大橋 | でも糸井さんの仕事柄、 いろんな方と、もちろんクライアントの方とか、 あと代理店の方だとか、 そういうところで男性として ずっと仕事をしてこられたわけでしょう。 だから、個人プレーというような感じじゃなくて、 何かひとつの、そういうひとつのグループというか、 組織の中の──組織とは言わないかもしれないけども。 |
糸井 | チームですね。 |
大橋 | チームの中でやってこられましたよね。 でも、それってやっぱり女の人には あんまり向かないような気もするんです。 |
糸井 | ひょっとしたらそうかもしれないですね。 何だろう、何でしょうねえ。 |
大橋 | 不思議ですよね。 |
糸井 | チームで、サブでいるっていう役割もあるし、 それからワン・オブ・ゼムでいる っていう役割もあるし、 リーダーをやらなきゃならない役割もあるし、 リーダーの背景にある役割もあるし、 いろいろだと思うんですね。 そのつど要求されているってことは いろいろあるんですけど、 広告の仕事やってたうちは スタープレーヤーの役が多かったんです。 だから、単独というよりは 4番バッターをやっている。 それって、自尊心は満足できるかもしれないけど、 どこかで無理なんですよ。 必ずホームラン打つやつなんかいないし。 |
大橋 | そうか。 |
糸井 | で、いい2塁打って やっぱりカッコいいんですよね。 それとか、なんだろうな、 アウトになっても満足っていうのも 本当はあるんですよね。 いっぱいあるんですよ。 で、おままごととか、 遊びとしてのゲームだったら いろんな楽しさがあるんだけど、 要求されるものが勝つことだけ、 ってなっていくと、つまんないんですよ。 今、ホームラン打てるってわかってる時に それをやめて、デッドボールで塁に出てほしい、 って言われたら、 やっぱり動機が失われるんですよね。 時代もそうなっちゃったんですよ。 確実に一塁に出てくれたら、 もうそれで押し出しで勝ちますから、みたいな。 それはやっぱり自分の本当の意味での 寿命が短くなると思って、 そこは「一抜けた」ってなったんです。 さて自分がリーダーのチームを 作るっていう時には、 男の城って本当になったかもしれない。 リーダーになったものは、 全員に嫌われてもいいって覚悟が必要なんですよね。 |
大橋 | ああ、はい。 |
糸井 | 当然、好かれて仲良くやりたいんですけど、 全員に嫌われてもいいっていう覚悟を ちょっとでも持ってないと。 |
大橋 | 厳しい。 |
糸井 | みんなはここでいいって思ってたりするのを、 それじゃダメなんだな、っていう時には、 全員が反対してでも、 「ダメなんだよ」って正直に言わなきゃだめ。 |
大橋 | そうですね。 |
糸井 | だから、さっきの大橋さんと デザイナーがケンカしてる時の プロデューサーの役ですよね。それは 「大橋さんにもオレは嫌われた、 デザイナーにも嫌われた。 でも、何を守ってるか知らないけど、 ここは両方に嫌われても 言わなきゃいけないところなんだよ」 っていうのがあって、 それはそんなにしょっちゅう あるわけじゃないんだけど、 覚悟としてはやんなきゃいけなくて。 それはね、しゃべりながら思ったんですが、 男の仕事だけじゃないかもしれない。 女にもそういうのはある。 |
大橋 | ありますか。 |
糸井 | たとえば、 男の子を育てられてるじゃないですか。 母親って。 |
大橋 | あれは難しいですよ。 うちの子ども、男ですけれど、 わからないですもの。 女の子のほうがたぶん、 わかるところがあって、 想像もできたりするんですけど、 皆目わかりませんで、 あまり大変だったから 「神様」って言っちゃいましたけど。 「助けてください」みたいな。 |
糸井 | ぼくらも、きっと「神様」っていうのは 無意識であるんだろうと思うんですけど。 最後、間違ったらどうするんですか、 っていうのは、 必ずリーダーシップにおいては必要なんですが、 間違ったらゴメンなんですよね。 で「神様」なんですよ。 船が転覆したらどうするんですか、 っていうのはありますね、単純に。 転覆しても何とかするっていうのは、 転覆してみなきゃわかんないでしょう? みたいな。 そこは女もやってるような気がするんです。 つまり、単純にいえば 夫に先立たれたお母さんっていうのは、 転覆したじゃないですか。 |
大橋 | ああ、それも転覆したことになるわけね。 |
