平松 |
はい。
ぜひ、正しい読みかたを
日本語で記しておいていただきたいのですが
「アルマ計画」です。
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── |
よく間違われるんですか?
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平松 |
冗談のようですが、ときたま、
「あらま計画」とか
「アロマ計画」とか‥‥。
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── |
‥‥どちらも、すっかり別の計画ですね。
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平松 |
なので、ぜひ読みかたをお願いします。
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── |
わかりました。では「アルマ計画」と
太字で繰り返しておきます。
さて、聞くほどにすごいなと思うんですが、
「電波望遠鏡」というだけなら、
これまでにも、いくらでもありましたよね?
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阪本 |
おっしゃるとおりです。
でも、ALMAは性能がケタ違いなんで。
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平松 |
計画の規模も、いまだかつてないものです。
宇宙からの電波というのは
とても微弱なので、
たくさんの電波を集めなければなりません。
そこで、より詳しく宇宙を調べるために
ここまで大規模な計画が立てられたんです。
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阪本 |
でも、こんな大きなプロジェクトを
ある国が単独でやるという時代でもないから
「日米欧でやりましょうや」と。
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── |
計画がスタートしたのは‥‥。
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阪本 |
何年だっけ?
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平松 |
三者で決議書に署名したのは、2001年ですね。
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── |
11年前。
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阪本 |
まだ、計画は完成していませんけど、
ここにたどり着くまでにも
涙なくしては語れない話ばっかりでね‥‥。
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── |
ぜひ、聞かせてください。
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平松 |
阪本さんの場合は
建設用地を探すところから、だったので。
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── |
それは、いろいろご苦労がありそうです。
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阪本 |
四駆のトラックに乗って、あちこち、
ときには
グワーッと砂漠を走り回ったりもして
用地を探しまくったんです。
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── |
あちこちというのは、地球上のあちこち?
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阪本 |
アタカマのあるチリ、中国の青海省、
インドの山奥、
ハワイや南極のデータとも比較しました。
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── |
まさに「用地を求めて世界中」的な。
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阪本 |
そうです。
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── |
用地の条件としては、具体的には?
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阪本 |
標高が高くて、乾燥しているところ。
で、当たり前ですけど、広いところ。
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── |
望遠鏡、大きいですものね。
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阪本 |
ひとつひとつのサイズもありますが
望遠鏡どうしの間隔を広げれば広げるほど、
全体の解像度が高まるんです。
だから、たとえば「ハワイの山頂」では難しい。
アタカマは、山手線の内側くらいの面積が
ずーーーっと平らになってるから‥‥。
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── |
山手線の内側が、まっ平ら。
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阪本 |
すごいでしょ?
加えて、ヨーロッパのほうに
モンブランて高い山がありますけど、
あれ、標高4800メートルくらいですけど、
アタカマはそれ以上、
標高が5000メートルあるんです。
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── |
かの有名なモンブランより、高いと。
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阪本 |
そんなところが「まっ平ら」なんですよ?
条件的には、これ以上ないです。
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── |
もともと、こういう土地だったわけですか。
地ならしとか、したわけじゃなくて。
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阪本 |
地ならしなんか、やってられないよね‥‥。
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── |
そ、そりゃそうですよね、失礼しました。
では、場所が決まったら、まず何を?
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阪本 |
きちんとした地図なんかもなかったんで、
地形が正確にはわからない。
実際に現地に入ってみたら
フカフカで
車がスタックしちゃうような箇所もありました。
だから、どこに道を通すのか‥‥から始まって
実際に車で走り回って徹底的に調査したんです。
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── |
阪本さんたちが行くまでは、誰かいたんですか?
その場所には、何というか‥‥「誰か」が。
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阪本 |
だーれもいないし、なーんもない。
ぼく、ハエに出逢ったとき
本当に愛おしい気持ちになったもの。
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── |
ハエに「愛おしさ」を‥‥。
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阪本 |
たまーにですけど、
ビクーニャというラクダの一種を見かけたり、
鳥が「走って」たりはするかな。
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── |
鳥が、走る?
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阪本 |
鳥だって、飛ぶの大変なんですよ。
空気半分しかないんだから。
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── |
そういうこと‥‥なんですか?
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阪本 |
空気が半分しかないってことはつまり、
2倍羽ばたかなきゃふつうに飛べない。
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── |
マンガみたいな話ですね‥‥。
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阪本 |
酸素だって半分なわけです。
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── |
そうか。
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阪本 |
つまりですよ、アタカマを飛んでる鳥は
酸素が半分にも関わらず
2倍、羽ばたかなきゃならないんです。
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── |
そ、それはたいへんですね。
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阪本 |
ゼェゼェ言いながら飛んでんですよ。きっと。
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── |
はー‥‥。
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阪本 |
とにかく、そういうところなんです、
一事が万事。
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── |
なんか、今のお話で
「アタカマとは、たいへん過酷な場所である」
ということが、よくわかりました。
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平松 |
少し、話を軌道修正いたしますと‥‥。
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── |
恐れ入ります。
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平松 |
さきほど「性能もケタ違い」と申しましたが、
ALMA計画では
望遠鏡と望遠鏡との間の間隔を
最大18.5キロまで広げることによって
「直径18.5キロの望遠鏡」に相当する分解能、
つまり「視力」を持ちます。
そうすることで
ハワイ・マウナケア山頂の「すばる望遠鏡」や
「ハッブル宇宙望遠鏡」の
「10倍」の解像力を、実現するんです。
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── |
ハッブル宇宙望遠鏡って
地上約600キロメートルの宇宙空間を飛んでる
望遠鏡ですよね?
すごく遠くの宇宙を綺麗に撮影できる、あの。
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平松 |
ええ。 |
── |
その「10倍」と言いますと
具体的には、どういったすごさなんでしょう。
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平松 |
大阪に落ちている1円玉を
東京から見分けられるような解像力です。
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── |
うわー‥‥まさに「神の目」であると。
ちなみに、素朴な感想で申し訳ないのですが、
「電波望遠鏡」というのは
パラボラアンテナの形をしてるんですね。
いわゆる、レンズのついた望遠鏡ではなくて。
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平松 |
そうなんです。
より正確には
「66台のパラボラアンテナを組み合わせて
巨大な電波望遠鏡を構成する」
というのが、ALMAの考えかたなのですが。
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── |
なるほど、「全体でひとつ」と。
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平松 |
正式名称は
アタカマ大型ミリ波サブミリ波干渉計
と言いまして、
つまり、宇宙からの「電波」をキャッチして
宇宙のようすを調べるんです。
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阪本 |
ようするに「暗視カメラ」なんですよ。
たとえば、赤外線センサーで見ると
真っ暗な森の中に
バンビちゃんが飛び跳ねているのが
見えますよね。
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── |
バンビちゃんが‥‥ええ。
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阪本 |
それと同じような感じで、光は出さないけど
赤外線や
ミリ波・サブミリ波などの電波を出す天体は、
たくさんあるんです。
それらの電波をキャッチすることができれば
目で見えなくても
何かがうごめいているのを、確認できる。
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── |
‥‥見えないけれど、うごめくもの。
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阪本 |
ようするに、この電波望遠鏡を使えば
自分で光を出さない天体を
宇宙の暗闇に、見つけることができるんです。
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── |
見えない天体を、見つけることができるって‥‥
聞くだけでドキドキしてきました。
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平松 |
この写真を見てください。
左側が、ふつうの写真。
私たちの目で見ることのできる可視光線で
撮ったものですね。 |