2018年、東京とTOBICHIでお披露目し
その後の展示会でもご紹介してきた
entoanのフリンジサンダル。
アッパーに上質な一枚革を使い、
靴職人である櫻井義浩さん・富澤智晶さんらの手で、
ていねいに、手縫いでつくられた、
アッパーのフリンジが特徴的な
履き心地のよい一足です。
TOBICHIでは、櫻井さん・富澤さんが驚くほど
おおぜいのかたがお求めくださり、
いまも大切に履くかたの多い「名作」のひとつ。
もともとentoanは、展示会を開き、
そこに来てくださったみなさんの足のサイズをみて、
オーダーを受けて、一足ずつ靴をつくるというのが
「いつものスタイル」ですから、
これまでTOBICHIでの販売のみとしてきましたが、
今回、あたらしい試みとして、
この「フリンジサンダル」を
「ほぼ日」で販売をすることになりました。
そこにいたるまでのいろいろを、
越谷のアトリエにおじゃまして、おふたりに聞きました。
>entoanのプロフィール
[前編]entoanが、はじめて
「靴」のネット販売をします。
- ──
- 「ほぼ日」では、革のバッグ、お財布やポーチに始まって、
ルームシューズまでは販売をしたことがありますが、
こういった手縫いでかかとのある
いかにもentoanらしい革靴を
オンラインで販売されるのは、
今回が初めてだとお聞きしました。
その場として「ほぼ日」を選んでくださって光栄です。
- 櫻井
- こちらこそありがとうございます。
- ──
- サンダルは一般的な革靴にくらべて
厳密なフィッティングが要らないということが、
ハードルを低くしたのでしょうか。
- 櫻井
- それもひとつの理由です。
けれども、もうひとつ、
entoanを始めて14年ぐらいになって、
「そろそろできそうだぞ」と思った、
ということも大きいんです。
そもそもぼくたち「作るのも販売するのも
全部自分たちでやっていこう!」という思いで
始めたわけではないんですよ。
最初の夢は、工場を使っていっぱい靴を作って、
おおぜいのところに届けたいという思いがありました。
そしてこつこつつくっては売り、ということをしてきたのですが、
ブランドを立ち上げて2年目のときに、
大量の発注をいただいたんです。
たくさんつくりたいという夢はあったけれど、
靴の学校を出て2年ぐらいしか経っていなかった自分は、
そんなに大量の靴を作ったことがなかったものですから、
専門の工場に生産を委託しました。
ところが、それがうまくいかなかった。
どうにかこうにか、自分で修正をして、
無事、納品することができたんですけど、
「このやり方は、自分の方向と違うぞ?」と思い、
そこから、とりあえず全部を自分たちでやってみよう、
となって、今に至るんです。
- ──
- どういうところが櫻井さん的にはNGだったんですか。
- 櫻井
- ソールの貼り方がずれている、とか、
こまかな点がいろいろありました。
もちろんその工場では許容範囲なんですよ。
けれども自分の中では、
「これではずれている」という認識で、
つまりは工場と僕らの基準が違ったんです。
そのギャップを埋めようと思っても、
二十代半ばだったぼくはうまく交渉ができず、
だったら自分で、と。
- 富澤
- ブランドを立ち上げたときは
自分たちも若かったので、
職人さんとコミュニケーションをうまくとって
お願いするっていうことができなかったんです。
- ──
- それが、十数年の間に、変化をしたんですね。
- 櫻井
- はい。サンプルをつくり、展示会を開き、
受注を受けて製作をするというなかで、
少しずつ、信頼のおける靴職人さんとの
つながりができました。
今回のフリンジサンダルは、
部分的に彼らに手伝ってもらうことで、
entoanとして満足のいくクオリティの靴が
いつもより多く作ることができたんです。
これだったらネットで販売をしても大丈夫だろう、と。
- ──
- いい職人さんとの出会いがあったんですね。
- 富澤
- 十何年、やってくるなかで、
任せられる人ができてきたんです。
お財布とか小物関係なら、
全部の工程を一人で仕上げるところまで担当できる
職人さんはいるんですけれど、
靴ってすごく工程が多いので、
なかなかひとりで完結ができません。
例えばアッパーを縫う人と底付けをする人の技術は
全然違うので、多くの人の手がかかるんです。
このフリンジサンダルも、
底縫いを全部手で縫っているんですけれど、
私たち2人ともう1人の3人でやっています。
底付けの周りを削ったりするところを
お願いをできる方もいたので、そこも手伝ってもらったり。
そんな協業が、やっとできるようになってきました。
- ──
- そこと、最初におききしたこと、
サンダルなので綿密なフィッティングや
その人に合わせた調整をしなくてもいいという判断が
お二人の中にはおありだったわけですね。
- 富澤
- そうですね。今でも、
櫻井がかっちり作っている革靴は、
自分たちがお客さまの足のサイズを見て、
フィッティングをしてから、
調整をしてお届けしたいと思っています。
けれどもこのフリンジサンダルは、
そんなにシビアにフィットするような作りではないので、
「これだったらネットでも」と思っていましたが、
なかなか踏み切れずにいたので、
今回、こうしてお話をいただけて、よかったです。
こういうことって、買ってくださるお客さまとの
信頼関係が大事だと思っています。
「ほぼ日」さんでずっとやらせてもらっていて、
いいお客さんばかりだなっていうことを
すごく感じていました。
- ──
- 嬉しいです、ありがとうございます。
実際、今回のフリンジサンダルは、
