|
美術館の人 | 皆さん、お待たせいたしました。 これより大橋歩展アーティストトークを 始めたいと思います。 お話しいただきますのは 大橋歩さんと糸井重里さんになります。 どうぞよろしくお願いいたします。 ではさっそくおふたりに お話をお預けしたいと思います。 どうぞ、よろしくお願いいたします。 |
お客さん | (拍手) |
大橋 | (すこし緊張して) こういうの苦手なんですけど──、 よろしくお願いします。 |
糸井 | (にこにこ)よろしくお願いします。 |
お客さん | (拍手、終わって、ふたりに注目) |
糸井 | いつもそうなんですけど、 大橋さんとお会いするとき、 「なにを話そうか」って 直前まで言ってるわりには、 こうして登壇すると、 なんとなく時間たっぷりにね、 過ごせるんですよね。 |
大橋 | そうですね。 |
糸井 | もし、ぼくが話に詰まっちゃったら、 会場の方も、きっと訊きたいこと、 いっぱいあるでしょうから、 「こんなこと聞きたいな」って、 ぼくに言ってくださいね。 |
お客さん | わぁー(ざわざわ)。 |
糸井 | まずは、なんとなく、 「こんなこと話そうかな」と 思ってたところから始めます。 改めて、展覧会場を拝見して、 大橋さんがお仕事を ずーっとしてきた人だっていうことを、 今頃になって痛切に感じるんです。 自分も長いこと仕事をしてきていますが、 「長く仕事をする」っていうことについて、 ほんとはなかなかできることじゃないんだよね、 っていう、自慢話、しようかなと思って。 単純な話なんですけど、 「長くやる」ってすごく大変でしたよね。 |
大橋 | やっぱり、大変でしたね。 |
糸井 | デビューのお話は前にもお聞きしました けれども、 「運よく」っていうイメージを 大橋さんはご自分ではお持ちですよね。 ──そこで、終っていたかも しれないじゃないですか。 |
大橋 | はい、そうですね。 |
糸井 | 3年経ったら消えてる人なんて 山ほどいるなかで、 大橋さんはどうして終らなかったんでしょう。 その頃、ご自分では 「ずーっとやっていく」って思っていましたか。 |
大橋 | いいえ。 若かったですからね、 きっとね、あんまり深く 考えなかったかもしれないですね。 最初『平凡パンチ』の専属になった時には、 いつかやめるだろうっていうのを 考えたことがなかったんですね。 たぶん私は続けるだけ 続けさせていただけるかな、 と思っていたんです。 けれども、やっぱり終わりが来るんです。 やっぱりそれは、今考えてみると、 時代‥‥ちょうど1964年からですので──。 |
糸井 | 東京オリンピックの年ですね。 |
大橋 | そうです。 それで、日本はものすごい 変わり方をしますよね。 70年になるともう 外国からいっぱい文化が入ってくる。 だからやっぱり、 わたしも、変わるべくして 変わったのかなという気もします。 ほんとうはスタンスとしては、 ずっと継続して仕事を、 ということだったと思うんですけれど、 なんか私の中で‥‥。 でも、それはその時にならないと わからなかったですね。 |
糸井 | 大橋さんが絵を描くっていう立場で ずっと続けていくんだっていうことが頭にあっても、 今の、世の中の仕事の付き合い方って、 野球の選手の話とおんなじで、 1年契約がどうだとか、 3年契約したら長いって感じるんですよね。 |
大橋 | ええ、そうですねぇ。 |
糸井 | 一つ一つの仕事にしても、 たとえば建築やってる人だったら 一つの物件が終ったら、そこで終わりますし、 長いゲージで考えるってことは もうなくなってるんですね、社会全体が。 そんなことが、仕事の仕方として みんなにとって普通になっちゃってるときに、 たし算をすると、何年やってきたんでしょう、 大橋さんは。 |
大橋 | ええと、えーと、45年から46年ぐらい。 |
糸井 | もう半世紀になってしまうわけですよね。 |
大橋 | そうです。 |
糸井 | それだけやってくるっていうこと自体が、 やっぱりすごいことだと思って。 |
大橋 | 今、思えば、そうなりますけど、 それはぜんぜんよくわからないうちに、 今まで来た、という気持ちが、 なくはないんです。 |
糸井 | 1個ずつの仕事が長いですよね、まず。 |
