糸井 | ぼくは、男を代表できるタイプの 人間じゃないんですよ。 ゲイじゃないんですけど、 かなり女になりたいんですよ。 男成分について、どうしてもね、 男がずっと──男の歴史を、 間違って作ってきたような気がしてて。 自分の、男の部分っていうのは、 出さなきゃなんない時以外は、 もう引っ込んでてほしいんですよ。 |
大橋 | えーっ、そうなんですかぁ。 |
糸井 | はい。ですから、 女を見習って生きてるんです(笑)。 |
大橋 | えっ、ウソです、そんな。 そういうふうにみえません。 |
糸井 | そうですか。それは助かります。 別に女装したいわけじゃないんですよ。 でもね、たとえば女装を例にすると、 本当にスカートをはいちゃうと、 何か‥‥要するに予想どおりになるんですよ。 面白くないんです。 だから、スカートをはきたいなと思ってる 自分を大事にしたいなとか。 何とかスカートをはく方法がないだろうか、とかね。 ぼくの知り合いで、 「ダ・ヴィンチ」っていう雑誌の編集長の 変な人がいるんですけど、 この人はありとあらゆる人に対して 憧れを持つタイプの人で、 その人にぼく影響されたんです。 女の子のファッションを描いてる イラストレーターの おおたうにさんっていう子がいて、 本を買ってみんなに推薦しあうページで 「どこがいいかっていうとね‥‥」って みんなで言うわけですよ。 その時、編集長が彼女の本を出してきて、 「女の子っていいな! と思って」って、 女の子みたいな声出して言うんですよ(笑)。 その時、今より、ぼく、男入ってたんで、 「なにそれ?」と思ったんですよ。 何そのうれしそうな感じは、って。 「だって、こうやってね、 この洋服がいいとか、 彼がどうしたとか、 何がおいしいとかっていうのを 話してるのとか、 聞こえるじゃないですか。 いいなぁ〜って思うんですよ」 って彼が言ったんですよ、 満面の笑みで。 その時に、ぼくは彼に まったく差をつけられてると思ったんですよ。 ヤツはオレよりずっと前を走ってると(笑)。 |
大橋 | そうですか。 |
糸井 | いいなぁと思ったんです。 で、「オレは付いて行くよ」って思って、 その日からその成分を肯定することにしたんです。 勉強じゃなくて、 それは経験あるんですよ。 子どもが女の子だったんで、 女の子同士でベチャベチャおしゃべりしてたり、 なんかの時に「カワイイ」っていうキーワードで いろんなものを選んでるのをよく知ってたので、 「それ、いいなぁ」と思ってたんですよね。 |
大橋 | へえ。 |
糸井 | ぼくにはそれはできないんだけど、 変形した形があるんだろうな、 とは思ってたんです。 いやぁ、「カワイイ」でジャッジしたら、 もうどんどん許容量が。 やっぱり、理想は無限に許容する── 何でも「うれしい」になるのがいちばん理想ですから。 そうすると、やっぱり男が 「うん、それはオレはな、ちょっとダメなんだよ」 って言ってるよりは、 「人が喜んでるのが、 オレは何でうれしいんだろう」 っていうので生きようと思ったんですよ。 思ったっていうか、生きようと思ったっていうと 勉強になっちゃうんだけど、 それに対していいなぁと思ったんですよ。 |
大橋 | ああ、そうですか。 |
糸井 | ぼく、今、おんな(笑)。 ですから大橋さんの今の方法も、 想像がつくようになったんです、やっと。 |
大橋 | わかりました。 男をちゃんとやってらっしゃる 男の方っていうか、そういう方は、 理解していただけませんもの。 |
糸井 | そうですか?! |
大橋 | はい。だから、今もちょっとお話聞いて、 糸井さんは大丈夫な人だなって。 |
糸井 | ものすごく大丈夫だと思います。 で、男らしい男として生きてきた 経験もあるんですよ、けっこう。 |
大橋 | ふふふ、なんだか‥‥。 |
糸井 | 男だった時代って、 やっぱり男の子はみんな通んなきゃならないし、 あとやっぱり仕事の現場って けっこう生ぬるく見えてても、 笑ってても試合をやってるっていうところはあって。 で、ぼく、よく若い子に言うんですけど、 「オレはもっと若いときは嫉妬深かったぞ」 って言うんです。 たとえば、映画1本観ても、 いい映画を観れば観るほど落ち込むんですよ。 当時は、皆さん知らないかもしれないけど、 唐十郎さんが出てきた、横尾さんが出てきた、 ゴダールが出てきた、ビートルズが出てきた、 みたいな、1個1個、 「お前らついて来られねえだろ」 っていうものが、ドカドカ出てきてる時代です。 ブラブラしてるだけで、 たとえば新宿歩いて紀伊國屋に入れば、 そういう人たちが出してる本が出てたり。 で、裏に回ったら「ピット・イン」で 日野皓正さんが ラッパ吹いてたりっていうところで、 ぼくらは列に並ぶ側で、 それを素直に喜べばいいんだけど、 いいなあって言うと同時に、 何であいつにはできて オレにはできないんだろうっていう、 ものすごい男の子気分があって。 人に嫉妬するというよりも、 できた作品とか、 物事にすごいやきもちがやけて。 辿り着かないっていうことでね、 もう泣くんですよ。 |
