大橋 | 『黄昏』は本当に、 本当に面白かったですから。 |
糸井 | そういうメールをたくさんいただきました。 |
大橋 | やっぱりねぇ。 |
糸井 | つまり、年取ってからそんなふうに、 あんなことしゃべりながら、 ちゃんと旅行するような友だちがほしいとか、 でもぼくと伸坊の場合は、 傍で会話を聞いてるんですよ。 つまり、2人でしゃべって、 まあしょうがないこと言ってますけど、 うちのメンバー何人かが傍で聞いてるんです。 |
大橋 | 笑うとか。 |
糸井 | 笑ってるから、じゃあ、 ここは無邪気に行っちゃうとか。 ぼくにとって最初のお客さんが伸坊で、 そのお客さんの後ろにうちの子たちがいて、 伸坊も最初のお客さんがぼくでっていう、 おままごとの延長線かもしれないです。 お客さまを増やしてるんです。 |
大橋 | ああ、そうかもしれない。 |
糸井 | ゲスト付きおままごと。 |
大橋 | ああ、なるほど。 |
糸井 | そう思えばおかしくないかもしれないです。 で、旅先だからネタはあるしっていう。 |
大橋 | やっぱりあれは、旅に行かなきゃダメ? |
糸井 | そんなことはないです。 東京編みたいなのも。 |
大橋 | ありましたね。 |
糸井 | ありますし、でも、 雰囲気変えたほうがウキウキするんです。 |
大橋 | 私が読んですごく好きだったのは、 どこか夜景が見えるところで おふたりがワハハって、 笑ってらっしゃる写真があって、 何か、すごい羨ましかったです、それは。 |
糸井 | 別に、ただワハハなんですけどねぇ。 でもそういう場面は、 たしかにそんなにはないですよね。 |
大橋 | そうですね、なかなか大人になって。 |
糸井 | だろうね。 ある種の貧しさとかが 育てたものかもしれないですよね。 |
大橋 | そうかぁ、なるほど。 |
糸井 | あの伸坊とか、伸坊の周囲にいる人と ぼくとの感じっていうのは、 ある種の貧しさがありますよね、 無名で貧しくてっていうのは、 毛沢東じゃないですけど、 すばらしい財産ですよね。 大橋さんは、だから、 そこの財産だけ持ってないんだ。 |
大橋 | 持ってないですね。 |
糸井 | それはそれで、それでなければ 味わえないものを味わっているし、 おもしろいところですね。 それ取替えっこできないですね。 |
大橋 | そこのところで誰かと共有して 一緒にっていうことが、私には、 今お話聞いててないなぁと、ほんとに。 もちろん、私は私で この年までああやって 仕事をたくさんさせてもらってきたから、 よかったことに。 |
糸井 | 仲間はいるんですよね、結局ね。 |
大橋 | 仲間はいないです。 |
糸井 | でも、そのつど仕事をひとりでやってる仕事を 循環させてくれる人たちっていうのは、 たとえば雑誌編集部にいて、 仕事したことさえあるわけですから。 |
大橋 | ええ、そうです。 |
糸井 | だから、そうやって支えてくれる 人たちっていうのは、いつも。 |
大橋 | いつもいました。 |
糸井 | キノコの林みたいに、いっぱいいますよね。 |
大橋 | そう、みんな年上の、 基本的に男の方でしたけど。 |
糸井 | あ、そうですか。 |
大橋 | そうです。 |
糸井 | そのへんもおもしろいですね。 妹だったんだ。 |
大橋 | 妹というより、何か‥‥。 |
糸井 | 娘? |
大橋 | ううん、とにかく、 それぐらいレベルが違う方に、 いちばん最初はお世話になってましたので。 いつでもそういう人たちだったので、 よけいに私は『黄昏』を まあ何ていいんだろうと思ったり。 |
糸井 | 丁寧語を使わないでいい友だちでね。 丁寧語を使わないけど、 ある種の敬意は払ってないと。 ただの悪ガキ友だちだと 失礼になる寸前までくんずほぐれつしちゃうけど 伸坊と会ってる時はやっぱりぼくは、 伸坊に失礼にならないようにって思ってますよ。 よく言うことなんですけど、 いろんな悪いこと、いいことがあるんだけど、 伸坊に「糸井さん、あれはまずいな」って言われたら、 改めようと思ってるんですよ。 改めない仲のいい友だちもいるんです。 何でも味方になってくれる いいやつもいるんです。 でも、伸坊はどっかのとこで、 それはやっちゃいけないっていうことを 言いそうなやつなんですよ。 それがぼくの生き方の 唯一のルールにかかわるものなんですよね。 何でも許す人なんだけど、 「あれはダメだな」って 言いそうなやつなんですよ。 |
