「これだよ！」のおかしを見つけました。オリオリのパイ、特別販売します。

ほぼ日

食感については、固さ以外に
工夫されていることはありますか？

小河原

じつはこのパイは、
表面のキャラメリゼのほどよい固さと、
中の層のパリッとした軽さの、
二重の食感にしています。
異なる食感を噛んだ瞬間に感じられるので、
そのたのしさがおいしさになります。

ほぼ日

食べるときに、ふたつの食感が‥‥。

小河原

クッキーやスポンジの中に
くるみがちょっと入ってること、あるでしょう？
それも、食べるおもしろさになります。
おもしろさはおいしさにつながるんですよ。

ほぼ日

人間はおもしろいことが好きですね。

小河原

おそらく変化が好きなんです。
舌で感じる変化は、
特に好きなんだと思います。

ほぼ日

なるほど。

小河原

口の中はすごく敏感です。
人の体でおそらく
最も敏感なのではないでしょうか。
ごはんの中に細い糸くずが入っているだけで、
みなさんがわかります。
そのくらい感度が高いので、
食感を変えるとうれしいんですよ。

ほぼ日

小河原さんは、パイのほかに、
どんなおかしが好きですか？

小河原

そうですね‥‥あ、シフォンケーキが好きです。

ほぼ日

食感でいえば、パイと対極ですね。

小河原

そうですね（笑）、ふわふわで。
でも、シフォンケーキとパイは、
風味を大切にしているということが
共通してるかな？　

ほぼ日

ほんとだ、そうですね。
両方とも、おかしの中に含まれている
風がおいしいですよね。
ああ、だから風味というのか。

小河原

ああ、いいですね。
「風がおいしい」って言葉。

ほぼ日

パイはおいしい風をたくさんはらんでいるから、
ポテンシャルがあるおかしですね。

小河原

でも、手づくりなので、
工業製品のように均一にはできないんですよ。

ほぼ日

そうなんですか。

小河原

はい。不均一なおいしさも、
このパイの特徴だと思います。

ほぼ日

そうか、季節によって
材料の味も変わるし、
調理中の温度も違いますよね。

小河原

いちばん影響があるのは湿度です。

ほぼ日

そうか、温度はコントロールできるけど。

小河原

そうなんです、湿度はなかなか。
湿度と温度によって生地の状態が変わります。
それをいつも同じ状態に持っていくのが
とても難しいのです。
水分量、寝かせる時間、
いつも生地の機嫌をそこねないようにつくります。

ほぼ日

そういえば、パイの材料って何ですか。

小河原

小麦粉とバターと砂糖です。
砂糖はしあげに使うだけで、
生地には使いません。
砂糖は単調な甘さにならないように
数種類ブレンドして使っています。

ほぼ日

生地に砂糖は練り込まれてないんですか？　

小河原

そうなんです。しあげだけ。

ほぼ日

そうなんですか。卵は？

小河原

当店は、卵は使わないです。

ほぼ日

そんなに少ない原料で。
それが、こうなるんですか。

小河原

そうなんです。
パイの袋の裏を見てみてください。
原材料が書かれています。
「小麦粉、バター、砂糖、酢、食塩」
酢は、グルテンの形成を抑えるのに
ひと役買います。

ほぼ日

シンプルですね。
それがどうしてこんな層になるんですか？　

小河原

生地を折っているからです。

ほぼ日

物理的に折ってるんですか。

小河原

パイが層になるのは、
「小麦粉」と「バター」の層ができるからです。
生地を折っていくと、小麦粉とバターの重なりが
何百層にもなります。
オーブンで焼くと、バターが溶けだします。
そこが空洞になるんです。

ほぼ日

バターはどこに行くんですか？

小河原

バターは生地の中にしみ込んでいきます。
ですから、層として残るのは、
溶けたバターがしみ込んだ小麦粉です。

ほぼ日

バターがいたところが空洞になって、
バターは小麦にしみ込む。そりゃ、おいしいや。

小河原

バターって動くんです。
焼きたてのパイもおいしいですが、
時間が経つとバターが自分の居場所を見つけて
キュッと固まります。
バターの風味をしっかり楽しめるのはそこから。
よりおいしさが増します。
パウンドケーキも２日目以降のほうが
おいしいと言われたりしますよね。
焼きたてはあたたかくて
風味があっていいのですが、
バターが安定してないんです。