大橋 | エーッ。 |
糸井 | だから、今の「私はおんなよ」のぼくと 正反対のぼくがいて、負けず嫌いで、 もう何かっつっちゃ落ち込んでたんですよ。 たのしいというよりは勝ち負けですから、 ちょっとでも「あ、いいな」と思ったら、 どうやって勝つんだろうとか、 手がかりだけでもつかみたいとか、 そういうことを競争競争で 考えてた時期がやっぱり──。 |
大橋 | ありました? |
糸井 | ありました。ありましたし、 そっちのほうが仕事には合ったんです。 で、でも、同時に今いる自分に至る、 元の自分がいましたから、 たのしくはやりたかった。 そこはだからなんかこう、 ぼくも試合の中で肩で突き飛ばしたり、 転がされたりしながら、 それはそれでそういうままごとを 同時にしてたのかもしれないです。 さっき、控え室で話してますけど、 横尾忠則さんっていう人、 ぼく今はお会いできてますけど、 若い時、会えるよっていうチャンスがあった時に、 「会わない」って言ったんです。 なぜかっていったら、 ぼくのことを誰だか知らない人として、 「ああ、○○さんが連れて来た人ね、こんにちは」 って言われるのイヤだったんです。 わかるでしょう、その負けず嫌いぶりが(笑)。 「誰かさん」じゃなくて、 糸井さんと横尾さんが会うっていうようなことが、 そういう日が本当に来たら、それはいいし、 来なかったらオレは負けたんだということで、 今言ってるカワイイもの好きな私とは やっぱり両方あって、今がある。 だから、大橋さんのおままごとの部分っていうのの、 「今」側に、今ぼくが告白したように、 ひょっとしたら悩みやら暗黒が どこかにあったのかもしれない。 落ち込んだりは、まずはしますよね。 |
大橋 | そうですね。 |
糸井 | 落ち込みって、なんていうんだろう、 勝ち負けと関係ないところで あんまりなかなか出てこない。 だから、たとえばデザイナーとの 闘争の話も前に聞きましたけど、 やっぱりパンチ繰り出してっていうか、 その細腕で。 |
大橋 | でも、勝ち負けという、 そういうのはあまりなかったです。 ただ、デザイナーのことでいうと、 せっかく私がここまで描いたのに、 何でこんなことするの、みたいな、 すごい次元の低いことで。 |
糸井 | いや、次元が低いっていうか、 要するに最終的な答えが 自分の望んでたものじゃなくなるのが イヤなんですよね、つまり。 |
大橋 | どこかでやっぱり違うことを 望んでるんですけれども、 それが、あまりにもちょっと 飛躍したようなことになってしまうと、 「ちょっと待ってよ」みたいなことがあって、 それでケンカはしてます。 でも、そういう私の状況みたいなものも、 相手の力みたいなものも 客観的に見れませんでしたから。 だからケンカみたいな形に なったんだと思うんですね。 |
糸井 | 選手同士になっちゃうんですね。 監督がいなくてね。 それ、仲裁してる人もいたんですか。 |
大橋 | 仲裁する方が一応、 私の味方ふうになっててくれて、 本当はそうじゃなかったと思いますけれども、 わからず屋だと思ってたかもしれないんですけれども、 でも一応、私が専属のイラストレーターで、 その方が一応その時に 手伝ってくださるデザイナー、 みたいな立場だったので、私のほうの‥‥。 |
糸井 | 大橋さんのいいようにしたいんだと。 |
大橋 | でも、それで、その方と会って、 いろいろ仕事をしてもらって、 ケンカして、また戻ってもらって、って、 あの平凡出版の『平凡パンチ』の時代は、 もう私はあれがなかったら ずっと続けてこれなかっただろうというぐらい、 すごいものでしたけれど。 |
糸井 | それがなかったら、 きっとままごとのエリアが狭くなっちゃう。 |
大橋 | もう狭くて、皆さんに通じるようなことは、 おままごとでできなかったと思います。 |
糸井 | お人形並べてたのしいおままごとしてる時に、 急にゴジラのプラモデルを入れられたみたいな。 |
大橋 | そうなんですよ、まったく。 |
糸井 | 今だったら、ゴジラ入れられても。 |
大橋 | 今はもう好きですし。 |
糸井 | 遊べますもんね。 それはいい運ですね。 |
大橋 | そうです、 すごくよかったと思います。 |
(つづきます) |