- ──
- 池松さんは「嫉妬」したりしますか。
- 池松
- 嫉妬。
- ──
- いや‥‥つまり、映画でも、
映画でなくてもいいけど、
他の誰かのいい仕事を見たときに、
どう思うのかなあと思って。
- 池松
- ああ、なるほど。
そういう意味では、たとえば‥‥。
- ──
- ええ。
- 池松
- レ・ロマネスクのTOBIさんの
『ひどい目。』を読んだとき、
「これ、みんな読んだほうがいいし、
ひょっとしたら、こういうことを
伝えたいのかもしれない、自分は」
とかって思いました。
- ──
- お好きですか(笑)。
- 池松
- はい、で、
そう思えるものに出会ったときは、
嫉妬というより、
むしろ「うれしい」って感じます。
- ──
- うれしい。
- 池松
- 同じ時代を生きる者として。
- ──
- ピンクの方も本望でしょう(笑)。
- 池松
- うれしいし、拍手をおくりたいし、
誰かに紹介したくなる。
ふつうに生きていたら、
交差しない人かもしれないけれど、
同じ時代の共犯者みたいな。
- ──
- ほー‥‥おもしろい。
- 池松
- ぜんぜん別の組織なんだけど、
同じ革命のもとに戦っている同志、
みたいな気持ちを抱きますね。
- ──
- そんなふうに思わせてくれるもの、
けっこう、ありますか。
- 池松
- そんなには‥‥‥‥‥ないかなあ。
どうですか、あります?
- ──
- ぼくも、しょっちゅうはないです。
ないけど、自分の生きてる世界や、
自分の興味の幅って、
おどろくほど狭いなあと思うので、
そこから一歩を踏み出してみれば、
おもしろいものって、
たくさんあるんだろうなと思って、
日々を生きてますね。
- 池松
- なるほど、そうですよね。
で、そういうものと出会ったら、
自分も、
まだまだやれるかもしれないと思えるし、
自分の志を曲げなくていい、
もう少し
この気持ちを捨てずにおこうって、
思えますよね。
- ──
- 知らない同士で励まされあってるの、
なんだか、いいですね。
- 池松
- そう、遠くのほうに、
そんな叫びを上げてる人がいたんだ、
と思うと、うれしくなります。
- ──
- 怖いと思うことって、ありますか。
- 池松
- それはありますよ、つねに。
- ──
- たとえば、どういうときに。
- 池松
- これ(映画『宮本から君へ』)も、
怖いですよ、すごく。
作者の新井英樹先生によると
連載当時‥‥90年代ですけど、
とても嫌われていた作品だし、
宮本という男も、
嫌いな男ランキングに入るような
漫画だったそうですが、
同時に、
誰かの人生のバイブルになってる、
そういう作品なんです。
- ──
- ええ。
- 池松
- 誰かの情念を身にまとったような
漫画なわけですよ。
- ──
- はい。
- 池松
- 小説とか漫画の原作の力を借りて
生き延びてきた日本映画が、
それら素晴らしい原作を
素晴らしい映画にできたケースは、
あまりないように感じます。
- ──
- そう思われますか。
- 池松
- はい。
そんななか、あの圧倒的な原作を
映画というかたちにして、
自分が、
時代に、手渡さなければならない。
- ──
- 手渡すという感覚。
- 池松
- 映画というのは、
何かを選択していく作業なんです。
- ──
- かたちにするにあたって。
- 池松
- そう、自分の演技にしても、
無限の可能性からひとつに決めて、
それを積み上げていく作業。
撮影中は、
明日が来なければいいって思うし、
満たされる反面、
後悔だってどうしても残るんです。
- ──
- なるほど。
- 池松
- そういうこと全体が、怖いですね。
- ──
- そうですか。
- 池松
- ただ‥‥こんなふうに、
映画がどうだとか言ってますけど。
- ──
- ええ。
- 池松
- おっしゃるように、
自分のいる世界って本当に狭いし、
速射砲のようにしゃべっても、
どれだけ届くだろうと思いますね。
- ──
- 届くと思いますよ。
- 池松
- え、マジっすか。
- ──
- はい、届くと思います。
誠意を持って話してる人の話を、
誠意を持って聞いてくれる人は
必ずいると思うし、
そういう人に、届くと思います。
- 池松
- そうだとしたら、うれしいです。
<つづきます>
2019-09-30-MON