料理人に土鍋を使ってもらうシリーズ イタリアン清水明完さん編

江戸時代から、伝統的な和食の世界で
料理人たちに愛されてきた土楽の土鍋。
それを現代の家庭でも使いやすいようにアレンジした
「ほぼ日」の「うちの土鍋シリーズ」は、
2007年の発売から、累計1万個を超える数を
みなさまのところにお届けしてきました。
今回からはじまるこのシリーズは、
「煮る・炊く・蒸す・焼く」のできる
「うちの土鍋シリーズ」の個性をいかして、
現代のいろいろなジャンルの料理人のかたに、
家庭でも再現できる土鍋料理を教えていただこう!
というもの。
まずは、東京・恵比寿にあるイタリアン
「S(エッセ)」の清水明完シェフに登場いただきます。
道歩さんもいっしょに、おじゃましまーす!

清水明完(しみず・はるさだ)

1978年神奈川県生まれ。大学卒業後、料理専門学校へ。
2002年、日髙良実さんひきいる
アクアパッツアグループに入社、
2010年、東京・千駄ヶ谷にある、
魚料理を得意とするイタリアン
「マンジャペッシェ」の料理長に就任。
2018年、マンジャペッシェの2号店として、
カウンター主体のイタリアンレストラン
「S(エッセ)」を東京・恵比寿にオープン。

レシピ1豚バラ肉のバルサミコ煮

「住みたい街」としても、
遊びに行く街としても人気の高い、
東京・恵比寿に清水さんのお店
「S(エッセ)」はあります。

こぢんまりとした一軒家。
オープンキッチンにL字のカウンターという
シンプルなつくりですから、
調理をする清水さんとお客さんは、
まるでステージと客席のような関係。
バックヤードがなく、
調理をする手元までつまびらかに見えるため、
「へえ、そんなふうにつくるんだ」とか、
「ふむふむ、下ごしらえはあそこまでしておくんだね」、
「このタイミングで火をとめるのね」なんて、
料理の好きな常連さんたちは
たのしくて仕方がないというふうに
清水さんが調理をする姿を見ています。
このつくりをいかして料理教室も主宰している清水さん、
伝統的なイタリアンのレシピに精通しているだけでなく、
「あたらしい料理」をつくることにも努力をおしみません。

そんな清水さんに、
「うちの土鍋を、使ってみてもらえませんか?」
とお願いしたのは昨年のこと。
煮る・炊く、ことが得意なのはもちろん、
蒸したり、焼いたりすることもできる
土楽の土鍋ですから、
清水さんのようなタイプの料理人の「料理欲」を、
もしかしたら、くすぐることができるんじゃないかな?
と思ったのでした。
清水さんは、ふだんの業務では、使い勝手のよい
鋳鉄やステンレスの道具を使っているわけですけれど、
「お米も、鉄鍋とはまたちがう炊き上がりなんですよ」
なんてアピールしたりして、研究を依頼。
取材の日をむかえました。

「土鍋って、やっぱり煮物が得意だと思うので、
イタリアンな酢豚をつくろうかと思います」

えっ、酢豚? それは中華料理では。

「バルサミコを使って、豚バラ肉を煮るんです。
ちょっと時間がかかりますが、
とてもやわらかく仕上がりますよ」

中華の酢豚はお肉を揚げて使いますが、
清水さんの「豚バラ肉のバルサミコ煮」は、
豚肉を焼いてから使います。

鍋は、ベア1号。
用意するのは、豚バラ肉を1キロ。
前の晩からお肉の1%の塩(1kgの肉に対し、10g)を
まぶして、冷蔵庫に入れておきました。
これを、サクにして使います。

そして、あらかじめお肉と同量の
玉ねぎ(つまり1キロ分)を
アメ色に炒めておいたもの。
小麦粉とオリーブオイル、それぞれ適量、
それから肝心なのはバルサミコ(約200〜300ml
※バルサミコ酢の甘さや酸味具合によって要調整)
安価な、酸味の強いものでOKです。

豚バラ肉に小麦粉をまぶします。

土鍋を火にかけて熱し、油をうすくひいて、
表面がキツネ色になるまで焼きます。

「土鍋で焼くと、豚肉が焼ける音も、
いつもよりやさしく感じますね!」
と清水さん。
そうなんです、「音」もちがうんですよね。
金管楽器と木管楽器のちがいというか。

焼いていくうちに、豚の脂が出てくるので、とります。
この脂はとっておけば、ラードとして使えるそうですよ。

表面がまんべんなくこんがり焼けたら、
炒めた玉ねぎをのせます。

豚肉が半分つかる位までお湯を入れて、
バルサミコを加えます。

ここからが、がまん。
豚肉がとろっとするまで、
ふたをして、弱火で2時間ほど煮込みます。
ときどきふたを開けて、
煮汁が減っていたら、適宜、お湯を加えます。

清水さんは時折、串をさして硬さをみていましたが、
2時間煮込めば大丈夫だそうです。
(硬いのがお好みであれば、はやめに火をとめても、
うんとやわらかくしたければ、さらに煮込んでも。)

さあ、できあがり。
サクのままでは大きいので、
「酢豚的な」大きさに切り、
「ほんとにだいじなカレー皿」に盛ります。
仕上げのいろどりに、ピンクペッパーを添えました。

試食。
おお、なるほど、
揚げて煮てからめて、と一気に調理する
中華の酢豚とちがい、
2時間かけて煮込んだだけのことはあり、
適度な歯ごたえを残しながらも、
噛みきれるやわらかさがあります。
強い塩はしていないのに、
バルサミコの酸味、
そこに炒め玉ねぎの甘味と旨味が加わり、
豚バラ肉ならではのコクがある。
全体のバランスがよく、なんともさわやかです。
これは、ちょっと重めの白ワインか、
かるめの赤ワインが合いそうだなぁ。
見た目は地味なんですが、
味はとてもはなやかでした。

道歩さんのアンサーレシピ里芋と揚げ出し豆腐の炊いたん

「S(エッセ)」のキッチンを借りて、
清水さんにぜひ食べていただきたいと、
道歩さんも土鍋料理をつくってくださいました。

まずは、揚げ出しからじぶんでつくる、
「里芋と揚げ出し豆腐の炊いたん」。
“炊いたん”というのは、関西のことばで、
煮て仕上げた料理をさしています。

だしは、たっぷりのかつお節と、昆布。
味付けはお塩と酒、醤油のみ。
道歩さんと、お父さんの雅武さんは
料理にお砂糖をほとんど使いません。
「素材をいかせば、自然のあまみは出る」
という考えからです。
(辛党、ということもあるのかも?)

里芋は、土楽のお隣の畑でとれたもの。
味付けをしたつゆで煮込みます。

豆腐は、素揚げに。粉は使いません。
じっくりゆっくり、焦らずに揚げることで、
ちゃんと「揚げ出し」になるんです。

この揚げ出しを、
里芋が煮上がったくらいのタイミングで
鍋に入れます。
このとき、土楽の庭の畑でとれた山東菜も
一緒にさっと煮て、
ゆずの輪切りをのせました。

取碗によそって、できあがり。

土鍋で炊いた里芋は、芯までしっかり火が通り、
それでいて煮崩れていません。
できたての揚げ出しは、
市販品とちがい、中がふるふるの蒸し豆腐状態!
あたたまります。

清水さんのイタリアン、
道歩さんの和食。
交互に食べても違和感がありません。
家庭でおいしいものをつくって食べるって、
こういうことですもんね。