糸井 | で、男の子は一銭もなくたって 「腹減ったぁ」って言いますよね。 ときに、「減ってない!」 なんて言わなきゃなんないかもしれないし(笑)、 わかんないけどね。いろんな答えがあるんだけど、 それは反対意見であっても従わせなきゃいけない。 それは、ひとりのままごととは違うけども、 実はみんなもほんとは持ってるかなって、 しゃべってて思ったんです。 でも、チームになってからのほうが、 ぼくは実はたのしいです。 ひとり遊び大好きだったはずなのに。 |
大橋 | そうですよね、今はね。 |
糸井 | なんだろう‥‥他人が面白くなった。 |
大橋 | あ、そうですか。 私はまだそこまでいってない。 |
糸井 | それはタイプとか、 やってることの種類とかなのかもしれないですね。 他人がね、自分の思ってたことと 違うおもしろいことを考えたりするのが、 やっぱり愉快で。 それが内部にいるっていうのは もっとたのしいんですね。 大橋さんとうちのスタッフの子が、 一緒に何か打ち合わせとかしてて、 ああです、こうですっていう時、 もしかしたらカケラでも、 「あ、それはいいかも」っていうことが あったとしますね。 それを中の子が言って、 育ってくのが見えるんですね。 それはやっぱりね、たのしいんですよ。 いい失敗とかしそうな時に止めないでいたら、 ちゃんといい失敗をしてくれたりすると、 たのしいんですよ。 |
大橋 | そんなもんなんですか。 |
糸井 | たのしいです。 |
大橋 | そうですよね。 糸井さんはまったくほんとに ひとりで仕事してらしたの? |
糸井 | そうです、まったくひとり。 大橋さんが言ってたことは、 オレもそうですよっていう気持ちがある。 ただ、よそのチームに ヤドリギみたいに寄生して 仕事してることもいっぱいありましたから。 たとえば代理店の中のチームに ぼくがひとりだけ入ってるっていうことは 山ほどありました。 そうすると、やっぱり人が動いてくれたり、 ヒントをくれたり、 逆らってくれたりっていうのは ぜんぶ、やっぱりそれなりの たのしさだったりするんです。 |
大橋 | そうですか。 ちょっと話違うかもしれないんですけど、 『黄昏』のお話の中で、 南伸坊さんのところの『ガロ』の話が出てきます。 あのところで、すごく羨ましかった、 湯村輝彦さんもいらして、 ちょっと違うかもしれないけれども、 同世代の人たちとおもしろいことをやる、 っていう時代がおありだったんですよね。 あれ読んだらものすごく羨ましかったんですが、 私にはないですね。 |
糸井 | そうか。おままごと仲間がいない? |
大橋 | いないです。自分がお父さんになって、 お母さんになって、子どもになってって やってしまうので。 ああいう場って女性も入ってきました? |
糸井 | いないですね。 |
大橋 | いないでしょう。 |
糸井 | もう本当にホモなものです。 |
大橋 | そうですか。 あれは羨ましかった、読んでて。 |
糸井 | 男の子同士の、なんていうんだろうな、 好きでしょうがないんですよね、その友だちがね。 で、なんか毎日会うのが もう当たり前のようにたのしいし、 大学時代の友だちとか、 高校時代の友だちとかと違う、 仕事で会った友だちっていうのは 戦友みたいなもんで。 |
大橋 | なるほど、戦友ね。 私、いいなぁと思うの。 |
糸井 | そうかぁ。それはもしかしたら大橋さんが、 早くからいっちょ前になっちゃった せいもあるかもね。 もっと修行時代があったら。 |
大橋 | 修行‥‥なかったですね。 |
糸井 | 愚痴を言ってる相手とか、 「私ダメかも」なんつってて、 飲むと「なによ」なんて慰めてる時代とか、 食えないとか。 |
大橋 | ああ、食えてました。 |
糸井 | ねえ(笑)。 だから、それはそれで、 そうでなければ味わえない楽しさが、 貴族でなければ味わえない楽しさみたいに あったんだと思うんですけど、 ああいう、友だちと、お金もないし、 ゴロゴロしてるみたいな、 ああいう関係っていうのは、 ぼくもよかったな。 うらやまれてもしょうがないですね。 あれたのしいですもん。 なんなんでしょうね。 |
大橋 | 不思議ですね。 |
糸井 | 何人もいないですよ、でも。 |
大橋 | いませんか。やっぱり。 |
糸井 | いろんな仕事してますし、 仲のいい人っていうのも── 仲はいいっていう言い方ではできる人いますけど、 会ってもうハナからくんずほぐれつできるっていう 会話ができるのは、やっぱり伸坊とは特別ですね。 で、いちばん会ってる人かっていったら、 そんなこともないですよ。 (つづきます) |