- ──
- 池松さんには、
自分の言葉というものがありますね。
- 池松
- そうですかね。
- ──
- 誰かのコピーじゃない感じがします。
好きな俳優さんが口にしたセリフは
詩のように暗唱できたりするけど、
池松さんの言葉は、
こちらも、大事にしたくなるような。
- 池松
- ああ‥‥そういうものですか。
- ──
- そのあたりどうですか、池松さんは。
- 池松
- ぼくは‥‥言葉というのは、
しょせん道具にすぎないと思います。
とくに、映画の宣伝のときみたいに、
作品の外でしゃべることは、
必要なのかなと思うこともあります。
- ──
- そうですか。
- 池松
- 言葉で何かを伝えるつもりはないし、
何かが伝わるとも‥‥思えない。
聞かれたから出てくる言葉が、
この場にあるだけという感じですね。
- ──
- それはつまり「説明」だからですか。
その言葉の「役割」が。
- 池松
- そうです、そうです。ただの説明。
俳優として、自分には、
伝えたいことがあるわけですけども、
それは「言葉」より、
身体の「感覚」に近いものなんです。
- ──
- 感覚‥‥。
- 池松
- 自分はそれを追い求めているんです。
- ──
- その身体の感覚というのは、
言葉ではとらえ切れないものですか。
- 池松
- 表現者のはしくれみたいなところに、
俳優という存在があるとすれば、
どうにかして、
ここにある「感覚」を伝えるために、
どの「言葉」に置き換えようか、
そのことに四苦八苦してる感じです。
だから「池松壮亮の言葉」を、
武器として使うつもりもないんです。
- ──
- 伝えたいことというのは、
じゃあ、作品を通して伝えていると。
- 池松
- それができたら、本当に幸せですね。
ただ、いまの時代は、
俳優もしゃべんなきゃダメなことは、
わかっているんです。
- ──
- それも「役割」として。
- 池松
- 俳優に限らず、いまって、
一人の人がやらなきゃならないことが、
どんどん増えてますよね。
しゃべるということも、そのひとつで。
- ──
- たしかに言葉数の多い時代なのかなと、
思うことはありますね。
- 池松
- これ、伝わるかどうかわからないけど、
言ってみますね。
- ──
- お願いします。
- 池松
- 今日みたいに、
俳優が映画の宣伝の取材を受けるとき、
たとえば
1年前なら1年前の仕事について、
話をするわけです。
ぼくはいま29歳で、
こんど公開する『宮本から君へ』って、
28歳のときの映画。
- ──
- ええ。
- 池松
- 1年前、28の自分が心に描いたこと、
感じたこと、そのときの記憶を、
半ば無理矢理に、
振り返らされるような感覚なんですね。
- ──
- なるほど。
- 池松
- それも5分刻みに、次々と。
でも、たぶんぼくらは、
そんなに振り返るべきじゃないと思う。
- ──
- どういう意味ですか?
- 池松
- いや、必要なんだとは思いますよ。
映画にとって‥‥というかな。
- ──
- ああ、はい。
- 池松
- でも、その「説明の言葉」が、
映画を見てくださった人たちにとって、
必要だとも思えないし‥‥。
- ──
- 言いわけみたいに感じる?
- 池松
- 単純に、2時間でなぎ倒せなかったら、
負けだと思っているので。
- ──
- なるほど。勝負は、あくまで作品だと。
- 池松
- そう、そういう「理想」があったので、
20代前半までは、
ほぼメディアでしゃべりませんでした。
- ──
- 饒舌なイメージはないです、たしかに。
- 池松
- それは別にカッコつけてたわけじゃなく、
自分の理想と、映画の宣伝のために
やらなければいけないことが、
自分のなかで、衝突していて。
- ──
- 結果、無口になってしまった。
- 池松
- クールぶった感じの人になってましたね。
ああとかええしか言わないみたいな。
- ──
- そうなんですか(笑)。
- 池松
- 言葉でどうにかしようとすることって、
いまでも
いいとは思えないところもありますが、
でも‥‥
心と心が触れ合う瞬間があると、
湧いてくるものなんですね、言葉って。
- ──
- ああ、そうですね。湧いてくる。
- 池松
- そのことは最近、わかったことです。
これ‥‥伝わりましたかね?
- ──
- 伝わりましたね。池松さんの言葉で。
<つづきます>
2019-09-27-FRI