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糸井 | 2013年版からはじめて出した 英語版の手帳「Hobonichi Planner」は、 ソニアさんがオーナーのお店 「アーツ&サイエンス」と 一緒につくらせていただいて。 おかげさまで いいものができたと思っています。 |
ソニア | ありがとうございます。 こちらこそ、 いい経験ができました。 |
糸井 | ソニアさんと一緒に 仕事をさせていただくことになったのは、 ぼくらが 「アーツ&サイエンスと 一緒に手帳カバーをつくりたいんです」 って話を持ちかけたのが 最初のきっかけでしたよね。 |
ソニア | そうですね。 |
糸井 | そしたら、逆にソニアさん側から 「カバーじゃなくて、 英語版の開発を一緒にやりませんか?」 という提案をしてくださって。 あれが、2年前でしたっけ。 |
ソニア | はい。もうそんなに経つんですね。 |
糸井 | 以前から、アーツ&サイエンスと 一緒に何かやりたいねっていう意見は 社内でしょっちゅう出ていたんだけど、 こちらの力をちゃんと発揮できないと みっともないなと思って 時期を待っていたんです。 そして、ほぼ日手帳も徐々に 認知されはじめてきたし、 会社としてもコラボレーションを こなす力がついてきたので、 スタッフに、 「よし、じゃあ、まずは行って ソニアさんに断られておいで」 って言いました(笑)。 |
ソニア | 糸井さんが、 うちの会社を知ってくださっているとは 思いませんでした。 |
糸井 | ぼくの家に、アーツ&サイエンスの袋が たくさんあるんですよ。 布でできた、ショッピングバッグ。 |
ソニア | あ、奥様の‥‥樋口さんのですか? |
糸井 | そうです。 ぼくは犬を飼っているんですけど、 年に何度か、犬を連れて京都の家へ行くために 新幹線に乗るんです。 そのとき、犬用のケージにカバーをかけるんですが、 そのカバーはアーツ&サイエンスの袋で つくったものなんですよ。 はさみでチョキチョキっと。 |
ソニア | えー。 |
糸井 | ぼくは毎回それを抱えて 重くてハアハア言いながら新幹線に乗るので、 アーツ&サイエンスのロゴが ものすごく印象に残っているんです(笑)。 それが、ソニアさんのお店のロゴで、 お店もオフィスも うちの近くにあるってことは後から知りました。 奥さんが持っているものを見て、 「それいいね。どこの製品?」って聞くと、 アーツ&サイエンスとは言わずに 「ソニアさんとこ」みたいな言い方をするもんだから そこが同じものだって分かるのに ちょっと時間がかかってしまって。 |
ソニア | あぁ、なるほど。 私は、はじめて東京に来たときに 糸井さんがよくテレビに出られていたから、 有名な人なんだなぁと思ってました(笑)。 |
糸井 | ソニアさんは、ほぼ日手帳を 使ってくださっていたんでしたっけ。 |
ソニア | それが、私、こんなに人気のある手帳なのに まったく存在を知らなかったんです。 以前から、1日1ページの手帳があれば スケジュールと日記が一緒に書けていいなと思っていて、 一度、別のブランドの 1日1ページ形式の手帳を買ったんですが、 重かったので、ほとんど使いませんでした。 その後も、いろんな手帳を使い続けて、 ようやく「ほぼ日手帳」にたどりついたんです。 そしたら、うちのスタッフは既に使っていたんですよ。 「えっ、知らなかったんですか」って言うから、 「早く教えてよ!」って(笑)。 |
糸井 | ああ、そうなんですね。 |
ソニア | それで、今回、カバー製作の 提案をいただいたとき、 それもいいなと思ったんですけど まわりに外国人の友だちも多いし、 せっかくなら本体の英語版があったほうが いいなと思ったんです。 それに、ほんとうに自分が使いたいものを つくってみたかった、っていうのもあって。 |
糸井 | 「私が、ほぼ日手帳を変えてみせる!」 って思ってくださったんですね。 |
ソニア | いえいえ、でも、もとの手帳がいいものだから そこの良さは大事にしながら よりシンプルにしていく、 というようなイメージでしたね。 これまで、デザイナーの佐藤卓さんと 一緒につくりあげてこられた「ほぼ日手帳」があって、 そのうえでの「英語版」ということだったので、 やっぱり基本のところは守ろうと。 違うものになっちゃうなら、 「ほぼ日」じゃなくてもいいし、 最初から私がつくったっていいわけで。 |
