糸井 | ソニアさんのやっている 「アーツ&サイエンス」って、 いま、何人くらいスタッフがいるんですか? |
ソニア | いまは、50人くらいです。 |
糸井 | うちと同じくらいですね。 これくらいの人数になると、 もう、個人の判断でできることを 超えちゃっているんですよ。 |
ソニア | はい。 |
糸井 | でも、チームになると 「あいつがいるからこれができる」 みたいなことが だんだんできてくるおもしろさがあるんですね。 そこでまたチームとしての 新しい意志が生まれると思いますし。 |
ソニア | そうですね。 みんなと一緒につくりあげるっていうのは 1人では絶対できないことだから。 もし1人でなにかやるとしたら、 やっぱりアーティストになるとか絵を描くとか、 それこそ、糸井さんだったら 何か書いたりされるんでしょうけど、 でも、いまはみんなでしかできないことを やりたいんですよね。 |
糸井 | そうそう。 1人でやるのって案外不自由だな、 って思うことがあるんですよ。 |
ソニア | うちの会社は来年10年目を迎えるので、 とても大事な時期だと思います。 誰かが、会社も人間みたいなものだって 言っていたんですが、 つまり20歳になるぐらいまでは 私がやっぱり一生懸命 面倒見なくちゃいけないのかなって。 |
糸井 | うん、うん。 |
ソニア | その後は、みんなが自分たちでやりたいように やっていくんでしょうけど、 今はまだ、やっぱり‥‥ |
糸井 | ちょっと時間がかかりますよね。 |
ソニア | 大きい企業みたいに、 その会社を最初につくった人が すでにいない会社とはちがって、 創業者の下で働くっていうことは すごく独特な環境だと思うんですよ。 創業者である私自身も、 やっぱりどこかでちょっと 「私のもの」みたいなこともあるし、 でも、みんなでつくりあげたっていう気持ちもあって、 そこが複雑なところではあるんですけどね、 |
糸井 | 結構考えてますね(笑)。 |
ソニア | え? |
糸井 | 考えてないようで、考えてる。 |
ソニア | はい。一応は。 |
糸井 | ぼくも、もともとはいいかげんだったんです。 ずっとフリーだったからね。 でも、いまは会社がバタンってたおれたときは 自分の体をそのまま代えてでも なんとかするっていうのが 創業者なのかなぁって思っています。 |
ソニア | あっ、そうなんです。 あるスタッフが不満を言ったときに、 私、同じことを言ったことがあるんですよ。 私は全てを賭けていて、 たとえば最後の最後だったら家を売るだろうし、 自分の持ち物も全部売って、 何があっても救おうとするって。 |
糸井 | そう。それが当たり前のことですからね。 |
ソニア | そのスタッフに、 「あなたはそれができる?」 って言ったら 「いや、無理です」って。 じゃあ、一緒じゃないよって思いました。 いくら愛社精神があったとしても、 会社がだめになったとき 自分の家まで売らないと思うんですよね。 なかには、そういう人もいるかもしれませんが。 |
糸井 | そうですね。 何人かでいっしょにスタートした会社なら また違うんでしょうけど、 こんな規模だったら 個人は完全に 「背中に背負います」っていう 覚悟がないとできないですよね。 |
ソニア | そうですね。 |
糸井 | 今回、ソニアさんと組んだのと同じように、 ミナ ペルホネンの皆川さんとも 一緒に手帳をつくっているんだけど、 彼も、ぼくらとかなり近いところがあるんです。 皆川さんって、ブランドをはじめるにあたって 午前中は魚市場でマグロをさばきながら 午後からミシンを踏んで洋服を作る、 ということをしていた人なんですけど、 「もしお店がつぶれるんだったら ちょっとずつつぶれたほうがいい」 と思って、ちっちゃいお店を いっぱい出しているんです。 |
ソニア | へぇー。 |
糸井 | ぼく自身もそうなんですが、 自分が興味ある人たちって、 ちいさい単位のものをブドウの実みたいに どんどん足していくっていう やり方をやってる人が多いんです。 それなら、どんな風がきても 1回わぁーって分解したり、 また集めたりっていうことで、何とでもなりますね。 ほんとうの危機感を持っている人の 発想だなぁと思います。 誰かにゆずってもらった会社を やってるわけじゃないからね。 |
ソニア | うんうん。 |
糸井 | だから、いざとなったら 自分も力仕事を! みたいな心構えもあります。 ちなみに、皆川さんは また魚河岸ではたらくって 言ってましたけど(笑)。 |
ソニア | じゃあ、私はセールスウーマンになります。 デパートとかに勤めちゃおうかな。 |
糸井 | それ、いいねえ(笑)。 (つづきます) |
2012-11-09-FRI
スタイリング:林道雄 写真:三部正博 |