- ──
- 映画や、映画づくりの場において、
俳優さんというのは、
どういうところにいる人でしょう。
- 池松
- 俳優の占める面積の話ですか。
- ──
- それでもいいですし、思うことを。
- 池松
- 映画によって、いろいろです。
俳優の仕事が0から10まであるとして、
「0でいい」と、
「お前の肉体がほしいだけなんだよ」
という作品もあれば、
「お前の口から出てくる詩がほしい」
という作品もあるし。
- ──
- なるほど。
- 池松
- 10しかないのに、
12とか15とか要求してくるような、
ようするに
俳優の存在だけで成立させる映画も、
あったりするんですが。
- ──
- ええ。
- 池松
- ぼくの理想を言ってよければ、
作品ファースト、
その下に映画監督で、その下に俳優。
- ──
- 作品が、いちばん。その順番。
- 池松
- それは絶対ですね。
言いかたは悪いかもしれないですが、
手放しの作家主義の時代は終わったと思う。
- ──
- つまり‥‥。
- 池松
- 頂点に「絶対的な映画監督」がいて、
その下に作品、
その下に俳優とスタッフがいる構図。
当然、俳優主義でもないと思う。
それで、いい作品が生まれた時代は、
もちろんあったんでしょうけど。
- ──
- ええ。なるほど。
- 池松
- もっと言えば、究極、作品ファーストなら、
カメラマンが上でもいい。
あくまで作品、つまり映画のために、
あるべきだと思います。
- ──
- 俳優も、カメラマンも、監督さえも。
- 池松
- 誰かの軽い気持ちを誰も疑えずにつくることは、
個人の芸術表現ならいいですが、
映画という、
集団表現でやるべきではないと思う。
映画って、
そういうものではないと思ってます。
少なくとも2019年現在は。
- ──
- よく聞く、ベタな質問があるんです。
- 池松
- ええ。
- ──
- 理想の俳優って、どんな俳優ですか。
あるいは、
将来、どんな俳優になりたいですか、
という‥‥。
- 池松
- はい。
- ──
- これまで、何人かの俳優さんが、
それぞれの答えを返してくれました。
そのなかに、
「その人が、その人のまんまで、
きちんと役割を果たしているような、
そういう役者に自分はなりたい」
という俳優観を、
語ってくれた俳優さんがいたんです。
- 池松
- 素晴らしい意見だと思います。
- ──
- 心に響きました。俳優でもないのに。
感動したとさえ言えるほど。
- 池松
- そうなんですか。
- ──
- 自分は自分でいいんだということを
肯定してくれている気がして、
多くの人を勇気づける言葉だなあと。
- 池松
- なるほど。
- ──
- そして、そういう人って誰だろうと
考えたときに、
すぐ思い浮かんだのが池松さんでした。
- 池松
- あ、本当ですか。
- ──
- だって、『永い言い訳』のときの
モックンのマネージャーも、
『斬、』の浪人剣士も、
『宮本から君へ』の熱血営業マンも、
どれもぜんぜんちがう人物なのに、
根底には、
間違いなく池松さんが流れていたし。
- 池松
- ありがとうございます。
- ──
- 勝手な感想で、すみませんけれども。
- 池松
- うまく、伝えられるかどうか‥‥。
たぶん、その俳優観って、
映画というひとつの世界のなかに、
善人も、悪人も、ふつうの人も、
みんなそれぞれに
自分なりの役割を果たしていれば
それでいい、
素晴らしいじゃないか‥‥という。
- ──
- ええ。
- 池松
- ぼくがいて、きみがいて、
あなたも、あなたも、あなたも‥‥
まさに理想だと思います。
それは、調和する世界だし、
神の視点から見た、理想郷です。
- ──
- はい。
- 池松
- でも、世界の平和を維持することが
人間の仕事だとしたら、
その秩序に反発して暴れたり、
背を向けたり、
世界から出ていくのも人間だと思う。
- ──
- ああ‥‥なるほど。
- 池松
- 言ってること、わかりますか。
- ──
- わかります。感覚的にですけど。
- 池松
- 俳優の魅力が人間の魅力であるなら、
自分が自分であることは理想です。
でも、自分たちの世代の人間が、
安易にその道を選んでしまったら、
次の時代に対して、無責任だと思う。
- ──
- 壊したり超えたりしたいんですかね。
秩序とか、調和とか、自分とかを。
- 池松
- 何でしょうね、表現行為というのは、
ある意味で、
生き恥を晒していくようなものです。
で、こうして運良く生命を授かって、
いつか死ななきゃならないなら、
もっと生き恥を晒すことで、
もっと向上して、
もっといい作品に関わりたいなあと。
- ──
- なるほど。
- 池松
- そう思うだけです。
- ──
- わかりました。
いまの話のあとに敢えて聞きますが。
- 池松
- はい。
- ──
- 将来、どんな俳優になりたいですか。
あるいは「理想の俳優像」は。
- 池松
- ぼくは、どんな俳優になりたいんだろう。
んーー‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥‥。
<終わります>
2019-10-02-WED