株式会社つきまさは、
「ほぼ日のにほん茶」を
つくってくださっている工場です。
社長の土屋博義さんは、
ふだんづかいのお茶をおいしくする、
ということを第一に、
さまざまな面で
既存のお茶業界の常識を変えてきた、
粋でかっこいい「お茶ひとすじ」のかたです。
このたび、土屋社長から
「静岡工場にお茶室をつくったんです。
遊びにいらっしゃいませんか?」
とお誘いをいただき、
新茶の季節に静岡におじゃまして、
いろいろお話をうかがってきました。
(インタビューには
工場長の増田さん、スタッフの孕石さんも
同席してくださいました)
100点満点のお茶はつまらない。
- ――
- 今年のお茶は特にいい、とうかがいましたが、
さきほど、実際にほぼ日で販売する予定の
新茶を試飲させていただきましたが、
ほんとうにおいしかったです。
▲試飲させていただいたところ。
二煎目、三煎目のおいしさも考慮して選びます。
- 土屋
- ここまで持ってこれたというのは
やっぱり増田工場長の力が大きいんです。
彼、「つぶやきの工場長」なんですよ。
いつもお茶を見ながら、
1人でつぶやいてる。
「このお茶を救ってやるには
どうしたらいいんだろう‥‥」って(笑)。
- ――
- 農家さんにとっても、
こんなにぶれない会社があることが
心強いのではないでしょうか。
- 増田
- 商いの意識よりも、
仲間意識のほうが強いですから。
農家さんは持っている設備もそれぞれ違うし、
畑も作柄も違うから、みなさん迷うわけです。
そこで、一度うちに集まって、
「今年はお茶の芽がすくすく育ってるよね」とか
「雨が多かったから、こうしましょう」と話し合う。
ベストな状態に仕上げていく方法って
そのときどきで違ってくるんですけれども、
すべて農家さんと共有できるから、
仕上げをする我々のところに
原料が集まってくるときには、
一定のレベルを超えたものが揃う。
お客さまに安定してお茶を
お届けすることが最も大事なことで、
それができる若い農家さんが増えてきていて、
我々もありがたいなと思っているんです。
- ――
- 長年の信頼関係の積み重ね、ですね。
- 土屋
- そうそうそうそう。
長い間かけて築いてきたものが、
やっと今年に実を結んだみたいな、
そういう実感があります。
- 増田
- 農家さん自身が、お茶づくりを
楽しんでくれているというのが一番うれしいです。
値段や相場みたいな話じゃなくて、
「おいしくなったけど、どこか変えた?」
「前回こういうことをおっしゃっていたので、
こういう工夫をしてみました」
そんな会話をしながら何年も
いいお付き合いを重ねてこれたと思っています。
- ――
- まさに二人三脚ですね。
結果だけ見て、買う買わないを決めるのではなく、
過程を一緒に見てきているという感じがします。
- 増田
- それもやっぱり、
社長がぶれずにいてくれるからです。
「土地柄でお茶の個性が違うから、
そこを活かしなさい」
という方針があるんです。
「こういう水色(すいしょく)でないといけない」
なんて言い出すと、
せっかくいい香りがあるお茶でも、
売れなくなってしまう。
それに、農家さんが一番、
自分の畑の特徴を分かっているから、
それをそのまま活かしてあげるという方針でいくと、
農家さんもやりがいを感じてくださるんです。
- ――
- ああ、たしかにそうですね。
- 増田
- どの農家さんも、
最初に挨拶にくる顔と、
茶摘みが終わってから見せる顔が
全然違うんです(笑)。
みなさん、晴れ晴れとして帰っていく。
なかには
「今年は納得がいかなかった。
来年頑張ります」
と言って帰った人もいますけど。
- ――
- いろんな個性があるお茶が集まって、
それぞれを一番いい状態に仕上げるということを、
工場のほうで強く意識なさってるってことですね。
- 増田
- そうですね。
だから、買ったものに対して、
良い悪いだけを言うと、社長に怒られるんです。
我々が活かす方法を考えるんだ、と。
仕上げ、火入れ加工、ブレンド、
そういう力をつければつけるほど、
農家さん相手に他力本願にならずにすみます。
うちのスタッフも
一生懸命やってくれてると思うんですけど、
まだまだ社長は満足してくれてません(笑)。
- 土屋
- 味も香りもかたちも色もみんないい、
100点満点のお茶って、
つまらないなと思うんです。
たとえば、いろんなお茶を混ぜて、
足りないところをおぎなって、
うまいお茶をつくるという方法もあるんだけど、
それをうちは否定していて、
できるだけ「純」でいきたいと思っています。
クセがあったり香りだけが強かったりしても、
それも個性だからいい。
そのうえで、とびきりおいしいお茶に仕上げる。
そういう考えかたを大事にしています。
- ――
- オール5みたいなお茶よりは、
個性を活かしたい、と。
- 土屋
- そうそう、オール5。
人間もそういう人物よりは、
