あかるいお茶をつくりたい。 あかるいお茶をつくりたい。
株式会社つきまさは、
「ほぼ日のにほん茶」を
つくってくださっている工場です。
社長の土屋博義さんは、
ふだんづかいのお茶をおいしくする、
ということを第一に、
さまざまな面で
既存のお茶業界の常識を変えてきた、
粋でかっこいい「お茶ひとすじ」のかたです。
このたび、土屋社長から
「静岡工場にお茶室をつくったんです。
遊びにいらっしゃいませんか?」
とお誘いをいただき、
新茶の季節に静岡におじゃまして、
いろいろお話をうかがってきました。
(インタビューには
工場長の増田さん、スタッフの孕石さんも
同席してくださいました)
顔が上を向くような、
あかるいお茶。
――
今日、ここに来る前に、
工場を見学させていただきました。
揉みの強弱や火入れの加減で
お茶の味が変わってくるということで、
スタッフさんがほんとうに職人気質というか、
確信を持ってお茶づくりをしている印象を受けました。
▲工場見学の際の様子。
お茶の蒸し加減を確かめている。
▲途中で何度も試飲に走り、香りと味をたしかめる。
「ここで味が決まるんです」とスタッフの村松さん。
土屋
ぼくが40年社員に言ってきたのは、
方向はぼくが出すから、信じてついてきなさい、
ということでした。
その方向を自分なりに解釈して、
お茶づくりに励みなさい。
味を決めるのは、産地じゃなくて
消費地なんだ、ということ。
ちょっとカッコよすぎるかな(笑)。
(スタッフの孕石さんのほうを見て)
どう思う?
孕石
ぼくも茶業界が長くて、
茶農家に生まれて、農業高校に行って、
わりと大きな製茶会社に入って、
それからこちらの「つきまさ」に入りました。
そういう意味では、ずっとお茶に
携わることをやってるんですけど、
「お茶ってこういうもんだ」というのを、
改めて痛感したのがここの会社なんです。
それまではお茶を飲むこと自体が日常茶飯事で、
それが当たり前にある状況なので、
味・香りというものについて
ほとんど考えていなかったように思います。
それが、お茶のおいしさについて
改めて考えさせられたのはこの会社でした。
――
お茶のおいしさ、って
言葉にするとどんなものなんでしょう。
土屋
目指しているのは、
あかるいお茶です。
――
あかるいお茶。
土屋
そう。あかるくて、
飲むと顔が上を向くようなお茶ですね。
ずっと変わらないのは、それです。
ただ、つくるお茶の味は、
時代によって変わるんです。
うおがし銘茶は、先代の土屋正が
相良(現在の牧之原市)の
山本平三郎という農学博士に会って、
「深蒸し茶」を知り、
「これは自分の求めてたお茶だ。
このお茶ならいくらでも東京で売ってみせる」と言って、
どんどんつくらせた、というのがはじまりです。
実際に消費地ではうちの深蒸し茶を
はじめて飲んでくれた人たちが感激して、
「うまいお茶だ」と言ってついてきてくれた。
深蒸し茶、という原点は変わってないんですが、
消費者の食生活の変化に合わせて、
求められるお茶の味も変わってきたんです。
――
食生活の変化で
お茶の味が変わるんですか?
土屋
たとえば、高度経済成長の時代に
サッポロラーメンがヒットして
濃い味が広まりました。
そういう食生活には、
やっぱりパンチがあるお茶が喜ばれたんです。
火入れを強く仕上げた、味の濃いお茶。
その食生活に対応したお茶を
ぼくらは何十年とつくっていたけれど、
近年は飽食の時代で、
「十分お腹いっぱい」という人が増えてきたんです。
――
ああ、なるほど。
土屋
こんなしつこいお茶を売っていたら先がない。
それで方向転換して、
さわやかさや軽さが先にきて、
印象に残るような香りもある、
そういったお茶づくりに変えてきました。
今後もそれを目指していこうとしていたら、
今度は産地が疲弊しちゃった。
高齢者が増えて、後継者が少なくなって、
我々が求めているお茶をつくるのが難しくなりはじめた。
それで茶畑を確保しなきゃということで、
自分たちで茶畑をつくったり、
まだ公にしていない品種を植えたり‥‥。
そんな工夫をはじめています。
――
時代に応じて、
求められているお茶があるんですね。
土屋
そう。でもね、
「あら、変わったわね」という
はっきりとした変わりかたをお茶はできないんです。
そういうことをやっちゃうと、お客さんが離れちゃう。
「あれ? 前のお茶とちょっと変わってきたかも」
ということを感じさせながら、少しずつ変えていく。
そのへんはお茶に語らせて、
言葉で説明しないようにしています。
――
お茶に語らせる。
土屋
お茶師の仕事って本来はそうですよね。
お茶について言葉で説明するのは違うと思う。
うちの社員も最初はすぐ説明したがります。
香りがこうで、味が濃くて‥‥なんて言っても、
人によって受け取りかたが違うんだから、
まず一杯飲んでもらいなさいと言ってます。
