ソニア | 私が「アーツ&サイエンス」をはじめて おもしろいなと思ったのは、 お店をやるのって、絵を描く人と 同じ気持ちなんだってことです。 ものをつくってお客さんが来るのを 待っているだけなので。 もしかしたら誰にも気に入って もらえないかもしれないし、 深く考えると結構ドキドキする話ですが。 |
糸井 | ほんとに? ソニアさんでも そういうドキドキを経験したこと、 あるんですか。 |
ソニア | ‥‥あんまりないです。 |
糸井 | (笑)。 |
ソニア | いま、自分で言って、あれっと思いました(笑)。 ときどき、その自信はどこからくるの? って 言われるんですけど、分からないんですよ。 だって「自分は絶対にこれが好き」 っていう基準で ものを選んでいるだけのことなので。 |
糸井 | いいに決まってる! っていうものを 売っているんですよね。 |
ソニア | そうですね。 お店には、自分が好きで集めたものと 自分が使いたくてつくったものを 置いているので、 「このぐらいの値段で、こういうお客さんに」 っていうふうに計算しているわけではないです。 |
糸井 | うん。 |
ソニア | スタッフとよく話すんですけど みんなマーケティングをしたがるんですよ。 |
糸井 | あぁ、そうですね。 |
ソニア | でも、それはやめようと思っているんです。 値段が安いとか高いとか関係なく、 「これはいいものだ」と 自分たちが信じるものを置いていかないと。 手頃だとか、売りやすいとか、 そういう基準で選んだらいけないと思うんです。 うちのメンズショップを リニューアルしていたんですけど、 「ここにこう配置したら便利」とか、 どこか使いやすさを先に考えてしまって、 どんどん普通になっていくんです。 もともとは、多少の苦労はしていても 「かっこいい素人集団」っていうのが うちのよさだったから。 |
糸井 | うん。 |
ソニア | ブティックに勤めたこともない素人が つくったお店だから 逆におもしろさがあると思うんです。 今回の手帳づくりもそうで、 いちばん大事なのは 「自分が使いたい」という気持ち、 それも素人目で見て、 「こうしたい」っていう動機をもって つくったのがよかったと思います。 英語版は初年度だし、 プロの手帳屋じゃないから、 やっぱり不具合もあると思うんですけど、 それでも、できあがったものは おもしろいなぁと思っています。 |
糸井 | うん。プロじゃないからこそ できたことが多いですね。 「ほぼ日手帳」がはじめてできたころの話ですけど、 1日1ページの手帳っていうのは 辞書並みの厚さになっちゃうんですよ。 辞書って壊れるでしょ。 勉強しない子の辞書はきれいだけど、 多少勉強する子の辞書って、 みんな、ばらばらじゃないですか。 |
ソニア | そうですね。 |
糸井 | 手帳って毎日持つものだから 辞書よりも使う頻度が高いし、 絶対、壊れちゃうんです。 だから今まで、1日1ページの手帳って そんなになかったんです。 |
ソニア | あぁ、なるほど。 |
糸井 | で、ぼくらも素人だから 「1日1ページがほしい」って言っちゃって、 その勢いで「できるかもしれない」って つくったのがスタートなんですね。 そしたら売った後になって 「全部壊れるかもしれない」って可能性を 製本した人が言い出したんです。 |
ソニア | えっ。 |
糸井 | ある日、楽しくご飯を食べてたら、 「あの手帳、1年もたない可能性もありますよ」 って、ニッコニコしながら言われたんです。 「辞書とかもそうでしょ」と言われて。 「いや、そうだけど‥‥、えーっ?」ってなりました。 |
ソニア | それで、どうなったんですか。 |
糸井 | いろいろ話し合って、 結局、すべて交換したんです。 買ってくださった人の分を ぜんぶ、もう一度つくりました。 それで、「これなら大丈夫」 と思うものができて、再び送ったんです。 だから初年度を買った人は、 2冊持っているんですよ。 |
ソニア | へぇー。 実際に壊れたっていう話は あったんですか? |
糸井 | 結論からいうと、壊れなかったんです。 壊れるか壊れないか、 先のことだから 分からなかったんですけど‥‥。 それで、1年目に2冊送ったために、 届いた人が、 「2冊は必要ない」って思って 周囲にあげて、それがきっかけで広まって 結果的には、翌年たくさん売れました。 |
ソニア | へえー。 |
糸井 | 素人だから失敗したし、 素人だから慌てて全部送り直したし‥‥。 それが手帳のスタートなんです。 |
ソニア | すごいですね。 でも基本は、糸井さんやスタッフが 「いちばん自分が使いたいもの」をつくったら みんなもほしかったっていうことですよね。 |
糸井 | そうなんです。 |
ソニア | うん、わかります。 |
糸井 | マーケティングみたいなことって、 後からの保証という意味で 考えるのはいいんだけど、 つくるときに先に考えちゃだめですよね。 ここがすぐ壊れちゃうから こうした方がいいんじゃないかとか いうのはありだけど。 |
ソニア | そうなんですよ。 「良くするための開発」は いいと思うんですけど、 もっと売るための開発は やっぱり失敗しますね。 |
糸井 | そうですね。 |
ソニア | スタイリストをやっていると ときどき企業とかに呼ばれるんです。 「アドバイスしていただきたいんですけど、 来年は何が売れますかね?」 って‥‥そんなの知らない(笑)。 |
糸井 | 知らない(笑)。 |
ソニア | 「何が好きですか」って聞かれたら いくらでも答えられるんだけど、 「どれが流行りますか」っていうのは、 分からないんです。 みんなほんとうは、自分が何が好きなのかという ことを考えてものづくりをすれば、 もっといいものが世の中に出てくると思うんです。 最近の若い人はそういう ものづくりをしている人が増えていますが まだ企業はそういう考え方をしていないですね。 |
糸井 | うん、企業っていうのは 「誰でもがうまくいく方法」っていうのを 見つけたいんですよ。 |
ソニア | ああ! そうですね。 |
糸井 | それが、 ああいうマーケティングみたいなことを 考えさせる原因なんです。 (つづきます) |
2012-11-08-THU
スタイリング:林道雄 写真:三部正博 |