさんがノーと言ったら 選ばれないじゃないですか。 |
ソニア | あぁ、そうですね。 |
糸井 | そんなことを続けるよりは 自分がアタリだと思うもので失敗した方が おもしろいと思うんです。 そういうわけで、 スポンサーとかクライアントがいる仕事をやるのは、 もうやめようと思ったんです。 「自分がクライアントになればいい」 というやめ方をしたんですね。 |
ソニア | へぇー。 それは、「もうやらないっ」って 宣言したんですか。 それとも、少しずつ断っていったんですか? |
糸井 | 少しずつ断ったのかもしれない。 「ほぼ日」をはじめて 2、3年経ったころだから‥‥ 12年くらい経つのかな。 |
ソニア | それで何か、変わりましたか? |
糸井 | もう、圧倒的に健康になりましたよ。 |
ソニア | へぇー! |
糸井 | 何ていうのかな。 背は伸びるし、 体は丈夫になるし、 走るのも速くなるし。 |
ソニア | すごい(笑)。 いいことだらけですね。 |
糸井 | いいとこだらけです。 「ますますいい男になったね」なんて言われるし。 |
ソニア | ‥‥(笑)。 |
糸井 | 冗談はともかく、 ぼくは、広告の世界でも どんどん行き詰まって きゅうくつになっていく人を見てたけど、 いま自分はそうじゃないっていうことだけは言える。 頼まれ仕事をしなくなると、ものすごく楽です。 もちろん、責任はともなうけど。 |
ソニア | 私も一緒で、 昔はすごく頼まれることが多かったんです。 仕事がくるかどうかの 電話を待つのもいやでした。 それに、スタイリストとして 撮影の仕事をしていると、 「少し先はどこで何の仕事をしてるか分からない」 っていう状況が続くし、 すごく不規則だから、これを続けていたら 体がボロボロになるなって思いましたね。 そしてだんだんと、 人に言われてやることよりも 自分で何かやってみたいなっていう 気持ちになっていきました。 だから、自分が好きではじめたお店だけは 誰のせいにもできないです。 自分で全部責任を取るしかないなと。 |
糸井 | すごくわかります。 ぼくらって全然違うように見えるけど、 案外同じかもね。 |
ソニア | 生まれたときに離された双子かも(笑)。 でも、ちょっと、年が違いますね。 (つづきます) |
2012-11-07-WED
スタイリング:林道雄 写真:三部正博 |