糸井 | でもそういう乱暴なさる、 ゴジラを放り込むようなデザイナーと 大橋さんを組ませた プロデューサーはすごいですね。 |
大橋 | すごいですよね。 あの7年半はもうすごく長いです、 私にとっては。 |
糸井 | いや、あの7年半って、 今でいう7年半ってすごく短いのに、 ああやってみたら、すごく長く。 |
大橋 | 長いです。 |
糸井 | いや、羨ましいくらいですね、それはねぇ。 |
大橋 | 本当に皆さんに羨ましいわ、 って言われるんですけど。 |
糸井 | そうでしょうね。そんなふうに付き合って。 で、なおかつ読者のところに ちゃんと届いてるものだったっていうのが。 画廊で展覧会してるんじゃなくて、 ものすごい部数のものが、 中のヌードだけ欲しくて買ってる人もいた雑誌で やってたわけですからね。 鍛えられますよね。 いらないっていう人にまで届けられる、 っていうふうに思ってました? |
大橋 | そうですね、 すごいことですよね。 |
糸井 | すごいことですね。 |
大橋 | だから、あれたぶん、 最盛期は100万部を超えたみたいなことを 聞きましたから。100万人の人があれを、 私の表紙は関係なく、 とりあえず買っていらっしゃったわけですから。 それはすごいことだと。 |
糸井 | 高校の部室とかにあったんですよ。 |
大橋 | そうですか。 |
糸井 | そうなんです。 で、そういう時に見えてるのは表紙なんです。 つまりヌードが見えてるわけにいかないんで、 表紙が見えてるわけだから、 この表紙で直接欲情する人がいたんですよ! |
大橋 | やっぱりそうですか、ふふふ。 |
糸井 | それ、昔の男性だったらね、 思い当たると思うんですけど、 大橋さんの表紙を観て、 そこに描いてるのは 何もいやらしいことないのに 「おっ」って笑うんです。 そういう条件反射。 今、しゃべってて思ったんだけど、 萩本欽一さんも、ビートたけしさんも、 ストリップ劇場のコントなんですよね。 で、ぜんぜんそんなもの、 見たくない人に見せてたんですよ。 |
大橋 | エ〜ッ。 |
糸井 | 「人は見たくないもんだ」 っていう前提でスタートしてるんです。 |
大橋 | そうですか、へぇ! |
糸井 | 表紙の立場っていうのは、 そこまでじゃないけど、 買いたいのは違うものかもしれないのに、 必ず表紙が付いてるっていうのは、 もしかしたら鍛えられるには いちばんの場所ですね。 表紙で100万人が買うなんてことは、 どんなにしょってる人でも言えないですものね。 |
大橋 | そうなんですよ。 だからすごくいい仕事を、 中のヌードが目的だったとしても 表紙は表紙なので、 すごくいい仕事をさせてもらったなと思いますね。 |
糸井 | そうですね、すごいですね。 |
大橋 | でも、見てると拙いんですよね。 足りないっていうか、何か。 |
糸井 | そうですか、でも、 年代順に並んでいた表紙を見ると、 この子がここまで頑張ったんだなっていう、 ちょっと親みたいな目になりません? |
大橋 | あんまりなりません。 |
糸井 | あんまりならないんですか。そうですか。 ぼくはちょっと ナルシストかもしれないですけど、 昔、頑張った形跡のあるもの見ると、 「おまえ、それなりに頑張ったな」 って思うんです。 |
大橋 | そうですか。 |
糸井 | 「今の自分にその根気ないわ」 っていう時があって。 大橋さんにはない? |
大橋 | 私はないです。 |
糸井 | ぜんぜんないですか。 |
大橋 | ぜんぜん。 むしろ、一時期は、 あれは恥かしいから、 何とか処分しなきゃと思ってましたから、 見たくもなかったです。 |
糸井 | 女って、別れられるんですねえ。 よく言う、恋人との別れの話と同じですよね。 つまり、その頃アホだった自分も含めて、 男は意外とちょっと噛みしめたりして ホロリなんてしてるのに、 女の人たちは「ああ、あの人?」みたいに。 |
大橋 | そうですね、わかります。 すごく。それですよ。 |
糸井 | もう産んじゃった子どもで、 どっか行っちゃってるんですね。 そこはね、たぶん真似できないタイプのことだ。 ぼくはどんなに女になっても、ダメだ。 |
大橋 | そうですか。 そうすると、私、 女でよかったかもしれないですね。 わりと前のことはどんどん、 まあいっか、みたいなので来ましたので。 |
糸井 | ぼくはたぶんね、 糸井事務所の社員だったらわかるんですけど、 それができるほうのタイプなんです、いちばん。 昔の作品とかもとっとかないし、 「ああ」って言っておしまいにしちゃう人なんですが、 これはよかったな、みたいのを自分で見つけて 喜んでる時があるんですよ。 『黄昏』っていう本のこと、平気で、 「ここがおもしろいですから」 って言っちゃうんですよ。 |
大橋 | いや、おもしろかったですよ。 |
糸井 | いや、ぼくは変なんです。 もう、だって、終ってるんだから。 で、本人なんですから。 何でオレが本人なのに笑ってるか。 おかしいんですよ。 でも、ちょっとぼくにそういうところがあって、 出ちゃったものに対して 他人のものと一緒に対するんですね。 よく「それいいね」っていうと、 「糸井さんが言ったんですよ」 っていうのはよくあって、 そのぐらいまで自我がないんですよね。 |
大橋 | そうなんですか! |
糸井 | さっきちょっとナルシストって言いましたけど、 逆に自我がないんですよね。 他の人のも正直にできるし、 自分のもできるんです。 で、だいたいなくてもいいやって言いながらも、 あったらたのしんじゃう、みたいな。 大橋さんのそのスッと切れちゃうっていうのは、 今日初めて聞きました。 |
大橋 | いや、何か、それって、 よくないなというふうには、 時々思うんですけど、しょうがないです。 |
糸井 | でも、中で、 今の自分にはできなくて、 その時の自分にできることって いっぱいあるじゃないですか。 |
大橋 | そうですね、ほとんどそうですね。 |
糸井 | その時に、 「偉いじゃん、おまえ」って思いませんか? |
大橋 | 思わない。 |
糸井 | うわーっ。 |
大橋 | 思わないっていうより、 しょうがないの。 あんまり、そういうふうな考えはないです。 |
糸井 | 前に同じ話したかもしれないですけど、 劇作家の野田秀樹さん、 彼が40いくつになってから、 20代の後半に書いた芝居を 自分の演出で再演して、 これは20代なんですと。 で、楽屋で面白かったみたいな話になって、 昔、書いた時の自分っていうのは 今の自分には書けないものを書いてるんだけど、 演出は今の自分のほうが絶対うまいと言って、 そういうもんなんだっていう話をしてる。 |
大橋 | ああ、なるほど。 で、ご本人も楽しまれたわけですね。 |
糸井 | そういうことですね。 で、29の時の自分がやってたことは、 今のオレにはできないけれど、 演出をして、もっと面白くしてるんです。 そういうことを、ぼく、 わりに納得できるんですね。 |
(つづきます) |