ソニア パーク×糸井重里   ご近所のソニアさんと ものづくりの話。
 
 
 
3.マーケティングよりも、動機。
ソニア 私が「アーツサイエンス」をはじめて
おもしろいなと思ったのは、
お店をやるのって、絵を描く人と
同じ気持ちなんだってことです。
ものをつくってお客さんが来るのを
待っているだけなので。
もしかしたら誰にも気に入って
もらえないかもしれないし、
深く考えると結構ドキドキする話ですが。
糸井 ほんとに?
ソニアさんでも
そういうドキドキを経験したこと、
あるんですか。
ソニア ‥‥あんまりないです。
糸井 (笑)。
ソニア いま、自分で言って、あれっと思いました(笑)。
ときどき、その自信はどこからくるの? って
言われるんですけど、分からないんですよ。
だって「自分は絶対にこれが好き」
っていう基準で
ものを選んでいるだけのことなので。
糸井 いいに決まってる! っていうものを
売っているんですよね。
ソニア そうですね。
お店には、自分が好きで集めたものと
自分が使いたくてつくったものを
置いているので、
「このぐらいの値段で、こういうお客さんに」
っていうふうに計算しているわけではないです。
糸井 うん。
ソニア スタッフとよく話すんですけど
みんなマーケティングをしたがるんですよ。
糸井 あぁ、そうですね。
ソニア でも、それはやめようと思っているんです。
値段が安いとか高いとか関係なく、
「これはいいものだ」と
自分たちが信じるものを置いていかないと。
手頃だとか、売りやすいとか、
そういう基準で選んだらいけないと思うんです。
うちのメンズショップを
リニューアルしていたんですけど、
「ここにこう配置したら便利」とか、
どこか使いやすさを先に考えてしまって、
どんどん普通になっていくんです。
もともとは、多少の苦労はしていても
「かっこいい素人集団」っていうのが
うちのよさだったから。
糸井 うん。
ソニア ブティックに勤めたこともない素人が
つくったお店だから
逆におもしろさがあると思うんです。
今回の手帳づくりもそうで、
いちばん大事なのは
「自分が使いたい」という気持ち、
それも素人目で見て、
「こうしたい」っていう動機をもって
つくったのがよかったと思います。
英語版は初年度だし、
プロの手帳屋じゃないから、
やっぱり不具合もあると思うんですけど、
それでも、できあがったものは
おもしろいなぁと思っています。
糸井 うん。プロじゃないからこそ
できたことが多いですね。
「ほぼ日手帳」がはじめてできたころの話ですけど、
1日1ページの手帳っていうのは
辞書並みの厚さになっちゃうんですよ。
辞書って壊れるでしょ。
勉強しない子の辞書はきれいだけど、
多少勉強する子の辞書って、
みんな、ばらばらじゃないですか。
ソニア そうですね。
糸井 手帳って毎日持つものだから
辞書よりも使う頻度が高いし、
絶対、壊れちゃうんです。
だから今まで、1日1ページの手帳って
そんなになかったんです。
ソニア あぁ、なるほど。
糸井 で、ぼくらも素人だから
「1日1ページがほしい」って言っちゃって、
その勢いで「できるかもしれない」って
つくったのがスタートなんですね。
そしたら売った後になって
「全部壊れるかもしれない」って可能性を
製本した人が言い出したんです。
ソニア えっ。
糸井 ある日、楽しくご飯を食べてたら、
「あの手帳、1年もたない可能性もありますよ」
って、ニッコニコしながら言われたんです。
「辞書とかもそうでしょ」と言われて。
「いや、そうだけど‥‥、えーっ?」ってなりました。
ソニア それで、どうなったんですか。
糸井 いろいろ話し合って、
結局、すべて交換したんです。
買ってくださった人の分を
ぜんぶ、もう一度つくりました。
それで、「これなら大丈夫」
と思うものができて、再び送ったんです。
だから初年度を買った人は、
2冊持っているんですよ。
ソニア へぇー。
実際に壊れたっていう話は
あったんですか?
糸井 結論からいうと、壊れなかったんです。
壊れるか壊れないか、
先のことだから
分からなかったんですけど‥‥。
それで、1年目に2冊送ったために、
届いた人が、
「2冊は必要ない」って思って
周囲にあげて、それがきっかけで広まって
結果的には、翌年たくさん売れました。
ソニア へえー。
糸井 素人だから失敗したし、
素人だから慌てて全部送り直したし‥‥。
それが手帳のスタートなんです。
ソニア すごいですね。
でも基本は、糸井さんやスタッフが
「いちばん自分が使いたいもの」をつくったら
みんなもほしかったっていうことですよね。
糸井 そうなんです。
ソニア うん、わかります。
糸井 マーケティングみたいなことって、
後からの保証という意味で
考えるのはいいんだけど、
つくるときに先に考えちゃだめですよね。
ここがすぐ壊れちゃうから
こうした方がいいんじゃないかとか
いうのはありだけど。
ソニア そうなんですよ。
「良くするための開発」は
いいと思うんですけど、
もっと売るための開発は
やっぱり失敗しますね。
糸井 そうですね。
ソニア スタイリストをやっていると
ときどき企業とかに呼ばれるんです。
「アドバイスしていただきたいんですけど、
 来年は何が売れますかね?」
って‥‥そんなの知らない(笑)。
糸井 知らない(笑)。
ソニア 「何が好きですか」って聞かれたら
いくらでも答えられるんだけど、
「どれが流行りますか」っていうのは、
分からないんです。
みんなほんとうは、自分が何が好きなのかという
ことを考えてものづくりをすれば、
もっといいものが世の中に出てくると思うんです。
最近の若い人はそういう
ものづくりをしている人が増えていますが
まだ企業はそういう考え方をしていないですね。
糸井 うん、企業っていうのは
「誰でもがうまくいく方法」っていうのを
見つけたいんですよ。
ソニア ああ! そうですね。
糸井 それが、
ああいうマーケティングみたいなことを
考えさせる原因なんです。

(つづきます)

2012-11-08-THU

 

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スタイリング:林道雄 写真:三部正博