落第したり脱線したりしていたほうが
おもしろいでしょう。
- ――
- そのほうが、好きになれる力も強い気がします。
「こういう個性のお茶だから、
自分はこのお茶が好きなんだ」
というふうに思えそうですよね。
- 土屋
- そうそうそう。
- ――
- 海外でも何度目かの
日本茶ブームがきているという
ニュースをみたりしますが、
お茶の未来ってこの先どうなっていくんでしょう。
- 増田
- 以前から海外でもお茶が注目されていますが、
今はまだまだ原価重視というか、
「途中でマージンがかかるから、
原料はこれくらいのものでないと売れない」
というような話がよく聞こえてきます。
だけど、行く末は日本だけでなく、
海外でもハイクオリティのものを求める
消費者が出てくると思うんです。
そのためにも、やっぱり「つきまさ」は、
常に、感性を持った人がいる会社で
あり続けなきゃいけないかなと思います。
いいものを常に追っかけていたい。
ほんとに機械設定1つ、温度1℃で
お茶の味って変わってきますから。
- ――
- たしかに、
見せていただいて実感しました。
- 増田
- あとは、やっぱり静岡のお茶は、
捨てたもんじゃないぞ、
というところは見せたいです。
特に山のお茶のすごさですね。
ぼくら、もちろん平地にも畑を持っています。
平地だと運搬も楽だし、工場を建てるのも楽です。
いっぽう、静岡は山がたくさんありますけど、
山間地ほどつくるのも大変なので、
後継者がどんどんいなくなっています。
平地には平地で育つお茶の良さがあるけれど、
山間地のお茶には、
山でできるお茶の良さがありますので、
そこは農家さんに代わって、
我々が担い手になっていかなきゃ
いけないかなと思ってます。
- ――
- 農業法人を立ちあげられたのも、
そういうところからなんですね。
▲ノウハウを備えたベテランの
農家さんたちを集めて、お茶づくりを行っている。
「高齢者茶業団」という粋なネーミングも土屋社長のアイデア。
- 土屋
- ぜひ、山のてっぺんのお茶畑も
見ていってくださいね。
「天空農園」という名前をつけて、
これから自然栽培のお茶を
育てていこうと思っているところなんです。
- ――
- 「天空農園」!
響きがかっこいいです。
- 増田
- いや、もうとんでもない場所にあるんですよ。
最初はぼくも、
いくら社長の言葉を信じてるとはいえ、
とにかく山奥すぎて、
「ほんとに借りていいんですか?
こんなところでお茶づくりを
ほんとにやるんですか?」
って言いたくなりました(笑)。
- ――
- (笑)
そんな場所なんですね。
以前、山育ちのお茶は
気温差が大きいので厚みのある葉っぱができる、
とうかがいました。
- 増田
- そうなんです。
本来ならお茶を育てるには大変な地域なんですけど、
やっぱりお茶の木って、
苦労して育っているが故に、
上品な感じになるのかなと思います。
土壌も特別で、他の場所とは
全く違うお茶がとれる場所なので、
そんな場所をなくさせるわけにはいかない。
我々も農業の素人ですけど、長い時間かけてでも
ものにしていきたいと思います。
- 土屋
- わりかし、「つきまさ」って
おもしろい軍団なんです。
- ――
- お茶のことだけをずっと考えてきたら、
そこからいろんな哲学のようなものが
生まれてくるんだなということを、
すごく感じました。
- 土屋
- 「こんなお茶がほしい」ということがあれば、
どんどん言ってくださいね。
精一杯やっていきますから。
- 増田
- いやあ、プレッシャーですね(笑)。
- ――
- よろしくお願いいたします。
これからも、おいしいお茶を
たのしみにしています。
どうもありがとうございました。
- 土屋
- では、これから天空農園を案内しますが、
すごい山のなかにあるから、
崖から落ちないよう、
本当に気をつけてくださいね(笑)。
(おわります)
<インタビューを終え、天空農園を案内していただきました>
▲「雨が降ってたら怖くて運転できません」
と孕石さんがおっしゃるほど、
とんでもなく細い崖道を抜けて‥‥
▲山のてっぺんにある茶畑「天空農園」に到着。
これから自然栽培で育てていくところだそうです。
このお茶をいつか「ほぼ日のにほん茶」でも販売しよう、
という話も持ち上がっているんですよ。
そのときはまたレポートしますね。
最後までお読みくださり、ありがとうございました。
2018-06-25-MON
<仕入先について>
2018年度より、ほぼ日のにほん茶は、
株式会社つきまさ 静岡工場より仕入れております。
築地の老舗・うおがし銘茶の土屋会長が
社長をつとめている工場で、
これまでの「ほぼ日のにほん茶」と同じ高品質のお茶を
お届けいたしますので、引き続きおたのしみください。
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