雨続きの週に、ようやく晴れ間が差し、
気持ちのいい春の空気を感じる中、
にほん茶チーム一同は、静岡県島田市にある、
つきまさ静岡工場にやってきました。
まずは、茶畑を案内していただけることになりました。
ほぼ日で販売しているにほん茶は、
静岡、宮崎、鹿児島の契約農家さんが育てている茶葉を、
つきまさ静岡工場の皆さんが厳選した上で、
火入れをして、煎茶に仕上げてくださっています。
今回販売する3種類の「新茶」は、
これから案内していただく畑のものではないのですが、
毎年秋に販売している有機栽培のお茶「奥の」は、
そこで育った茶葉を使わせていただいています。
つきまさの皆さんが丹精こめて育てている茶畑で、
新茶がそもそもどういうものか、
学んで来たいと思います!
案内してくださるのは、
以前にも
インタビューをさせていただいた株式会社つきまさの社長、土屋博義さんです。
土屋社長の運転する車で、
急な山の坂道をぐんぐん登っていきます。
車がぐらぐら揺れるほどの険しい山道を通り、
着いた先には、
目にも鮮やかな新緑の、壮大な景色が広がっていました。
▲茶畑に到着!
蝶やてんとう虫が飛び交うこの畑は、
「天空農園」と呼ばれ、ここで作られているのは、
有機栽培で育った自然製法茶です。
▲ほぼ日で秋に販売する有機栽培の煎茶
「奥の」も、この畑で作られています。
訪れた日はとてもいいお天気でしたが、
土屋社長は気温より、
「土の中の温度」が大事だと言います。
「プロの言葉では、地温と言うんですけど、
たとえば3月に気温が上がったとしても、
地温が温まっていないと芽が出てこないし、
葉っぱが伸びないんです」
▲右が、つきまさの土屋社長。
「うおがし銘茶」の会長でもあります。
また、お茶を手で摘み取って、
こんなことを教えてくれました。
「中央に、芽があるでしょう。
この芽を『芯』と言って、ここと
その下にある2枚の葉までを『一芯二葉』と言って、
手摘みの時代は摘んでいたんです。
機械摘みになってからは、もう少し下、
4~5葉まで摘みますけども、
芯にはお茶の甘みが詰まっていて、
これがあるうちは葉っぱもやわらかいんです。
芯がなくなると、出開き(でびらき)と言って、
葉っぱがどんどん硬くなっていく。
この、やわらかい芯があるときに摘むのが、新茶です」
▲真ん中に芽(芯)がある、一芯二葉(いっしんによう)。
これが新茶のおいしさ!
冬の間にたくわえた栄養や甘みの詰まった
フレッシュな芽と、やわらかい葉と、
茎の部分が合わさることで、
うまみと少しの苦渋みも加わって、
バランスのとれたおいしさになります。
そして、良質な畑ほど、茎の部分も太く、
火を入れたときに茎からも甘みが出るのだそうです。
▲案内してもらう私たち。
さて、新茶といえば、
立春から数えて八十八日の夜が過ぎた日、
いわゆる「八十八夜」に摘むとされています。
漢字の「八」が末広がりだったり、
八十八を組み合わせると
「米」という漢字になったりすることから、
「新茶は縁起がいいもの」と言われています。
この時期は、お茶農家さんにとっては、
やっぱり特別なもの。
土屋社長は、こんな話も教えてくださいました。
「昔から『八十八夜の別れ霜』と言って、
八十八日を過ぎると、お茶に霜が降りなくなるんです。
その前までは霜の害というものがかなりあって、
霜が降りると、茶葉が凍って真っ黒になってしまうわけです」
そのために、茶畑の多くには「ファン」と呼ばれる
霜除けの扇風機が設置されています。
「でもね、ここの茶畑は、お茶の木自体が強いから、
霜なんかにあまり負けないんです(笑)」と、土屋社長。
そんな自慢の茶畑を管理している
「天空農園」代表の増田さんと、
スタッフの仲安さんにもお会いすることができました。
▲左から増田さん、仲安さん、そして土屋社長。
中央の女性、仲安さんは、
2021年に入社された若手のホープです。
埼玉出身で、特に静岡にゆかりが
あったわけではないそうです。
「学校を卒業したら自然の中で働きたいという
気持ちがずっとあったんです。
お茶も好きでよく飲んでいたので、
最初は地元のお茶農家さんに
就職しようと思って探したんですけど、
埼玉は家族経営の会社が多くて、
従業員を雇っているところがあまりなかったんです。
そんなとき、お茶の学校が静岡の金谷にあると聞いて、
じゃあまずは勉強しよう、と思って静岡に来ました」
