ソニア パーク×糸井重里   ご近所のソニアさんと ものづくりの話。
 
 
 
4.創業者としての思い。
糸井 ソニアさんのやっている
「アーツサイエンス」って、
いま、何人くらいスタッフがいるんですか?
ソニア いまは、50人くらいです。
糸井 うちと同じくらいですね。
これくらいの人数になると、
もう、個人の判断でできることを
超えちゃっているんですよ。
ソニア はい。
糸井 でも、チームになると
「あいつがいるからこれができる」
みたいなことが
だんだんできてくるおもしろさがあるんですね。
そこでまたチームとしての
新しい意志が生まれると思いますし。
ソニア そうですね。
みんなと一緒につくりあげるっていうのは
1人では絶対できないことだから。
もし1人でなにかやるとしたら、
やっぱりアーティストになるとか絵を描くとか、
それこそ、糸井さんだったら
何か書いたりされるんでしょうけど、
でも、いまはみんなでしかできないことを
やりたいんですよね。
糸井 そうそう。
1人でやるのって案外不自由だな、
って思うことがあるんですよ。
ソニア うちの会社は来年10年目を迎えるので、
とても大事な時期だと思います。
誰かが、会社も人間みたいなものだって
言っていたんですが、
つまり20歳になるぐらいまでは
私がやっぱり一生懸命
面倒見なくちゃいけないのかなって。
糸井 うん、うん。
ソニア その後は、みんなが自分たちでやりたいように
やっていくんでしょうけど、
今はまだ、やっぱり‥‥
糸井 ちょっと時間がかかりますよね。
ソニア 大きい企業みたいに、
その会社を最初につくった人が
すでにいない会社とはちがって、
創業者の下で働くっていうことは
すごく独特な環境だと思うんですよ。
創業者である私自身も、
やっぱりどこかでちょっと
「私のもの」みたいなこともあるし、
でも、みんなでつくりあげたっていう気持ちもあって、
そこが複雑なところではあるんですけどね、
糸井 結構考えてますね(笑)。
ソニア え?
糸井 考えてないようで、考えてる。
ソニア はい。一応は。
糸井 ぼくも、もともとはいいかげんだったんです。
ずっとフリーだったからね。
でも、いまは会社がバタンってたおれたときは
自分の体をそのまま代えてでも
なんとかするっていうのが
創業者なのかなぁって思っています。
ソニア あっ、そうなんです。
あるスタッフが不満を言ったときに、
私、同じことを言ったことがあるんですよ。
私は全てを賭けていて、
たとえば最後の最後だったら家を売るだろうし、
自分の持ち物も全部売って、
何があっても救おうとするって。
糸井 そう。それが当たり前のことですからね。
ソニア そのスタッフに、
「あなたはそれができる?」 って言ったら
「いや、無理です」って。
じゃあ、一緒じゃないよって思いました。
いくら愛社精神があったとしても、
会社がだめになったとき
自分の家まで売らないと思うんですよね。
なかには、そういう人もいるかもしれませんが。
糸井 そうですね。
何人かでいっしょにスタートした会社なら
また違うんでしょうけど、
こんな規模だったら
個人は完全に
「背中に背負います」っていう
覚悟がないとできないですよね。
ソニア そうですね。
糸井 今回、ソニアさんと組んだのと同じように、
ミナ ペルホネンの皆川さんとも
一緒に手帳をつくっているんだけど、
彼も、ぼくらとかなり近いところがあるんです。
皆川さんって、ブランドをはじめるにあたって
午前中は魚市場でマグロをさばきながら
午後からミシンを踏んで洋服を作る、
ということをしていた人なんですけど、
「もしお店がつぶれるんだったら
 ちょっとずつつぶれたほうがいい」
と思って、ちっちゃいお店を
いっぱい出しているんです。
ソニア へぇー。
糸井 ぼく自身もそうなんですが、
自分が興味ある人たちって、
ちいさい単位のものをブドウの実みたいに
どんどん足していくっていう
やり方をやってる人が多いんです。
それなら、どんな風がきても
1回わぁーって分解したり、
また集めたりっていうことで、何とでもなりますね。
ほんとうの危機感を持っている人の
発想だなぁと思います。
誰かにゆずってもらった会社を
やってるわけじゃないからね。
ソニア うんうん。
糸井 だから、いざとなったら
自分も力仕事を!
みたいな心構えもあります。
ちなみに、皆川さんは
また魚河岸ではたらくって
言ってましたけど(笑)。
ソニア じゃあ、私はセールスウーマンになります。
デパートとかに勤めちゃおうかな。
糸井 それ、いいねえ(笑)。

(つづきます)

2012-11-09-FRI

 

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スタイリング:林道雄 写真:三部正博