糸井 | そうですね。 これまでのやりとりのなかで、 ゆずれる部分、ゆずれない部分を たくさん話し合いましたね。 やっぱり、ぼくらにも ここは大事にしよう、というポイントがあったし。 だから、ソニアさんに 「ここを変えましょう」って言われるたびに、 判断しなきゃいけなかったんですけど、 そこで自分の今まで考えてきたことが 再確認できてよかったと思っています。 ソニアさんには、 「真っ白いページはどう?」 って聞かれたりもしましたね。 |
ソニア | 「この線とかいる?」 って言っちゃったり(笑)。 |
糸井 | そういうときに、 「うーん」って悩みつつも すこし考えると、 「あ、ここはゆずっちゃいけない」とか、 「ここはゆずってもいい」とかがわかってきて それが自分にとってもよかったです。 |
ソニア | 糸井さんと、卓さんと、私、 それぞれのパートをもった バンドのセッションみたいなものですね。 3人でつくる音は 特別な音でなきゃいけないと思うんです。 |
糸井 | うん。そうですね。 |
ソニア | たとえば方眼の大きさも、 日本語版は毎年、卓さんが100分の1ミリ単位で 考えて決定しているんですよね。 そういうのを知って、 じゃあ英語版だと、どの大きさがいいんだろうってことで 何度も卓さんと打ち合わせをして‥‥ けっこう時間をかけましたね。 |
糸井 | そうです。最初から 「来年すぐにスタートさせるものではない」って いうことを決めて、つくりはじめたから。 でも、印刷物で2年かかるのは めずらしいかもしれません。 はじめての英語版ってこともあったんですけど。 |
ソニア | 英語にした理由も、 アメリカ語でもイギリス語でもなく 「英語」を世界共通語として考えましょうって いう話からはじまって。 |
糸井 | そう、英語を使っている国にむけて つくるという意味ではなく、 世界中のみんなが使える 「道具」という意味で英語を選びました。 それから、すごいなと思ったのは 祝日表記を ソニアさんが「いらない!」って 取っちゃったことですよ。 |
ソニア | 祝日って、国や宗教によって違うので、 世界中の人に使ってもらうことを考えると、 いっそのこと、取ったほうがいいと思ったんです。 |
糸井 | あの思いきりはすごかった。 ぼくらだけでは、その決断はできませんでした。 世界を自由に行き来してきた ソニアさんと組んだからこそ できたことだと思います。 |
ソニア | 私は、以前から、 英語を話す日本人が多くないことを もったいないな、と思っていたんです。 たとえば、日本のファッション雑誌って 分厚いのに、細部まですごくこだわって つくっていますよね。 他の国にはできないものを出しているんです。 もし、全部が英語で書かれていたら 読みたいと思う外国人が たくさんいると思うんですよ。 海外の友だちも 「東京でやってることって、世界から見ると 相当おもしろいことが多いのに、 言葉が違うから、届いてないよね」 って言うんです。 |
糸井 | その考えは、すごくおもしろいですね。 ぼくも最近、外国人と対談する機会を 意識的に増やすようにしたんですけど、 そしたら、相手からおもしろがられるんですよね。 日本で通じることが、 海外でも通じるんだなって ぼく自身が実感しはじめていたところだったので、 ソニアさんと組めたのもいいタイミングでした。 |
ソニア | いまはインターネットがあるからなのか、 ほんとうに世界って、 狭くなってきてますよね。 私がやっているお店でも、 特に外国に向けてニュースは 発信していないんですけど、 むこうから探してくださって、 連絡をくれる人がいたりするので驚きます。 どこで知ったの? って思うんだけど。 昔なら絶対なかったことです。 |
糸井 | あぁ、たしかに。 ぼくも、外国を旅行すると 日本人に 「糸井さんですか。ほぼ日、見てますよ」 って言われることがあるんだけど、 びっくりすることに、 外国人の旦那さんも一緒に見てるって 言われることもあって。 昔だとちょっと考えられないですよね。 だから、いまは、海外であっても、 誰かがどこかで見ていてくれるっていう 感じがありますね。 |
ソニア | そうですね。 だから、私はいまこそ 「ほぼ日手帳を世界へ」って思ってますよ。 中身は英語なのに 表紙に漢字で「手帳」という言葉を入れたのも、 単に記号的でかわいいという理由もあるんですけど、 やっぱり、日本の手帳って 予定管理のツールとしてだけでなく、 もっと個人の生活に密着しているし 日本独自の文化だなって思ったから、 その言葉ごと世界へ広めたくて。 |
糸井 | うん、そういう発想は うちだけじゃできなかったことだなと 思っています。 (つづきます) |
2012-11-06-TUE |
スタイリング:林道雄 写真:三部正博 |