その学校で2年間、
栽培管理や製茶の技術を勉強した仲安さんは、
その後、天空農園に就職し、
茶園管理や製茶作業に携わることになったのだそう。
▲あかるくて元気な仲安さん。
登って来るだけでも大変だったこの場所で、
日々働かれているなんて、
大変なこともあるのではないでしょうか。
「ここに来るまで、かなり急な道を
通って来られたと思うんですけど、
ここはまだ来やすいほうで、
もっと大変な畑もあるんです。
山を切り開いた奥にあって、四駆じゃないと行けなくて、
本当にジェットコースターみたいな感じで(笑)。
そこは摘採用の機械を運ぶのも大変です。
あと、ここは夏場の草刈りがものすごく大変ですね。
山の中なので、枝などがどんどんお茶の木に
落ちてくるのを拾うのも一苦労ですし、
大変なこともすごく多いんですけど、
それでも、毎日目に入ってくるもの全てが緑、
という環境は、自然浴というか、
やっぱり働いていて楽しいですよ」
▲「山のお茶は葉に厚みがあってプリプリしているんです」と仲安さん。
ここで、土屋社長に、平地で育つお茶と、
山で育つお茶の違いについてうかがいました。
「山だったら影になってしまう場所があるけど、
平地は、陽がまんべんなく当たるから生育が早いし、
成長がまばらということもない。
そういう意味では作りやすいし、味も濃くなって、
そこが平地の良いところですね。
山のお茶は、平地に比べて摘採時期は遅くなりますが、
葉が厚くて、香りが立ちやすいんです。
平地にしても、山にしても、どういう場所で
どういうお茶を作っているか、というのは、
企業秘密みたいなところがちょっとあるんです。
やっぱり、すぐれた作り手の、農家さんの存在を、
みんな知りたがっているから。
この山は、規模は小さいけれど、
育つ葉に気品や香りがあって、
うちのお茶の原点があると思っています」と土屋社長。
ここで、本来は午後からの摘採予定だったところを、
私たちのために特別に見せてくださるとのことで、
別の畑に移動しました。
▲茶摘みの様子を見せてくださるのは、ベテランの堀さんです。
「今日は昼まで草を刈って、午後からはお茶を刈って、
夕方から工場に入って、
夜中の12時くらいまではいる予定です」と堀さん。
そんなに遅くまで‥‥!
お茶は摘まれた瞬間から酸化がはじまるので、
すぐに熱を加えなくてはいけないんです。
一年でいちばん忙しい時期が、
今日からはじまろうとしています。
▲茶摘み開始!
これは『乗用(乗用型摘採機)』という中型の機械で、
この機械が通らない場所や斜面などでは
『可搬(かはん/可搬型摘採機)』という、
二人で手で持って刈る機械を使っているとのこと。
「最近は、茶園を作るときに、
こういう機械が入れるような形で最初から作らないと、
生き残っていけないんですよ」と土屋社長。
「うちが、こういう機械を使えているのも、
堀さんがいるからなんです。
機械が通れる道もきれいに整備してくれて」
と、つきまさ広報の方。
▲横幅も、機械の形にぴったり!
▲新茶が、どんどん摘まれていきます。
▲これが、摘採したばかりの新茶!
これらの茶畑を管理しているのは、
つきまさの皆さんだけではなく、
土屋社長が立ち上げた農業法人「高齢者茶業団」の
皆さんも一緒に働かれています。
「元々はそれぞれが、
うちにお茶を納めていた方々だったんです。
彼らが定年になって職を失うと言うので、
それじゃうちを手伝ってよと言って、
茶園を管理していただいたり、お茶を揉む時期には
工場で手伝ってもらったりしています」
▲高齢者茶業団の皆さん。
こんなふうに、お茶屋さんが
自社で茶園も管理する、というのは
かなりめずらしいことではないでしょうか。
「そうですね。最初は、問屋さんにお茶を卸してもらって、
うちが袋詰めして売っていたんです。
だけど、そうしていると品質にばらつきがあったり、
値段が適当であったりなど、
いろいろなトラブルがあったんです。
やっぱり本当にほしいお茶は、
自分たちで作んなきゃダメなんだ、
ということになったわけです。
そうすると、問屋の役割をうちが担うわけで、
その辺はすごく難しい問題があって、
10年、15年と厳しい日々が続いたんですが、
結局は自分のところでおいしいものを作って届けないと、
これからお茶屋はやっていけない、という結論を出して、
信念を持って続けてきました」