さよならアルネ   2002-2009 and beyond... Arne
Arne30-表紙

第6回 昔の自分が偉いなんて。
糸井 でもそういう乱暴なさる、
ゴジラを放り込むようなデザイナーと
大橋さんを組ませた
プロデューサーはすごいですね。
大橋 すごいですよね。
あの7年半はもうすごく長いです、
私にとっては。
糸井 いや、あの7年半って、
今でいう7年半ってすごく短いのに、
ああやってみたら、すごく長く。
大橋 長いです。
糸井 いや、羨ましいくらいですね、それはねぇ。
大橋 本当に皆さんに羨ましいわ、
って言われるんですけど。
糸井 そうでしょうね。そんなふうに付き合って。
で、なおかつ読者のところに
ちゃんと届いてるものだったっていうのが。
画廊で展覧会してるんじゃなくて、
ものすごい部数のものが、
中のヌードだけ欲しくて買ってる人もいた雑誌で
やってたわけですからね。
鍛えられますよね。
いらないっていう人にまで届けられる、
っていうふうに思ってました?
大橋 そうですね、
すごいことですよね。
糸井 すごいことですね。
大橋 だから、あれたぶん、
最盛期は100万部を超えたみたいなことを
聞きましたから。100万人の人があれを、
私の表紙は関係なく、
とりあえず買っていらっしゃったわけですから。
それはすごいことだと。
糸井 高校の部室とかにあったんですよ。
大橋 そうですか。
糸井 そうなんです。
で、そういう時に見えてるのは表紙なんです。
つまりヌードが見えてるわけにいかないんで、
表紙が見えてるわけだから、
この表紙で直接欲情する人がいたんですよ!
大橋 やっぱりそうですか、ふふふ。
糸井 それ、昔の男性だったらね、
思い当たると思うんですけど、
大橋さんの表紙を観て、
そこに描いてるのは
何もいやらしいことないのに
「おっ」って笑うんです。
そういう条件反射。
今、しゃべってて思ったんだけど、
萩本欽一さんも、ビートたけしさんも、
ストリップ劇場のコントなんですよね。
で、ぜんぜんそんなもの、
見たくない人に見せてたんですよ。
大橋 エ〜ッ。
糸井 「人は見たくないもんだ」
っていう前提でスタートしてるんです。
大橋 そうですか、へぇ!
糸井 表紙の立場っていうのは、
そこまでじゃないけど、
買いたいのは違うものかもしれないのに、
必ず表紙が付いてるっていうのは、
もしかしたら鍛えられるには
いちばんの場所ですね。
表紙で100万人が買うなんてことは、
どんなにしょってる人でも言えないですものね。
大橋 そうなんですよ。
だからすごくいい仕事を、
中のヌードが目的だったとしても
表紙は表紙なので、
すごくいい仕事をさせてもらったなと思いますね。
糸井 そうですね、すごいですね。
大橋 でも、見てると拙いんですよね。
足りないっていうか、何か。
糸井 そうですか、でも、
年代順に並んでいた表紙を見ると、
この子がここまで頑張ったんだなっていう、
ちょっと親みたいな目になりません?
大橋 あんまりなりません。
糸井 あんまりならないんですか。そうですか。
ぼくはちょっと
ナルシストかもしれないですけど、
昔、頑張った形跡のあるもの見ると、
「おまえ、それなりに頑張ったな」
って思うんです。
大橋 そうですか。
糸井 「今の自分にその根気ないわ」
っていう時があって。
大橋さんにはない?
大橋 私はないです。
糸井 ぜんぜんないですか。
大橋 ぜんぜん。
むしろ、一時期は、
あれは恥かしいから、
何とか処分しなきゃと思ってましたから、
見たくもなかったです。
糸井 女って、別れられるんですねえ。
よく言う、恋人との別れの話と同じですよね。
つまり、その頃アホだった自分も含めて、
男は意外とちょっと噛みしめたりして
ホロリなんてしてるのに、
女の人たちは「ああ、あの人?」みたいに。
大橋 そうですね、わかります。
すごく。それですよ。
糸井 もう産んじゃった子どもで、
どっか行っちゃってるんですね。
そこはね、たぶん真似できないタイプのことだ。
ぼくはどんなに女になっても、ダメだ。
大橋 そうですか。
そうすると、私、
女でよかったかもしれないですね。
わりと前のことはどんどん、
まあいっか、みたいなので来ましたので。
糸井 ぼくはたぶんね、
糸井事務所の社員だったらわかるんですけど、
それができるほうのタイプなんです、いちばん。
昔の作品とかもとっとかないし、
「ああ」って言っておしまいにしちゃう人なんですが、
これはよかったな、みたいのを自分で見つけて
喜んでる時があるんですよ。
『黄昏』っていう本のこと、平気で、
「ここがおもしろいですから」
って言っちゃうんですよ。
大橋 いや、おもしろかったですよ。
糸井 いや、ぼくは変なんです。
もう、だって、終ってるんだから。
で、本人なんですから。
何でオレが本人なのに笑ってるか。
おかしいんですよ。
でも、ちょっとぼくにそういうところがあって、
出ちゃったものに対して
他人のものと一緒に対するんですね。
よく「それいいね」っていうと、
「糸井さんが言ったんですよ」
っていうのはよくあって、
そのぐらいまで自我がないんですよね。
大橋 そうなんですか!
糸井 さっきちょっとナルシストって言いましたけど、
逆に自我がないんですよね。
他の人のも正直にできるし、
自分のもできるんです。
で、だいたいなくてもいいやって言いながらも、
あったらたのしんじゃう、みたいな。
大橋さんのそのスッと切れちゃうっていうのは、
今日初めて聞きました。
大橋 いや、何か、それって、
よくないなというふうには、
時々思うんですけど、しょうがないです。
糸井 でも、中で、
今の自分にはできなくて、
その時の自分にできることって
いっぱいあるじゃないですか。
大橋 そうですね、ほとんどそうですね。
糸井 その時に、
「偉いじゃん、おまえ」って思いませんか?
大橋 思わない。
糸井 うわーっ。
大橋 思わないっていうより、
しょうがないの。
あんまり、そういうふうな考えはないです。
糸井 前に同じ話したかもしれないですけど、
劇作家の野田秀樹さん、
彼が40いくつになってから、
20代の後半に書いた芝居を
自分の演出で再演して、
これは20代なんですと。
で、楽屋で面白かったみたいな話になって、
昔、書いた時の自分っていうのは
今の自分には書けないものを書いてるんだけど、
演出は今の自分のほうが絶対うまいと言って、
そういうもんなんだっていう話をしてる。
大橋 ああ、なるほど。
で、ご本人も楽しまれたわけですね。
糸井 そういうことですね。
で、29の時の自分がやってたことは、
今のオレにはできないけれど、
演出をして、もっと面白くしてるんです。
そういうことを、ぼく、
わりに納得できるんですね。
  (つづきます)

2009-12-21-MON


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