大橋 | いや、皆さんは短いっていいます‥‥ そうでもないのかな。 『平凡パンチ』の表紙が7年半、 「ピンクハウス」は8年ぐらいになった時に、 自分でちょっと難しくなってきて。 でも、やっぱり10年が区切りだから、 10年、させてもらったんですよ。 そして『アルネ』は7年ちょっとなんですけど。 ‥‥長いですか。 |
糸井 | この会場には若い方がたくさんいらっしゃるし、 おそらくイラストを描きたい方とか、 フリーで仕事をなさってる方とか、 たくさんいらっしゃると思うんですけど、 みんな7年続く仕事なんて 想像もできないんじゃないですかね。 |
大橋 | ああ、そういうことではね、 すごく幸せだと思います。 |
糸井 | ぼく長い付き合いをするほうなんですけども、 広告の仕事をやっていた時のことを考えると、 7年っていうのは、なかなかないですね。 |
大橋 | そうですか。私、皆さんにね、 「すぐにやめちゃう」とか言ってるんですけど、 でも糸井さんがそう言ってくださると、 なんだかすごくよかった。 |
糸井 | 展覧会場をぐるっと回ったら、 誰でもわかると思うんですけど、 やっぱりおんなじものを描いてるんじゃなくて、 変わりながら続いてる、変化してるということと、 同じリズムで続くっていうこととが、 両方成り立ってて、 「変わらないと長くはできないんだな」 っていうことを思い知りますね。 |
大橋 | そうですか。よかった。 私はすぐ変わっちゃうから、 飽きっぽいと思ってたんですけど。 そうですよねえ。 |
糸井 | 今回の大橋歩展のポスター、 『平凡パンチ』の表紙ですよね。 『平凡パンチ』の表紙って、 あんなふうな絵がずっと続いてたと、 みんな頭の中では思ってるんですね。 だけど、ぐるっと回るだけで、 どれだけ技法を変えたり、 デザインに委ねたり、 デザイナーと一緒に冒険をしたり、 自分の画材まで変えてるときがありますよね。 あれだけ変えてるっていうことは、 ぼくらは読者の側からは あんまり意識してなかったですね。 |
大橋 | そうですね、ああやって並べてもらうと 本当にはっきりしますね。 |
糸井 | 人っていうのは案外そういうもんで、 おんなじやつと会ってるようなつもりだけど、 相手はあのぐらい 変わってるのかもしれないですね。 |
大橋 | そうか、そうですね。 |
糸井 | 大橋さん、ご自分で 「飽きっぽい」と思ってらっしゃるんですか。 |
大橋 | はい。飽きっぽいと思ってるんです。 とにかくおんなじ‥‥たとえば、 昨日のつづきぐらいなら大丈夫なんですけど、 ずうっとつづきになると、 「これ、今やりたいことかな?」 って思ってしまうんですよ。 スタイルを変えないという発想でしたら、 世の中にそういう方は、 たくさんいらっしゃるんですね。 それはそれで、すごく突きつめて、 すごくいいものをなさるからいいと思うんですけど、 私は、そこへ行かないんです。 ある程度のところまでくると、 なぜか、違う描き方あるかもしれないとか。 で、他の方たちからは、 飽きっぽいっていうのか、 「変わるね」みたいなことは言われてきましたので。 草森紳一さんが、 前に仕事をさせてもらったんですけれども 私のことを「脱皮型だ」と おっしゃられたことがあったんですよ。 そうすると、なんかちょっと カッコいいんですけどね。 |
糸井 | 変化してくわけですよね。 脱いでは変化していく。 それは自分もそういうタイプだったっていう 気がするので、とてもよくわかるんですよ。 つまり、同じものとは、自分も会いたくないし、 相手側から見たら 自分はいつも同じだったら 飽きるだろうなっていう、 人の目が自分の中に ついてるような気がするんですね。 |
大橋 | ああ、わかります。 「そう思われるの嫌だ」みたいなのあります。 |
糸井 | そうですよね。 お笑いだったら、 「その話、もう聞いたよ」って言われたら おしまいですものね。 |
大橋 | ふふふ、私、会話では時々やっちゃいます。 |
糸井 | 表紙の絵のように、 ずっとシリーズでやってることで、 「だいたいこういうものが出てくるでしょうね」 っていうのが期待どおり出てきたら、 「いいね、変わらなくていいね」 って言う人もいるかもしれないけど、 毎回ぜんぶを見ている人からは、 「おまえ、ぜんぜん変わんないな」 って言われそうで、イヤですよね。 |
大橋 | それはイヤなほうなんですね、きっと。 同じような人もいるし、 それは悪いことではないんですけれど、 自分においては、続けていけなくて。 (つづきます) |
|
||