「このお茶じゃなくて、
もうちょっと軽いお茶が欲しい」
そう言われた場合には、
他のお茶を差し上げなさい。
そういう指導をしています。
――
以前、片桐はいりさんに
インタビューしたとき
に、
他のお茶屋さんのものは、
どんなに「おいしい」と思って買ってもなかなか続かないと。
でも、御社のお茶は、
飽きずに日常的に飲めるということを、
おっしゃってました。
土屋
あのインタビューを読んでうれしかったのは、
「雑にいれてもおいしい」
という一文でした。
まさにそこなんです。ぼくらが狙っているのは。
適当にいれておいしいと思える、
そういうお茶をつくらなきゃいけないなと
ずっと思ってきましたから。
――
いつも気軽にいれられる、ということを
教えてもらっています。
土屋
ぼくは店舗に立っているときも、しょっちゅう
「若い人こっち来て、簡単だよ」と言って、
いれかたを伝えてます。
それで「いま入れたの飲んでみてよ」と言って、
「おいしい」と言って、喜んでもらう。
その繰り返しが大切なんです。
どんないれかたでもおいしくて、
香りが立つ、ということが大事。
若い人に講釈たれたら、ついてきてくれない。
伝統食品は特にそうだと思う。
お湯の温度は何℃がいいとか、
いれかたをマスターしようとか、
歴史を知って知識をつけよう、とか、
そういう方向性もいいんだけど、
ぼくらは、「急須1つあれば簡単にたのしめる」
ということを
何が何でも伝え続けていきたいと思ってます。
――
私も、正しいいれかたを
守らなきゃいけないとか、
知識がないことが恥ずかしいとか、
そんなふうに思ってきたんですけど、
好きなふうにいれておいしかったら、
それが一番で、お茶って自由なものなんだなと
思うようになりました。
土屋
そのへんを分かってもらえると
非常にうれしいです。
うちがいつも理屈とか情報で
引っ張らないようにしているのは、そこなんです。
さきほど点ててもらった抹茶だって、
作法がどうこういうよりも、
ただ隣の人にどうぞ、って点ててあげる。
それっていいでしょう。
何も緊張することない。
そのへんから会話がはじまれば、
人のつながりができるし、いうことないです。
我々はただおいしいお茶をつくるだけ。
それでいいんです(笑)。
――
そうかもしれないですね。
もともと、
「お茶飲み友だち」というくらいですし、
話をするための道具というか。
土屋
そうですね。
――
これから「つきまさ」で
やっていきたいことはありますか?
土屋
それは、5代目工場長の増田がお答えします。
彼が考えていることは、ぼく以上だから。
――
ぜひ、お願いします。
土屋
すごいですよ、彼の知識。
ぼくらの時代は、問屋に気をつかいながら、
いろんなお茶農家に
「このお茶まわしてよ」なんて言いながら
必死にやってたんだけど、
そういう時代は終わって、
いまは、彼を慕って、この人についていこう、
と思ってくれる若い茶農家の倅が多い。
増田
この仕事をしていると、
農家さんから、
「つきまさほど『こういうものが欲しい』と
ハッキリ言ってくれる場所はない。
だから、ものづくりを追求しやすい」
と言っていただくことがよくあるんです。
ぼくらはそんなの意識してないんですけど、
農家さんのほうからそう言われると、
結果的に、社長が言っている方向に
なっているんだなと。
――
さきほど工場に「ぶれない」という
掛け軸が掛かっているのを見たんですけど、
その言葉がいまおっしゃったことを
あらわしているのかな、と思います。
増田
そうなんです。
「ぶれない」って大事です。
私は約30年お茶の業界にいますが、
もともとは感性でつくっていた時代があったのに、
バブル期に入ると、
職人的な心を重視するよりも、
高級な桐箱に入れたものがいい、というふうに
見た目の良さや高級感を重視する
お茶屋さんが増えました。
肥料をたくさんやったとか、
お金かけてつくったぞ、みたいな
自慢をしあうことまであって。
お客さまがそこを望んでるかといえば、
違うんじゃないかと思います。
ぼくらは普段使いが一番大事だと思っていて、
なくなったらすぐに買いに行けるお茶、
そこをおいしくしなきゃいけないなというのは、
日々気を付けています。
土屋
心強いですよ。
今も、新茶の出来を彼に見てもらうために
若い農家さんがじゃんじゃんうちに来てます。
その現場を見てもらいたいぐらい。
ぼくには分からない製造方法が
彼は分かっているんです。
近年はお茶の質がとても安定してきました。
50年やってきて、今年ほど楽な仕入れはなかった。
スイスイ流れるようにお茶ができて、
それがほんとにどれも良くて、
「いいのかい」というぐらい。
普通は「大丈夫かな、これで」みたいな不安点が
少しはあるんだけど、
今年のは作柄がすごく良い。
こんなのはめずらしいです。
(つづきます)
2018-06-24-SUN