ソニア パーク×糸井重里   ご近所のソニアさんと ものづくりの話。
 
ソニア パークさんのプロフィール
2013年版の「ほぼ日手帳」に はじめての英語版である Hobonichi Plannerが登場しました。 クリエイティブディレクターとして 製作に携わってくださったのは、 スタイリストであり、セレクトショップ 「ARTS&SCIENCE(アーツ<u>&</u>サイエンス)」の オーナーでもあるソニア パークさん。 「ソニアさんとの仕事は、すごくおもしろかった」 と、糸井はふりかえります。 今回は、そんな2人が一緒に 手帳をつくることになったきっかけと、 「ものづくり」に対する思いを語ります。
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1.英語版ができるまで。
2.ふたりの共通点。
3.マーケティングよりも、動機。
4.創業者としての思い。
5.同じ場所に並べるうれしさ。
ソニアさんと一緒につくった 英語版「Hobonichi Planner」はこちら
 
1.英語版ができるまで。
糸井 2013年版からはじめて出した
英語版の手帳「Hobonichi Planner」は、
ソニアさんがオーナーのお店
「アーツサイエンス」と
一緒につくらせていただいて。
おかげさまで
いいものができたと思っています。
ソニア ありがとうございます。
こちらこそ、
いい経験ができました。
糸井 ソニアさんと一緒に
仕事をさせていただくことになったのは、
ぼくらが
「アーツサイエンスと
 一緒に手帳カバーをつくりたいんです」
って話を持ちかけたのが
最初のきっかけでしたよね。
ソニア そうですね。
糸井 そしたら、逆にソニアさん側から
「カバーじゃなくて、
 英語版の開発を一緒にやりませんか?」
という提案をしてくださって。
あれが、2年前でしたっけ。
ソニア はい。もうそんなに経つんですね。
糸井 以前から、アーツサイエンスと
一緒に何かやりたいねっていう意見は
社内でしょっちゅう出ていたんだけど、
こちらの力をちゃんと発揮できないと
みっともないなと思って
時期を待っていたんです。
そして、ほぼ日手帳も徐々に
認知されはじめてきたし、
会社としてもコラボレーションを
こなす力がついてきたので、
スタッフに、
「よし、じゃあ、まずは行って
 ソニアさんに断られておいで」
って言いました(笑)。
ソニア 糸井さんが、
うちの会社を知ってくださっているとは
思いませんでした。
糸井 ぼくの家に、アーツサイエンスの袋が
たくさんあるんですよ。
布でできた、ショッピングバッグ。
ソニア あ、奥様の‥‥樋口さんのですか?
糸井 そうです。
ぼくは犬を飼っているんですけど、
年に何度か、犬を連れて京都の家へ行くために
新幹線に乗るんです。
そのとき、犬用のケージにカバーをかけるんですが、
そのカバーはアーツサイエンスの袋で
つくったものなんですよ。
はさみでチョキチョキっと。
ソニア えー。
糸井 ぼくは毎回それを抱えて
重くてハアハア言いながら新幹線に乗るので、
アーツサイエンスのロゴが
ものすごく印象に残っているんです(笑)。
それが、ソニアさんのお店のロゴで、
お店もオフィスも
うちの近くにあるってことは後から知りました。
奥さんが持っているものを見て、
「それいいね。どこの製品?」って聞くと、
アーツサイエンスとは言わずに
「ソニアさんとこ」みたいな言い方をするもんだから
そこが同じものだって分かるのに
ちょっと時間がかかってしまって。
ソニア あぁ、なるほど。
私は、はじめて東京に来たときに
糸井さんがよくテレビに出られていたから、
有名な人なんだなぁと思ってました(笑)。
糸井 ソニアさんは、ほぼ日手帳を
使ってくださっていたんでしたっけ。
ソニア それが、私、こんなに人気のある手帳なのに
まったく存在を知らなかったんです。
以前から、1日1ページの手帳があれば
スケジュールと日記が一緒に書けていいなと思っていて、
一度、別のブランドの
1日1ページ形式の手帳を買ったんですが、
重かったので、ほとんど使いませんでした。
その後も、いろんな手帳を使い続けて、
ようやく「ほぼ日手帳」にたどりついたんです。
そしたら、うちのスタッフは既に使っていたんですよ。
「えっ、知らなかったんですか」って言うから、
「早く教えてよ!」って(笑)。
糸井 ああ、そうなんですね。
ソニア それで、今回、カバー製作の
提案をいただいたとき、
それもいいなと思ったんですけど
まわりに外国人の友だちも多いし、
せっかくなら本体の英語版があったほうが
いいなと思ったんです。
それに、ほんとうに自分が使いたいものを
つくってみたかった、っていうのもあって。
糸井 「私が、ほぼ日手帳を変えてみせる!」
って思ってくださったんですね。
ソニア いえいえ、でも、もとの手帳がいいものだから
そこの良さは大事にしながら
よりシンプルにしていく、
というようなイメージでしたね。
これまで、デザイナーの佐藤卓さんと
