── ALMA計画の話に戻ります。

アタカマに建っている電波望遠鏡には
直径12メートルのものと
直径7メートルのものと、
2種類の大きさがあると聞きました。
平松 ええ。
── どっちにしても巨大だと思うんですが、
これって、どうやって組み立てるんですか?
 
平松 アタカマからちょっと下ったところに
山麓施設があるんですが‥‥。
阪本 まあ、ちょっと下るって言っても
標高2900メートルくらいあるけどね、そこ。
── じゅうぶん高地ですね。

標高2900メートルに建つ山麓施設。
©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

平松 我が国は、66台のうちの16台を建設しますが、
基本的には
日本の工場であるところまで組み上げ、
一度バラして輸送し、
2900メートルまで上げて、組み立て直します。

直径7mのアンテナのほうは
日本でぜんぶ組み上げてから「3分割」して
山麓施設まで持ってきています。

1カ月をかけて、船で太平洋を横断して。
 
── ひとつ組み上げるには、どのくらいの時間が?
平松 1個1週間。
── わ、意外に早いんですね。
ガチャコン、ガチャコンという感じで?
平松 あっという間ですよ。
── 米欧のアンテナも同じような方法ですか?
平松 アメリカも、カタチにしてから
現地で組み上げるというやりかたを取ってます。

ただ、ヨーロッパは
ちょっとアンテナの素材が違っているので‥‥。
── 素材?
平松 炭素系の素材を使っているんです。
── それって、理由は「軽量化」ですか?
ボーイング787みたいに。
平松 ひとつには、そうですね。

加えて、金属を使った場合には
強い日差しによる温度変化で変形してしまう。

それを防ぐために
カーボン素材でつくっているんですが
カーボンって「ネジ止め」できないんですよ。
── ははあ。
平松 そのために、ヨーロッパの場合は
12mのアンテナを
半分づつ、半円形につくってからチリに運び、
接着剤でくっつけてるんです。

ヨーロッパのアンテナは半分ずつつくって接着剤でくっつける!
©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)/S. Stanghellini (ESO)

── ‥‥接着剤?
平松 接着剤。
 
── 接着剤ですか、そこ。
 
平松 ええ。
── またすごい接着剤があったもんですね‥‥。
阪本 たまに「あ、ずれちゃった」みたいなことも
あったりしてね。
── 全体にほのぼのした会話になってますが
これ、巨大電波望遠鏡の話ですよね‥‥。
平松 日本の場合は、こちらで仮に組み立てるときに
練習できますけど、
接着剤の場合は、ぶっつけ本番なんですよ。
── 組み立てかたがちがうことによって、
望遠鏡の特徴も、ちがったりするんですか。
平松 基本的なスペックは同じです。
阪本 ただ、建てるときの思想がちがう。
僕は「家と同じだな」と思ってます。
 
── 家、ですか。
阪本 日本の発想は「日本式家屋」つまり「柱」です。

つまり、
トラス(三角形を基本にした構造形式)で組んで、
「風通しのいい状態」を実現している。

これって、ようするに「日本家屋」なんですよね。

こちら日本の電波望遠鏡は風通しのよいトラス構造。
©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── なるほど、なるほど。
平松 温度を一定に保つということは
電波望遠鏡にとって大切なポイントですから
その目的にも、合致しています。
── 理にかなっているんですね。
阪本 それに対して、アメリカのアンテナは
「ツーバイフォー」。
ボックス型なんです、基本の考えかたが。

ハコを組み合わせていくことによって、
「頑丈な構造」にしてるんです。

アメリカの電波望遠鏡はボックス型で頑丈なツーバイフォー。
©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

── それぞれ、自国の「家の思想」が反映された
望遠鏡になっているとは、おもしろいです。
阪本 国際宇宙ステーション(ISS)にも
「きぼう」という実験棟がついてますが‥‥。
── 日本の実験棟ですよね。

いま、宇宙に行っている星出彰彦宇宙飛行士
以前、ISSにくっつけた、あの。
阪本 船内実験室という実験モジュール、
船内保管室という収納モジュール、
そして
船外実験プラットフォームという
宇宙空間にむき出しの部分で構成されてますが
あれ、じっと見てたら
「六畳一間、押入れ、縁側つき」
じゃないですか。

日の丸部分が六畳間、その上の円筒が押入れ部、左側に縁側部‥‥。
画像提供:NASA

── い、言われてみれば‥‥。

ちなみに、写真で見たんですけど
望遠鏡を運ぶ用の台車も
なんか、ものすごかったです、見た目が。
阪本 タイヤが28個ついてるやつね。
平松 トランスポーターという特殊な車両です。

画像提供:国立天文台

── ああっ、これこれ! 