乗組員がTOBICHIの展示販売でオーダーし、
社内でもアピールしていたんですよ。
- 富澤
- ありがとうございます。
TOBICHIでの展示販売でも、
お客さまからたいへん好評をいただきましたね。
もともとフリンジサンダルは
展示会で人気のアイテムですが、
TOBICHIではいつもより多くの
オーダーをいただきました。
特に京都店での人気の高さ、嬉しかったです。
- ──
- 相性がいい、という感じがします。
青山のTOBICHIで展示会を開いたのが
たしか2018年。
そこで初めて拝見したんですよね。
- 富澤
- はい、その頃ですね。
そこから、大きなデザインは変わらないけれど、
ちょこちょこパターンを変えたりしてきました。
- ──
- 今回もまたアレンジを加えていただいて、
より履きやすくなっていますね。
たとえば、サンプルを
履かせていただいてわかったんですが、
以前のタイプを持っている身として
「土踏まずのクッションがすごくよくなっている!」と。
- 富澤
- そうですね。土踏まずのクッションは、
厚いものからもっと薄いものからいろいろ試して、
あんまり高く当たりすぎても痛くなるし、
かといってあんまり感じなかったら入れる意味がないしと。
- 櫻井
- 土踏まずに入れるか、かかとだけに入れるか、とか。
- 富澤
- いっそ全体にクッションを入れる? とか。
- 櫻井
- それで最終的に、
土踏まずだけっていうとこにおさまりました。
- ──
- 今回アップデートをされた点は、
土踏まずのクッションと、ほかにもあるんですよね。
- 富澤
- いちばん大きなことは、
手縫いにした、というところです。
私が今履いてる以前のサンダルは
ミシンを使って底縫いをしています。
けれどもミシンを使うと、底を上にして縫うんですね。
中敷きのほうを見ずに縫うことになる。
そうすると、中敷側の革の切り替えの部分、
段差のところを、うまく一目で越えられなかったりする。
- 櫻井
- 構造上、そういう場所が4カ所あって、
手だったらそこを意識しながらきれいに縫えるのに、
裏側からダーッてミシンで縫っちゃうと、
段差のところの落とすべき位置にうまく針を落とせず
革が切れてしまうことがあるんです。
- 富澤
- あと、革のコバから5ミリっていう指定をして縫っても、
ミシンだと加減で若干内側に入ったり
外側に拡がったりします。
それはたとえば工場の規定では「許容」なんですけれど
entoanとしては困ってしまう。
靴って縫う幅が違うと足入れに影響があるんですよ。
今まで、それでクレームが来たことはないんですけれど、
自分としてはそれが気になっていて、
特に数を何百という数を作っていくと、
製品の安定感は必要ですし、
特にネットで売るとなったら、
サイズ感がバラバラすぎてはいけない。
- ──
- 確かに、個体差がありすぎるのは。
- 富澤
- そうなんですよ。そこがネックで、
いろいろ職人さんに相談をして考えたんですけど、
どうしてもミシンでの底縫いだとその不具合が出る。
そうしたら櫻井が「手縫いにすれば?」と。
それでも私は手縫いの大変さがわかるので、
「いや、それじゃ、数が作れないから」と、
なんとかミシンで安定した底縫いができないものか
いろんな職人さんに訊いて探っていたんです。
けれどもなかなか解決策がなくて、
それで結局、手縫いでやってみようかと。
- 櫻井
- クオリティが一番高いのは手縫いなんですよ。絶対に。
だから自分の答えは最初からそっちでした。
そりゃ大変だし、ちょっと値段も高くなっちゃうけど、
いいものを作るってなったら絶対手縫いだと。
「手縫いに変えよう、手縫いしかない」
と言い続けてきたんだけれど(笑)。
- 富澤
- (笑)こっちはガンとして動かず。
- ──
- 時間だけで言うと、
どれくらい違うものなんですか。
- 櫻井
- 手縫いで縫うと片足30分から40分、
ミシンだったら1分かかりません。
30秒くらいかな。
- ──
- そんなに違うんですね!
- 富澤
- 1足1分ぐらいですね。
ダダダダダッ、と。
そこで値段が変わってしまうんです。
私としては、たくさんの人に買ってほしいし、
そもそもentoanの靴を
気軽に履いてほしいという思いから、
すごく手をかけて作るというよりは、
価格もちょっと買いやすい価格にして、
フィッティングもそんなにシビアじゃなく、
革靴を履いたことのない方でも履ける1足として
考えて作った靴だったので
「あんまり値段が上がっちゃうと
コンセプトもずれてくる」と‥‥。
でも一回縫ってみたら、やっぱりいいことづくめというか、
値段は上がっちゃうけど、
「修理ができる」んですよね。
そこがすごく大きくて。
- 櫻井
- ミシンだと針を同じ位置に落とせないので、
もう一回は縫えないんです。
手縫いだったら、穴が決まっていて、
その穴に入るように手で縫っていくので、
中底の交換をしたりとか、かかとだけ交換するとか、
パーツ交換の修理もできるんです。
- 富澤
- であれば、まあ、ちょっと作るのも大変になっちゃうけど、
そういった面でもいいのかなあと思い始めて、
手縫いをしようっていう決断をしました。
- ──
- 履く人からしたら、長く使えるのは嬉しいですよ。
経年変化というのでしょうか、
履いていて、だんだん色が変わっていくのは楽しくて。
同じものを直して履けるっていうのは、
買い物として大きな別の楽しみがあることに思えます。
- 富澤
- そうですね、断然、長く履いていただけると思います。
(後編につづきます)
2023-03-16-THU