一緒につくりあげてこられた「ほぼ日手帳」があって、
そのうえでの「英語版」ということだったので、
やっぱり基本のところは守ろうと。
違うものになっちゃうなら、
「ほぼ日」じゃなくてもいいし、
最初から私がつくったっていいわけで。
糸井 そうですね。
これまでのやりとりのなかで、
ゆずれる部分、ゆずれない部分を
たくさん話し合いましたね。
やっぱり、ぼくらにも
ここは大事にしよう、というポイントがあったし。
だから、ソニアさんに
「ここを変えましょう」って言われるたびに、
判断しなきゃいけなかったんですけど、
そこで自分の今まで考えてきたことが
再確認できてよかったと思っています。
ソニアさんには、
「真っ白いページはどう?」
って聞かれたりもしましたね。
ソニア 「この線とかいる?」
って言っちゃったり(笑)。
糸井 そういうときに、
「うーん」って悩みつつも
すこし考えると、
「あ、ここはゆずっちゃいけない」とか、
「ここはゆずってもいい」とかがわかってきて
それが自分にとってもよかったです。
ソニア 糸井さんと、卓さんと、私、
それぞれのパートをもった
バンドのセッションみたいなものですね。
3人でつくる音は
特別な音でなきゃいけないと思うんです。
糸井 うん。そうですね。
ソニア たとえば方眼の大きさも、
日本語版は毎年、卓さんが100分の1ミリ単位で
考えて決定しているんですよね。
そういうのを知って、
じゃあ英語版だと、どの大きさがいいんだろうってことで
何度も卓さんと打ち合わせをして‥‥
けっこう時間をかけましたね。
糸井 そうです。最初から
「来年すぐにスタートさせるものではない」って
いうことを決めて、つくりはじめたから。
でも、印刷物で2年かかるのは
めずらしいかもしれません。
はじめての英語版ってこともあったんですけど。
ソニア 英語にした理由も、
アメリカ語でもイギリス語でもなく
「英語」を世界共通語として考えましょうって
いう話からはじまって。
糸井 そう、英語を使っている国にむけて
つくるという意味ではなく、
世界中のみんなが使える
「道具」という意味で英語を選びました。
それから、すごいなと思ったのは
祝日表記を
ソニアさんが「いらない!」って
取っちゃったことですよ。
ソニア 祝日って、国や宗教によって違うので、
世界中の人に使ってもらうことを考えると、
いっそのこと、取ったほうがいいと思ったんです。
糸井 あの思いきりはすごかった。
ぼくらだけでは、その決断はできませんでした。
世界を自由に行き来してきた
ソニアさんと組んだからこそ
できたことだと思います。
ソニア 私は、以前から、
英語を話す日本人が多くないことを
もったいないな、と思っていたんです。
たとえば、日本のファッション雑誌って
分厚いのに、細部まですごくこだわって
つくっていますよね。
他の国にはできないものを出しているんです。
もし、全部が英語で書かれていたら
読みたいと思う外国人が
たくさんいると思うんですよ。
海外の友だちも
「東京でやってることって、世界から見ると
 相当おもしろいことが多いのに、
 言葉が違うから、届いてないよね」
って言うんです。
糸井 その考えは、すごくおもしろいですね。
ぼくも最近、外国人と対談する機会を
意識的に増やすようにしたんですけど、
そしたら、相手からおもしろがられるんですよね。
日本で通じることが、
海外でも通じるんだなって
ぼく自身が実感しはじめていたところだったので、
ソニアさんと組めたのもいいタイミングでした。
ソニア いまはインターネットがあるからなのか、
ほんとうに世界って、
狭くなってきてますよね。
私がやっているお店でも、
特に外国に向けてニュースは
発信していないんですけど、
むこうから探してくださって、
連絡をくれる人がいたりするので驚きます。
どこで知ったの? って思うんだけど。
昔なら絶対なかったことです。
糸井 あぁ、たしかに。
ぼくも、外国を旅行すると
日本人に
「糸井さんですか。ほぼ日、見てますよ」
って言われることがあるんだけど、
びっくりすることに、
外国人の旦那さんも一緒に見てるって
言われることもあって。
昔だとちょっと考えられないですよね。
だから、いまは、海外であっても、
誰かがどこかで見ていてくれるっていう
感じがありますね。
ソニア そうですね。
だから、私はいまこそ
「ほぼ日手帳を世界へ」って思ってますよ。
中身は英語なのに
表紙に漢字で「手帳」という言葉を入れたのも、
単に記号的でかわいいという理由もあるんですけど、
やっぱり、日本の手帳って
予定管理のツールとしてだけでなく、
もっと個人の生活に密着しているし
日本独自の文化だなって思ったから、
その言葉ごと世界へ広めたくて。
糸井 うん、そういう発想は
うちだけじゃできなかったことだなと
思っています。

(つづきます)

 

2012-11-06-TUE
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スタイリング:林道雄 写真:三部正博