HOBONIKKAN ITOI SHINBUN

ほぼ日のおかし 私のためのおいしいもの

「これだよ!」のおかしを見つけました。オリオリのパイ、特別販売します。

おかしは姿も味も魅力的です。
「あれを食べたいな、さぁ食べるぞ、ああ~」
という気持ちの高まりが、夢とたのしみを増やします。
糸井重里やほぼ日乗組員が出会ったおいしいおかしを
ひとつずつ紹介していくこと、
これまでずっとやりたかったのです。
自分だけで食べてもよし、
誰かとの時間をおかしで花開かせてもよし。
魅力をみなさんと分かちあいながら、
ほぼ日からおかしをお届けしていきます。
賞味期限や生産数がそれぞれ異なるので
販売のたびに形式が変わりますが、
どうぞその都度確認しながら、おたのしみください。
まずは、パイです!
イラスト : 丸山素直

小河原明子さんのはなし

パイは人気のものなのに。

ほぼ日
私、オリオリに来るのは
3回目なんですよ。
小河原
はい(笑)。
最初に来られたとき、すぐにわかりました。
ほぼ日
ごあいさつもせず失礼いたしました。
2回めにお店に来たとき、パイが売り切れで。
小河原
そうでしたね、お電話くだされば
予約もできますので、次はご連絡ください。
ほぼ日
はい、次からは前もって予約します。
今日はオリオリ店主の小河原明子さんに
お話をうかがいに来たのですが、
立ったままでいいでしょうか? 
このまま立っているほうがいいですよね。
小河原
そうですね、はい。
座ってしまうとちょっと‥‥。
ほぼ日
座るとふたりとも、
すごく低くなりますよね。
小河原
はい(笑)、ふだんもお店で立っているので、
お客さまとお話しするときと同じスタイルで、
ということにしましょう。
ほぼ日
よろしくお願いします。
小河原
よろしくお願いします。 
ほぼ日
ここオリオリさんは、
パイの専門店とお聞きしました。
つまり、パイ以外のおかしはないんですね?
小河原
はい、ありません。
ほぼ日
なぜパイのお店を開くことに? 
小河原
もともと私は会社づとめをしていました。
いろんな都道府県に
出張することが多い仕事だったんです。
出張先で、ご当地もののおみやげや
人気のお菓子をさがして
買ってかえるのがたのしみでした。
そのとき、ふと「パイ」が
気になったんです。
ほぼ日
おみやげのパイが。
小河原
駅や空港のおみやげ屋さんをのぞくと、
必ずといっていいほど、ご当地のパイがあります。
たいていはご当地の名産品とパイを
組み合わせたものです。
ほぼ日
たしかによく見ますね。
小河原
そんなふうに、パイは手軽で、
みんなが好きで、メジャーなおかしです。
でも「おいしいパイって何かな?」と思ったとき、
ちょっとわからなくなりました。
ほぼ日
糸井ともちょうどそういう話になりました。
パイはおいしいけれども、
「どれでもおいしい」というおかしですよね。
当時、小河原さんは、
製菓関係の会社におつとめだったんですか。
小河原
いいえ、ぜんぜん違う、ふつうの‥‥。
ほぼ日
じゃあ、ほんとうにご当地おみやげがきっかけで?
小河原
そうなんです。
結婚を機に退職して、
気になっていたパイの研究をはじめました。
おかしづくりについては、
ある方に先生になっていただき、教わりました。
ほぼ日
いまのパイができあがるまで、
どのくらいの時間がかかったんですか? 
小河原
そのことだけに集中していたわけではないのですが、
だいたい5年ほどでしょうか。
ほぼ日
会社を辞めて5年間、パイの味を追求した‥‥。
でも、めざしたい味の見本や、
お手本になるパイというのはなかったんですよね? 
小河原
そうですね、ない状態でした。
ほぼ日
到達点がない、味わったことがないものを
つくろうとすることって、
出口がないトンネルのような感じですね。
小河原
一気に理想のイメージに近づこうとすれば、
苦しかったと思います。
でも、自分で少しずつ試作して、
ほかのおいしいパイもいろいろ試食して、
「もう少しこういう食感にしたら
自分がつくりたいパイになるんじゃないか」
と、一歩ずつ考えました。
ほぼ日
味とか、食感とか、香りとか‥‥。
小河原
もう、いろいろです。
たとえば食べやすさもそのひとつです。
パイって口の中の水分を取られがちで、
ポロポロとこぼれてしまいます。
「食べやすい」と思えるパイを
どうしたら表現できるだろうという観点でも、
試作を重ねていきました。
小麦粉もいろんな種類があります。
どの粉をどの配合で使うか。
バターとの相性もありますから、
組み合わせだけでも何十通りと試しました。
「もう少し軽いほうがいい」
「もう少し食感がしっかりしたほうがいい」
ひとつひとつノートに配合を記録していきました。
ほぼ日
つくり手からひと言でいえば、
オリオリのパイは、
何が違うのでしょうか。
小河原
私は、食感だと思ってます。
ほぼ日
食感ですか。
小河原
みなさんがこれまで
召しあがってこられたパイはおそらく、
サクサクでホロホロする食感だと思います。
でも、うちのパイは一枚一枚の層が
すごくしっかりしてるんです。
ほぼ日
あ、わかります。
なんかこう、層の一枚が長いというか、
つながっているというか。
小河原
そうです。
歯ごたえを感じられるようにしています。
オリオリのパイの特徴は、
第一にその食感だと思います。
ほぼ日
ときどきこう、食べはじめたらぜんぶがくずれて
食べたのかどうかよくわからなくなるパイも
ありますね。
小河原
はい、ありますね(笑)。
そういうタイプではなく、
しっかり食べ応えがある、でも固いわけではない、
というパイをめざしました。
つまり、パイをふくらませないようにしてるんです。
ほぼ日
ふくらんでないんですか? 
でも軽い感じがしますし、固くはないです。
小河原
はい、固くありません。
薄くて軽いのに、食べてみると中にちゃんと
層がたくさん入っている状態。
層をぎゅっと詰まらせることによって、
おいしさの密度をあげています。
ほぼ日
おいしいものの正体って、すごく複合的で、
とらえどころがないですね。
だから人にすすめるときにも
「おいしいから食べてみて」
としか言えませんが‥‥。
小河原
私は、おいしさのかなり大きな部分を、
食感が占めていると思っています。
食べた瞬間の、口や喉の感覚です。
あとは、風味。
鼻に抜けたときの香り、
いわゆる「あとあじ」です。
(明日につづきます)
2020-04-11-SAT