大橋 | ああ、そうなんですね。 |
糸井 | それはありがたいことですよね。 大橋さんは、 年上の人が育てたっていう意味では、 ほんとにエリートの生き方をしちゃったんですね。 |
大橋 | よくわかんないです。 |
糸井 | でも結果的にそうでしょう。 なんだろう、この間、ぼく今、ひとりで、 「ひとり前川清ブーム」なんですけど(笑)。 |
大橋 | 何ですか、それは。 |
糸井 | クールファイブっていう、 あそこの前川清っていう人の歌を 急にまた自分の中ですごいって思い始めて、 聞きまくってるんです。 |
大橋 | えーっ。 |
糸井 | すごいんですよ。 それで思ったことの一つで、 この前川清っていう若いやつを見つけた時に、 あのグループは「内山田洋とクールファイブ」 っていうんですけど、 内山田洋ってバンドリーダーの名前ですよね。 で、内山田洋っていう人は 若き前川清を見つけた時に、 これで一生食えるって 思ったんじゃないかなと思ったんですよ。 つまり、それほどもう群を抜いた何かを 持ってると思うんですね、歌手として。 こいつをうちのグループに入れて、 前に出して歌わして、行くぞーって思った時に、 彼の気持ちがちょっとわかるんですね。 そんな歌手を見つけたら、 もうオレだってやるだろうって。 そういう人いるんだよなっていう。 前川清もそうなんですよ。 で、たぶん大橋さんは、 マガジンハウスの 今はおじいさんになっちゃった人たちにしてみれば、 前川清だったんだな(笑)。 こいつ、なに注文しても、なに叩いても、 なにおだてても、絶対歌ってみせる、みたいな。 |
大橋 | え、それはなかったです、私。 |
糸井 | もっと弱々しく見せてたんでしょうけど、 でも前川清だって、野球部ですからね、単なる。 歌習ってた人じゃないですからね。 |
大橋 | そうなんですか? それであんなに? |
糸井 | そうなんです。 本人はエルビス・プレスリーの ものまねしてたんです。 ちょっと気配あるでしょう。 |
大橋 | ああ、ちょっと気配ありますね。 |
糸井 | でも、どの歌でも今改めて聞くと、 この人にしか歌えないっていう、 ものすごいものを持ってる。 |
大橋 | そうですか、もういっぺん聴いてみよう。 |
糸井 | たぶん大橋さんはそのへん、 あんまり接しないで来たでしょうから、 アレルギーもあるかもしれませんが(笑)。 大音量でイヤホンで聴くと、すごいです。 |
大橋 | あ、そう。大音量ね。 |
糸井 | 大音量で。そうすると、 「ワワワワー」っていうだけの人が、 「オレもやっぱり職業だからちゃんとやんなきゃ」 みたいな感じとか、 歌作った人たちが、 前川清が歌うんだったら、 ここまで途切れさせても大丈夫だとか、 集団の仕事の面白さがね、今だとわかる。 |
大橋 | へぇーっ。 |
糸井 | ですから、その『平凡パンチ』の 表紙でも同じように、 大橋歩っていう前川清がいて、 ワワワワーっていうのが聞こえるんです。 これで表紙はずっと行けるぞって 思ってた人たちの気持ちみたいなものが、 あるんだと思うんですよね。 イケるやつだよ、あいつは、みたいな。 ご本人はただのちいさい 女の子だったんでしょうが。 |
大橋 | そう、何か、はい(笑)。 |
糸井 | お話とかもしてたんですか、その方々とはよく。 |
大橋 | 偉い方とですか。 いやもう、怖くて。 緊張して。 私、緊張症がありますから、 お話してくださるんですけれども、 たぶん敬語もメチャクチャでしたし、 あまり緊張して自分に敬語使って、 その相手の偉い方にもう友だちみたいな、 あっ、まずいと思いながら、 そういう繰り返しでしたけれど。 だから、それでもずうっと最後まで。 いちばん最初に育ててくださった方は、 私が勝手に『平凡パンチ』を やめるって言ったんですが、それでも、 ずーっといろいろとお世話になりましたね。 やっぱりそういう方に出会えたっていうことが、 ここまで仕事できたことだと思いますしね。 |
(つづきます) |