HOBONIKKAN ITOI SHINBUN

ほぼ日のおかし 私のためのおいしいもの

「これだよ!」のおかしを見つけました。オリオリのパイ、特別販売します。

おかしは姿も味も魅力的です。
「あれを食べたいな、さぁ食べるぞ、ああ~」
という気持ちの高まりが、夢とたのしみを増やします。
糸井重里やほぼ日乗組員が出会ったおいしいおかしを
ひとつずつ紹介していくこと、
これまでずっとやりたかったのです。
自分だけで食べてもよし、
誰かとの時間をおかしで花開かせてもよし。
魅力をみなさんと分かちあいながら、
ほぼ日からおかしをお届けしていきます。
賞味期限や生産数がそれぞれ異なるので
販売のたびに形式が変わりますが、
どうぞその都度確認しながら、おたのしみください。
まずは、パイです!
イラスト : 丸山素直

小河原明子さんのはなし

ほっぺにパイをくっつけて。

ほぼ日
粉の配合、バターとの相性、何層にするか、
おいしいパイの試作パターンは、
天文学的数字になったでしょうね。
小河原
すべてレシピノートに書いて検証しました。
ほぼ日
細かい性格でないと‥‥。
途中で嫌になったりしなかったんですか? 
小河原
それはなかったです。
自分はすでに決心していたので、大変さよりも
「絶対においしいパイをつくってやるぞ」
という気持ちのほうが上回っていました。
特に折り方については、
層になるおかしはパイだけだから
ぜったいに引かないぞ、と
思ってのぞんでいました。
オリオリのロゴは、
パイの層をデザインしています。
よく見ていただくと、若干太さが違うでしょう? 
手づくりならではのばらつきを表現したんです。
オレンジが小麦粉、ブルーがバター、
焦げ茶色がキャラメリゼをイメージした
ロゴマークになっています。
ほぼ日
手づくりということは、
生地をまぜるミキシングマシーンなども
使わないんですか?
小河原
使いません。
生地をまとめるところは特に、
手でやらないと細かい調整ができないのです。
ただし、生地を延ばすところだけは、
機械の力を使って圧延しています。
ほぼ日
手の感覚で判断しなくてはならないんですね。
こういうパイを量産しようとするなら、
機械化できないから
職人さんを増やすしかないですね。
小河原
そうなんですよ。
我ながら大変なことに手を出してしまったな、と
思ってはいます。
でも、手作業ならではの食感を
お客さまが気に入ってくださるので、
これはよろこんでつくらないといけない、
とも思います。
ほぼ日
こういうパイ菓子って、そもそも
リーフパイのイメージがあるんですが、
オリオリのパイが四角いことに、
何か理由はありますか?
小河原
はい。まずは左右の幅を
「ひと口」になるようにしています。
そして、生地のロス、いわゆる「みみ」が
極力出ないようにつくっています。
このパイの食感を出すために
「一番生地」しか使えないので。
ほぼ日
「一番生地」とは何でしょうか。
小河原
「一番生地」は、小麦粉とバターを合わせて
できあがった最初の生地のこと。
そこからリーフ型にするなら、
型で抜いてパイ生地を取っていきます。
すると、抜き終わった端っこの、
のこりが出ます。
ほぼ日
その、のこりは? 
小河原
それをまた重ねて伸ばして、
1~2回折ったものを「二番生地」として
材料に使うことがあります。
例えば、アップルパイの底面になっている生地は、
二番生地であることも多いです。
でもうちは、生地を主役に
食べていただくおかしなので、
一番生地しか使いません。
ほぼ日
そうですね、基本的に
フィリングはないわけですから。
パイだけで勝負。
小河原
二番生地となると、
層がつぶれてしまって固くなり、
食感がぜんぜん違ってきます。
ほぼ日
だからこその、この四角。
小河原
そうです。
四角でカットすると、
生地の余りがほとんど出ませんから。
ほぼ日
小河原さんは、毎日パイをこねて折って焼いて、
飽きないんですか。
小河原
飽きたりはしないです(笑)。
なんていうんですかね、
納得のいくものができると、
すごく気持ちがいいんです。
ほぼ日
ああ。
小河原
お店を開いて5年になりますが、
これだけやってても、
思い通りにならない日があります。
なので、いい生地ができたときは、
「よっしゃ!」って思うんですよ。
だから、飽きるというよりはもう、
毎日が勝負です。
ほぼ日
パイの仕事をなさっていることの、
いちばんの喜びは、そこですか? 
小河原
いい生地ができたときもうれしいですが、
やっぱりいちばんは、お客さまの声です。
2度めにご来店くださった方が
「こないだ買ったらすごくおいしかった」
とおっしゃるときや‥‥、
あ、そうそう、私がほんとうに
うれしかったのは。
ほぼ日
何でしょう。
小河原
たぶん東京に観光でいらっしゃった方で、
東京ならではのおみやげを
さがしておられたんでしょうね。
ここのパイは見たこともないし、
聞いたこともないしで、
「ちょっと1枚ためしに買ってみるわ」と
お買い求めになったお客さまがいらっしゃいました。
ほぼ日
ふらりと来られて。
小河原
レジでお会計して、外に出られて、
おそらくそのまま1枚、
召し上がったんでしょう。
ほぼ日
味見がてら、歩きながら。
小河原
すると、そのお客さまが、すごい勢いで
店に戻ってこられました。
口の端にパイのかけらがくっついてて、
「これ、買います!」と、
たくさん買ってくださいました。
そのときは、ほんとうにうれしかったです。
ほぼ日
ほっぺにかけらをくっつけたまま、ですか。
小河原
衝撃的にうれしかったです。
あの気持ちは忘れられません。
ほぼ日
オリオリのパイは、自由が丘のこのお店でも
売り切れになるほどの人気ですが、
なぜ今回、ほぼ日で扱うことを
許してくださったのですか? 
小河原
糸井さんやほぼ日のみなさんが
おいしいと思ってくださったことは
もちろんうれしかったのですが‥‥、
夫が「ほぼ日」に入ったのは、
じつは私が長年の「ほぼ日」読者であったことも
関係していると思います。
ほぼ日のお客さまは、
わりとこう、ものをきびしく
見てらっしゃる方が多い印象があります。
ほぼ日
「生活のたのしみ展」などで
お客さまにお会いするときに思うのですが、
いろんなものごとについて興味をお持ちで、
気にいったものを大切にする方が多いです。
小河原
そうですよね。
あまり「はやりすたり」は問題にせず、
きちんと見極める方が多いと感じています。
うちのパイは華やかな、
「映える」おかしではありません。
でも、食べるとおいしい。
オリオリのパイのよさを
きちんとわかってくださる方に届くことは、
とてもうれしいのです。
ほぼ日
私も、仕事をしていてうれしいことのひとつは、
「わかってくれる人がわかってくれた」ときの
喜びです。
小河原
そうですよね。
ですので、キラキラした生ケーキは
パティスリーにお任せして、
うちはパイに特化して、
素材のおいしさを味わっていただけたらと思います。
(小河原明子さんのおはなし、おしまいです。)
2020-04-13-MON