これで、アンテナを運び上げるんですよね。
すごいですよね‥‥。
阪本 そう、重さ100トンとかのアンテナを。
── 直径12メートルで、重さは100トン?
アンテナとは、あらためて巨大です。
平松 それでいて
鏡面の精度は誤差が25ミクロン以内。
── ‥‥というと?
平松 髪の毛の太さの
3分の1とか4分の1ぐらいの凸凹しか
ないんです、アンテナ面に。
 
阪本 つまり超なめらか仕上げなわけ。

画像提供:国立天文台

── しかも、ものすごい微妙に動くんですよね。
平松 ALMAの電波望遠鏡は昼も観測していますので
太陽の熱で歪みますし、
単純に、風が吹いたら揺さぶられてしまいます。

観測データに影響が出てしまうので
そういう歪みや揺れを
即座にキャンセルするセンサーと駆動装置が
搭載されているんです。
阪本 昼でも夜でも、あったかくても寒くても、
風がびゅうびゅう吹いていたって
ちゃんと観測できるようにできてんです。
 
── つまり、自分の身体を微妙に調節していると。
平松 すこし傾いているなと感じたら、
すぐに計算して、ちょこっと身体を修正する。
── そんな、巨大かつ精密な望遠鏡を
高度5000メートルまで運び上げるのが
さっきの、オバケみたいな台車。
平松 ええ。
── あんまり関係ない話ですみませんが
これって、特殊な免許がいるんでしょうか?
大型ナントカ‥‥みたいな。
阪本 公道じゃないから不要でしょうね。
平松 でも、きちんとトレーニングをしなければ
操縦はできません、当然ですけど。

車全体の重心がどこにあるのかを示すモニターが
運転席についていて、
車体が傾いていないか逐一チェックしつつ
ゆっくりゆっくり、登って行きます。
── 高度5000メートルまで。

©ALMA (ESO/NAOJ/NRAO)

阪本 この車、すべてのタイヤが独立して動くから
その場で、ぐりーっと回転できるんですよ。
── へぇー!
阪本 縦列駐車とかラクだよね、だから。
── そんな機会ありますかね‥‥。
阪本 あははは、ないね!
平松 ALMA計画の電波望遠鏡は
これまでの電波望遠鏡にくらべると
圧倒的に性能が高いので、
たとえば
以前の望遠鏡で一晩かかって観測していたものを
1時間で終えられたりするんです。
── 性能がいいとは、具体的には?
平松 まず、望遠鏡の「数」が多いです。

それから、デジタルカメラでいうところの
CCDに相当する部分の性能が
ものすごく高い、ということもあります。

そして、もちろん「場所」がいい。
── やはり、設置の「場所」は重要なんですね。
性能をも左右してしまうほど。
阪本 まあ、見つけたから言うわけじゃないけど
ホントいいとこなんですよ、アタカマって。
 
── 「ホントいいとこ」(笑)。
 
阪本 単純に、風景としても素晴らしいしね。
── 空の色とかも違いそうですものね。
阪本 ま、青黒いですよね。
── 青黒い。つまり、宇宙に近いから。

画像提供:国立天文台

阪本 で、夕焼けが七色。
── 七色ですか! 見てみたいです‥‥。
阪本 夕方、太陽が沈んでいく方向を見ると
赤、黄色、オレンジ‥‥と
グラデーションで暗くなっていくんですが
反対を見ると、青や紫なんです。

で、頭の上は真っ黒で、星が見えてる。
── ここ地球ですかって感じですね。
阪本 そんな圧倒的な風景に、没入するんです。
もう「キャー!」ですよ。
── そう思います。
阪本 そして、当然のように
夜は天の川が「ワー!」ですしね。
 
── ははあ。
阪本 その光で、自分の影ができるんですよ。
── 天の川の、影?
阪本 銀河系の中心が、そのへんに見えてるから。

で、また別のときですけど
自分の影が、くっきり出たことがあって。
── ええ、ええ。
阪本 で「何の影だろう?」と見上げたら、金星。
── ‥‥金星で影ができるんですか?
阪本 さすがに、あのときばかりは
「カーッ、すげえな!」と思いましたね。

©ESO/C. Malin

<つづきます>


2012-10-01-MON

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